手造り真空管アンプの店




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店主コラム 2008年7月分〜9月分





2008年9月21日

<三菱 ダイヤトーンスピーカーの試聴>
 昨日(20日)三菱電機エンジニアリング(株)でダイヤトーンスピーカーシステム<DS−MA1>を試聴してきた。これは私のお客様がこの試聴の予約を取っていただいたのでそれに同行した。この試聴は予約さえすればいつでも試聴可能で三菱の方が対応していただけるらしい。昨日も我々4人だけの試聴であるけれども、休みにもかかわらず三菱の営業と設計したエンジニアの方がわざわざ対応していただいた。このダイヤトーンスピーカー<DS−MA1>は1本105万円もする高級スピーカーで、このような高級機器をゆっくり試聴できる機会はめったになくその意味では有意義な時間を過ごせたと思っている。事前に使用予定機材(アンプ、CDプレーヤー)のリストもいただき期待に胸を膨らませて、CD持参で参加した。
 最初エンジニアの方から技術説明をひととおりしていただき、新しい技術に感心しながら説明を受ける。詳しくは理解出来ないけれど「ふーん」と頷きながら話を聞く。これは造った人の思いいれがあるから真面目に聞かなければならない。30分以上話を伺った。そのうちに余り説明が長いと試聴する時間が少なくなるということで、いよいよ試聴に入った。試聴につかう機器はこれも高級機器だ。CDプレーヤーはEMM Labsだったか、パワーアンプはPassのX600.5(モノアンプ)2台という超豪華オーディオシステム。合計すると800万円程度になる。こんな装置で聴く機会はめったにない。
 さて最初三菱が用意されたCD(SACD)を聴く。最初はピアノを聴いた。モーツアルトの曲だ。最初の印象はSNが良いと感じたが、特に感激するというほどにはならない。その後オーケストラ。ジャズも聴かせてもらったがどの程度優れているかは分からない。普段聴いているCDでないとなかなか比較が出来ないからだ。その後、いよいよ各自持参したCDを聴く番になった。最初はこの企画をしてくれたNさんだ。数曲の頭のところを数分聴いてその印象を感じる。ここでもまだ私にははっきりとした感想はつかめない。次に私の番になり3曲を聴いた。用意したCDはオーケストラ曲、弦楽三重奏曲、レクイエムだった。最初オーケストラ曲を聴く。以外と音楽がつまらない。弦楽三重奏曲を聴いても同じ印象だった。そのうちに私なりに原因がつかめた。それは最初良いと思われたSNがそれ程良くないと思われた。これらのCDにはもっと音の余韻や響きが含まれているがそれが聞こえてこないと思われた。だから音楽が表面的でつまらなく聴こえてしまった感じがした。演奏に含まれる微妙なうねり、強弱が聴こえてこないので演奏がつまらなくなってしまう。レクイエムを聴いてもこの印象は同じだった。私の後はSさんがアンプをユニゾンリサーチの真空管アンプに替えジャズを試聴した。音の厚みは感じられるものの少し帯域が狭くなった感じがした。
 試聴会後Nさんと一杯やりながら音の印象を話し合った。やはり同じ印象で音楽が楽しく聴けた程ではないということだった。説明ではピアノと同じ素材を使っているからピアノの再生が優れているというふれ込みだが、でも演奏が楽しく聴けるというのとは違う。
 初めてこのようなメーカー主催の試聴会で高級機器を試聴でき良い勉強になった。私も三菱のエンジニアも真面目に一生懸命モノを造っている。しかし出てくる音というのは最後は感性の結果が現れるような気がする。良い再生音の裏づけには技術が当然必要だが、音を表現する段階ではその人の感性で表現される。ここらが難しいところだ。
 今回の音の印象は私の好みの問題であって人それぞれ個性があるし、またアンプにも問題があるのかもしれない。今回は自分のCDで試聴できたのは良い経験になった。
 音は値段では決まらないのは分かっているが、今回何が違うのか結論は分からなかった。






2008年9月11日

<高D.F(ダンピングファクター)アンプの設計>
 今新しいアンプを設計している。毎回どんなアンプにしようかとお客さまの聴く環境や希望価格などをお聞きしてから、大まかの仕様をまとめそれをベースに話を煮詰めていく。今回はアダージョを貸し出ししたらそのサウンドを気に入っていただき、アダージョと同等以上の音を希望されている。ただし希望価格はアダージョと同じではないし、仕様も異なるので同じ物はできないが、当然設計を引き受けることにした。今回のアンプの特長はお客様のご希望もあり高D.Fを狙ったアンプになった。D.Fが音質のどこに主に影響するかは前回のコラムで書いたとおり周波数特性に大きく影響する。音が良い条件として周波数特性がフラット(平坦)であることは必要だが、周波数特性がフラットだからといって音が良いとは限らない。しかし、いくら音が良いと言っても周波数特性がうねっていたら、それは正しい評価とは言えないだろう。だから音を良くする条件として、周波数特性をなるべくフラットにしたい。そこで今回は周波数特性をうねらせないために、高D.Fを狙ったアンプを設計している。それも真空管アンプでは世界最高を狙っている。私の設計する高級パワーアンプのD.Fは20以上ある。世の中の真空管アンプでは20以上のD.Fを持つパワーアンプは少ない。私の知っている限りマッキントッシュのアンプが20以上と聞いている。
 今回はさらにその上を狙いD.Fを40以上に出来ないかと思っている。以前アダージョで実験的に40以上の数値を出したことがあった。今その時の手法を使って設計している。真空管アンプで40以上のD.Fを出すことはかなり難しい。普通に設計してはこの数値に至らないと思う。だからいろいろなテクニックを使いこの数値のD.Fが出るように工夫している。お客様のアンプのご希望ではそれほどパワーもゲインも必要ないと言っていただいているのがせめてもの救いだ。全てのスペックで最高を狙うことはかなり難しいが、例えばゲインを減らしても良いとなれば、余ったゲインを負帰還にまわしD.Fの特性を上げることも考えられる。単純にはいかないがそのような手法が考えられるからである。
 D.Fを上げる方法はいくつかあるが、コストの制限もありその手法も限られてきて、どこまでそれが実現するかは造ってみなければ分からない。しかしこんな要求のアンプを造るのは非常に楽しいことだ。世の中にあまり存在しない物を知恵を出して造るのは、エンジニアとして最も面白いところだ。それももしシンプルに実現出来たら最高の喜びとなるであろう。私自身もどんな音を出してくれるのかを楽しみにしている。

 私は最近アンプの音質はノイズと周波数特性が重要なファクターではないかと思っている。ただしこれは聴感上のノイズと実際にスピーカーを繋いだ時の周波数特性だ。そうすればアンプは忠実にCDに記録された音色や余韻を再現してくれると思っている。
 これまでより更に周波数特性を改善していったらどんな音が再現してくれるのだろうか。

 それにしても、まだ物もない音もないアンプを注文していただけることに感謝しなければならない。お客様は私を信じて注文していただいているので、私もそれに応えなければならない。だから毎回そのお客様のアンプに全精力を傾けて設計している。そうしないとお客様に申し訳ないからだ。
 私自身もどんなアンプが出来るか楽しみにしている。







2008年9月1日

<ダンピングファクター>
 今回はダンピングファクター(D.F)について述べてみたい。D.Fはオーディオ用語でアンプの出力インピーダンスの性能を表す言葉だ。
 D.F=8/出力インピーダンス 
で定義され、D.Fはアンプの出力インピーダンスの逆数となっている。アンプの出力インピーダンスが8Ωの負荷に対しどの程度の小ささを表す用語だ。D.Fが大きいことはアンプの出力インピーダンスが小さいことを表す。出力インピーダンスとは簡単に言えばアンプの信号供給能力を表す言葉でこの値が小さい方が、たくさんの電流をスピーカーに供給でき、かつ電圧の変動が少ない。私は真空管アンプを設計する時このD.Fを大事な設計要素とみなしている。それはD.Fがスピーカーのドライブ能力に強く影響すると考えているからである。
 さて、このD.Fがオーディオ再生にどのように影響するかを考えてみる。D.Fはおおよそ以下のことに影響する。
1、スピーカーの過渡特性。
2、スピーカーの周波数特性

・スピーカーの過渡特性について
 ダンピングとは制動という意味で、電気回路ではRLC回路で制動係数k(ダンピング・コンスタント)がダンピングという言葉が使われる。オーディオではスピーカーの制動性能を決めるという意味でダンピングファクターと呼ばれているのだろう。
 さてそれではどの程度のD.Fの性能がスピーカーの過渡特性に影響するかを考えてみると、結論から先に述べるとD.Fが10程度以上あればそれ以上に影響は及ぼさない。その理由はスピーカー自身に抵抗成分Rが必ず存在するので、そのRの1/10程度の出力インピーダンスでドライブしても、過渡特性はスピーカー自身の抵抗Rが優勢で出力インピーダンスにあまり影響しないと思われるからだ。昔の真空管アンプ(あるいは現在でも無帰還アンプ)などでD.Fが5以下なら過渡特性に影響するだろが、真空管アンプでも10以上あれば影響はないだろう。(Rが1割増えてもkは大きく変わらない)ただし最近にスピーカーでは注意する必要がある。それはスピーカーの定格インピーダンスが8Ωと言いながら実際の抵抗成分は4Ω以下になっている場合があり、この時はD.Fは実際には半分の性能しかないこととなるからである。(過渡応答ではアンプの出力インピーダンスはスピーカーの抵抗成分との比が重要である。)
 同様にスピーカーの逆起電力もD.Fが10以上あればスピーカーの抵抗成分が優勢になるので、こちらもあまり関係ないと思われる。

スピーカーの周波数特性について
 アンプの出力インピーダンスが与えるスピーカーの周波数特性への影響はかなり重要な項目と考えている。以前このサイトでもB&W805の例を用いて、アンプの出力インピーダンスがスピーカーの周波数特性に与える影響について述べた。最近のスピーカーはインピーダンスの変動が大きいので、特に真空管アンプを設計する場合には、このD.Fをなるべく大きくしないと実際現代スピーカーに接続したとき周波数特性の悪いシステムになってしまう。それではどの程度のD.Fが必要なのだろうか。
 これについては私の経験からD.Fは高性能アンプでは最低20、できたら40以上を欲しいところだが、その理由はこうだ。
 
アンプの高域特性を改善していた時、10KHzの特性を0.5dB、20KHzを約1dB改善したら、聴感上で高域の伸びが改善された経験がある。また、雑誌に書かれていたことだが、元テクニクスのエンジニアの石井伸一郎氏もスピーカーの試作をしていた時のこと、0.5dBの感度の違いがツイーターの高域の伸びに影響していた経験があったそうだ。人により音の感じ方は異なるのだろうが、耳が慣れてくると、0.5dBの感度差まで感知するようだ。私のアンプの0.5dBのF特改善の場合、パワーでは1dBの改善になるので、スピーカーの感度で言えば1dBの改善になり、聴こえるのは当然かもしれない。このようにアンプの周波数特性というのはおろそかにはできない。特に実際のスピーカーを接続したときの周波数特性をフラットにするには、是非ともアンプの出力インピーダンスを小さく(D.Fを大きく)したい。

 B&W805を接続するとスピーカーインピーダンスは4Ωから30Ω位まで変動する。これにD.F20のアンプでドライブすると周波数特性は0.5dB位変動する。するとパワーだと1dBになり、この変動を感じる人もいるであろう。だからもっとD.Fを40以上も取れたら良いと思うが、実験レベルではデータは取れているがまだ製品としては存在していない。

 昔からダンピングファクターというオーディオのある性能を示す項目があり、これは特に真空管アンプでは非常に重要な性能指数と考えているが、現代スピーカー事情などを考えるとダンピングファクターという言葉と定義はもう時代遅れの古い考え方のように思える。

このサイトでアンプの出力インピーダンスがB&W805の周波数特性に与える影響については下記を参照して下さい。

このサイトの商品とサービス > メヌエットの技術説明




2008年8月21日

<真夏の安眠法>
 またタイトルが前回に引き続き<真夏の・・>になってしまった。
 ここ数日は少し涼しくなったが、それでもまだ夏は暑い。地球温暖化やらヒートアイランド現象やら特に都市は毎年暑くなる傾向にあるようだ。私は横浜の郊外に住んでいて、都心よりは涼しいかとも思うのだがそれでもかなり暑い。今年の気象現象を見ると都心では夕立などで雨が降っているが、私の住む所ではほとんどひと月ほど雨が降っていなかった。先日久しぶりに夕方に雨が降り涼しい思いもし、草木にも恵みの雨となった。
 こんな暑い日が続くと夜は寝苦しくなり、寝不足気味になる。私の場合、数年いろいろ試した安眠法の中でよい方法がみつかり、あまり寝苦しい思いをしていないので皆さんに紹介しようと思う。エアコンをつけて寝れば安眠できるのは承知なのだが、私の場合エアコンをつけて寝ると咽喉をやられてしまう。以前車の運転で5時間近く強めのエアコンに当たっていたら咽喉をやられ、それで風邪をひいてしまい、旅館で寝込んでしまってせっかくの旅が風邪を治す旅になってしまった苦い経験がある。今でもエアコンをかける時はいつも咽喉を湿らせ、直接冷気に当たらないようにしている。
 さてこんな弱点を持つ私なので、エアコンを使わないで如何に涼しく寝られるかを試した結果以下のような方法をとるようになった。


1、シーツの上にゴザを敷きその上に寝ます。ゴザは通販で買ったものだが、これは大変優れもの。背中に汗をかかないで寝られる。これでかなり涼しく感じられる。

2、枕は氷枕を使う。これは市販されている冷凍して使う氷枕を使用しています。ただし実際に使用するときは何重にもタオルを巻き、温度と高さを調整します。頭を冷やして寝るとこれも汗止めになります。ただ頭を冷やし過ぎると逆に頭が痛くなるので程よい温度になるようにタオルで調整します。

3、かけ布団はタオルケットです。私の場合これで寝ると夜寒くなるときがあり、蓑虫のように包まって寝ているときがあります。これは体温調整用です。

4、寝室のドアは開けて寝ます。寝る前、寝室はエアコンで涼しくしておきます。我が家の場合寝室の隣の部屋が居間になっているので、そこも涼しくなっていて、寝るときは全ての部屋のエアコンは消しますが、隣室とのドアは少し開けて寝ます。人間が寝るとその体温で部屋が温められ室温が上がりますが、隣室とのドアが開いているとそこから冷気が入ってきて、室内の温度上昇を弱めてくれます。


 これが私の真夏の安眠法です。個人差もあるかもしれませんが、私はこれで汗はほとんどかかず、ぐっすり眠れます。時々寒くてタオルケットに包まるほどです。
 ここ数日涼しい日もありますが、まだ残暑は続きます。寝苦しくて眠れない方がいらっしゃいましたら、試してみて下さい。







2008年8月11日
<真夏の大仕事>

私は今年、町内会の役員をしている。任期1年の持ち回りの仕事で、何百世帯の町内会の中のある地区の地区理事という役目だ。この地区は75世帯で、班が6つに分かれそれぞれ班長さんがおり、この地区での町内会活動のまとめ役というところだ。その町内会の活動の中で最も大きなイベントである夏祭りが8月2日に開催された。祭りといっても神輿や山車が出るわけではなく、公園内で出店や高校生・中学生の演奏をみんなで楽しむという小規模のものだが、今年、私の地区は出店の焼きそばを売る係りになってしまった。400食分を作り販売するという話だ。その活動を地区理事としてボランティアで班長さんたちと行うというものだ。当然こんな仕事はこれまで経験なく、どのように作っていくかなど最初はまったくアイデアはなかった。しかしお祭り前の町内会の集まりでこれまでのやり方などを聞いてみると、材料・調理器具などは別の役員さんが全て準備して下さるようで、私の仕事は主に焼きそばを作るための下ごしらえ、調理、販売など人が必要としているところを如何にスムーズに運営していくかという役目であった。事前に班長さん達との打ち合わせや理事会での議事録の報告などそれなりの準備を整え夏祭りを迎えることとなった。前日の1日は朝7時より、テント張り、机の準備、明かり用のちょうちんの準備など力仕事があった。祭り当日は10時より焼きそばの材料の下準備から始まり、午後2時より調理が始まった。調理用鉄板が1台だけだったので忙しい調理になってしまった。2時より5時間以上に渡り作り続けた。最初は主婦の皆さんが作っていたが、次第に量の多さ、夏の暑さと火の熱さで重労働になり男性人も手伝うようになった。もちろん私も作った。交代で作り続け、終わったのが夕方7時過ぎ。さすがに皆さんお疲れのようだった。トラブルもなく、完売できたのが唯一の慰めになった。翌3日は朝7時より撤収作業を行い、全ての作業が終了した。暑い真夏の一仕事がやっと終わった。

普通はこれでゆっくり出来るはずなのだが、実は私にとってはこの日(3日)はこれまでにも紹介した6CA7pp(UL)のアンプの納入日だったのでまだ仕事が残っていた。アンプの完成度は自分では十分と思っていても、お客さまが満足していただけないとそれは十分とは言えない。特に私の商売のような手造り真空管アンプというのは、オーダーをいただいた時点では影も形もなく当然どんな音になるかも分からない。出来上がった商品がお客様のイメージと異なることもありうる訳だ。だから納入の時のお客様の反応は大変重要だし私も緊張する一瞬だ。今回は初めて木製パネルを採用し、その出来栄えも心配だし、音も気に入ってくれるかも心配だ。ところがそれは全て杞憂に終わった。心配されたパネルは大変喜んでいただけた。実際ラックに納めたアンプをみるとスピーカーの色に近いし、部屋の雰囲気を壊していない。なかなかの出来栄えだ。更に音に関してはスピーカーの位置についてのアドバイスをして、レイアウトを少し変更し音の厚みを増した。最初アンプを取り替えても、音の厚みに乏しいように感じたので、センター付近の音が出るように調整した。そして新しい真空管アンプへの変更もあって、見違えるような音に変身した。
 お客様の音の評価も上々だ。これまでのアンプが普通のガラスとすればこの真空管アンプはクリスタルガラスのようだとか、音がはっきりしているが聴いて疲れないとかまずまずの評価をいただいた。奥様からももったいない位の音と評価していただいたようだ。
 こんな時がアンプ職人として一番嬉しいときだ。そのお客様だけのために全力でエネルギーを使っている。手造りの一品というのはかなり神経を使うものである。やり直しがきかないからだ。やり直しをしていたら時間もコストも信頼も失ってしまう。緊張しながら作っている。だからお客さまに喜んでいただいた時が、製作の終わりの時だ。

こうして8月3日に2つの大仕事が終わった。真夏の暑い時期に準備を進め無事役目を果たした。

7月末は夏祭りの準備とアンプの仕上げで神経も幾分高ぶったが今はそれらが終わりホッとした状態になっている。気分的には夏休みを取りたいが、また次のお客様のアンプが控えている。これも要求に応えることができるか難問が待ちうけているが、それをクリアーしてお客さまが喜んでくれるのを期待してまた挑戦しようと思っている。







2008年8月1日
<6CA7pp(UL)プリメインアンプ>

6CA7pp(UL)プリメインアンプが完成した。今回このアンプは2つの新しい試みをしている。第一は電源回路をブロック化したこと。第二に前面パネルに木製パネルを使用したことである。電源回路のブロック化はすでにこのコラムでも紹介したように、新しいリップルフィルター回路の採用と、たくさんの定電圧電源回路を一つにまとめ、配線とアンプ回路のレイアウトの向上を狙ったものだ。その効果はLRのチャネルセパレーション特性に現れた。電源回路の低インピーダンス化と合理的な配線の効果が出て、20Hzから7kHzまで95dB以上確保し(2kHz以下で97dB以上)20kHzでも85dB以上のLRのセパレーションを確保している。ほとんど漏れは聴こえない状態だ。何故こんなにセパレーションに拘って設計するかと言えば、私はノイズの少ないアンプを造りたいからである。演奏者の微妙な表現を再現するためには出来る限りアンプのノイズは少なくすべきと考えていて、クロストークも一つのノイズと考えられるからである。このような動作上で発生するノイズは共通インピーダンスをもつ配線などでも発生し、音楽再生には有害な音と考えている。
 木製パネルは初めて採用した。これは私の知人にお願いして製作してもらった。このようなパネルを作るには道具と経験が必要だ。特に良い道具を持たないと正確な作業が進められない。木材は天然木のチーク材を使用した。表面は塗装せず磨きによって光沢を出している。
 今回このアンプを仕上げていく過程でさらに新しい技術が生まれそうな気がしてきた。生まれたと過去形になっていないのは、もう少し実験して内容を確かめなければならないからだが、その技術とは位相補正の技術である。位相補正と言うのは負帰還回路での回路の安定性を確保するときに必要な技術だが、これまで経験上、位相補正で音質が変わることを認識していた。位相補正が十分でないアンプは何故か高域がすこし強調される音がするのを経験していた。今回、アンプの音の仕上げで位相補正を見直ししていたら、新しい発見があり、それがこの位相補正と音との関係が見えてきたのである。今回のアンプがこの新しい位相補正技術を使った第一号のアンプとなった。まだ詳しい話は出来ないが、内容を詰めていって、いつかこのホームページで発表しようかと考えている。

真空管アンプも作っていくと新しい発見があり、それにより進化している。アナログ回路は面白い。特にオーディオ用のアンプと言うのは、人間の耳の感度が素晴らしいのでごまかしが効かない。だから真面目に作っていかないと、音に現れてしまう。


6CA7pp(UL)プリメインアンプ。
出力 25Wx2。
ツマミは左より、パワースイッチ、音量ボリューム、入力セレクターの順になっている。パワースイッチに回転型を採用したのも初めて。








2008年7月21日

<音楽の奥深さ>
 最近、音楽に関してちょっと感ずることがあったので紹介したい。

一つは、知人の家を訪れたときのこと。この知人はスタインウエイのピアノを所有している。それもコンサート用の大きなグランドピアノだ。これまでもその音を聴かせていただいたことはあったのだが、今回は数日前にピアノの調律が終わったばかりということで、また聴かせていただいたらそれは素晴らしい音をしていた。それを言葉でどう表現してよいかは分からない程素晴らしかった。なかなか直ぐ近くでこのような一級の楽器を聴く機会は少ないのであるが、私の経験ではこんなピアノの音は聴いたことがなかった。低音は太くて張りがあり、その響きが素晴らしい。良くは分からないのだが、倍音成分が普通のピアノと違うのではないかと思われるほど。高音も芯があり音が痩せてなく心地良い。この知人はピアノはまったく上手ではないが、それでもピアノから出てくる音を近くで聴くと、その音に包みこまれて体に響く。きっと一流のピアニストが弾いたらもううっとりしてしまうだろうことが想像できた。こんなことが出来たらそれは最高の気分になるだろう。それが出来ないからオーディオという技術が発達したのだが、それでも生の一級の楽器の音は表現できていない。まったく違う世界の音のように感じた。

二つ目の話題。昔の職場のOB会の飲み会で、まだ現役の後輩が今度アマチュアながらバッハの<無伴奏チェロ組曲、第2番>を演奏する予定と聞いた。2週間後くらいの演奏を控え、毎日楽譜を見ての勉強中とのこと。そこでこの組曲の楽譜を見せてもらった。初めてこのような曲の楽譜を見て驚いた。バッハの楽譜にはテンポの指定も、強弱の指定も何も書かれていなかった。このバッハの楽譜は当然五線紙上には音程が書かれているが、他の指定はトリルくらいしか書かれていない。テンポ、フォルテ、ピアノ、スラー、スタカート、クレッシェンド、デクレシェンドの類の音を変化をさせる要素の指定がオリジナルにはまったくなく、これらは全て演奏者本人の曲の解釈で記入されていた。私はこのような曲のイメージを膨らませる、強弱の指定も細かくバッハが指定しているものと思っていたのだが、それがまったく無いということに驚いた。だから演奏者がその曲のイメージ(解釈)作っていかないと練習曲のようなつまらないものになってしまうらしい。それで作り上げたイメージ(解釈)を頭で反復練習しているらしい。一つ間違えるとその後の演奏まで影響してしまうので、こと細かく練習するとのことだ。それにしても演奏者のこのような努力があるからこそ、音楽が楽しく聴けるものだと感じた次第。
 グレングールドの2度目の録音のバッハの<ゴールドベルク変奏曲>は、それまでの解釈と異なった名演奏として有名だが、その訳が分かったような気がした。恐らくこれも細かい指定がないので、グレングールド自身の新しい解釈で演奏できたのだろう。

オーディオは生演奏が聴けない人のために発達した技術であるが、それでもまだ楽器職人の技、演奏者の技量を全て再現することは、かなり難しいことであることを感じてしまった。







2008年7月11日

<アンプ確認作業>

 今回このコラムに何を書こうか少し悩んでいる。悩んでいると言うより書く時間がなくそれで困っている。このコラムは10日ごとに内容を更新しているが、今はアンプの納期が今月にあり、このコラムの内容を考えたり、書いたりする気持ちの余裕がないのが実情だ。だから何かテーマを見つけてコラムを書くより、今設計しているアンプの作業内容を書くことにした

今設計しているアンプは6CA7pp(UL)のプリメインアンプ。プリメインアンプと言ってもハイゲインのパワーアンプで、それにファンクション切り替えスイッチと音量ボリュームが付いている構成になっている。以前にも書いたがこのアンプのトランスの入手に約ひと月もかかり、その分今シワ寄せが来ている。お客様には少しの納期延長を依頼しているがそれでも焦りは少しある。すでに配線は終わり回路動作も出来ているが、この時期最も神経を使う。普通、回路設計して電源を入れ無事動作し、出力波形が得られればそれでOKではないかと思われるかもしれないが、私の場合それでは済まされない。狙った特性がきちんと出ているか、各部品の動作が正しい状態になっているかを丁寧にチェックするからである。この動作の安定性はアンプの信頼性に関わるので念入りにチェックしなければならない。今その作業をしているので神経を使い、このコラムを書く余裕がないのである。

今回の設計チェックで最初に変更をしたのはアンプの裸ゲインを増やしたことだ。プリメインアンプはハイゲインのパワーアンプになっているので、裸ゲインを通常より大きく取らないと、NF量が減り出力インピーダンスが高くなってしまう。予想より裸ゲインが得られず、そこで1段、2段目ともゲインを大きくした。しかしただNF量を増やしただけでは不安定になるので位相補正も確認しなければならない。こういう細かな作業を続けやっと満足できるゲインまで上げることができた。次に確認したのは電源の設計余裕だ。チョークトランスを使わず半導体によるリップルフィルターを採用しているが、特に電源投入時の突入電流の測定をしている。これもかなり神経を使う。ストレージオシロが無いので、デジタルテスターのピークホールド機能を使い、このインラッシュ電流のピーク値を測定している。出力管のバイアス電流を変えても影響の無いことを確認しながら、部品の電圧、電流、電力が仕様内に入っているかを確認している。以前、特性測定中に誤って回路をショートさせて部品を壊したり、半田がテンプラ(きちんと半田されてなく)で壊してしまったこともあり、この動作確認は結構神経を使う。ここでも部品のディレーティングのため(定格以下で余裕を持たせること)3点の抵抗を容量の大きなものに変更した。過渡状態での動作は作って見なければ分からないことが多く、実際の動作状態から判断して変更している。温度特性なども実測が重要になってくる。

今日(10日)はこの動作確認まで進んだ。動作確認が済めば次はアンプ特性の測定、ヒアリングと続く。まだ作業がある。今は動作確認がほぼ終わり、少し頭がボーとした状態でこのコラムを書いている。たかが真空管アンプと思われるかもしれないが、内部に400V近い電圧がかかる製品となれば結構神経を使うものである。

写真は内部の様子。中央に電源トランス、電源回路が配置され、両端にアンプ回路がある。中央の電源回路は以前紹介した電源ブロック。今回実際のアンプ回路とつなげての電源回路の動作確認にちょっと時間を要した。







2008年7月1日

<クラス会>
 先日高校時代のクラス会が開かれた。我々のクラス会はここ数年は良く開かれる。今回も2年の間隔を置いて開かれた。ちょっと間隔が短いように感じられるかもしれないが、歳と共に昔に返る気持ちが強くなってきたからかもしれない。ただ今回は2年前にクラス会が開かれた時、担任の先生が用事で欠席されたので、先生に近況を報告する意味では久しぶりのこととなった。
 我々は50代後半になり定年も控え、人生も後半にさしかかっている。これまでは仕事、子育てといろいろ頑張ってきた世代だが、この歳になるとこれまでのエネルギーも少しずつ減少してきて、また昔に返る気持ちが強くなる。そんな気持ちで杯を酌み交わすのも楽しいひと時となる。

ちょっと前、ある雑誌のコラムに面白い記事が載っていた。おおよそ次のことが書かれている。

 *「同窓会にも波がある。卒業後まもなくは集まりもよい。30代になると仕事、結婚、育児と忙しくなり出席する時間が取れなくなる。またこのころから、社会での競争の最初の結果が出始め、同窓会が厄介なものとなる。つい最近まで学生だった男が、立場と機会を与えられ、小さな大物となっていたりする。・・・・・嫌な言い方をすれば、同窓会はかつて同じだった者が、同じではなくなったことを見せつけられる場所となり、足が遠のくのだ。しかし、そんなことも卒業して4、50年も経てば、神様は運、不運を公平に与え、人生の収支表はさほど変わらなくなる。それに、まさに平等にやってくる<老い>に勝てる者はいないと思うころから、再び同窓会は活況を呈する。」

このコラムを数週間前に読んで、今回のクラス会に出席して見るとこの同窓会のコラムは真実を良く突いている。我々のクラス会でも酒の影響もあり、まだ少しは自慢話がない訳ではないが、おおむね皆は学生時代の学生に戻って話しが出来、まったく嫌な気分になることもなく時間を過ごせた。まあ私の周りには自慢するほど、立派な人生、立場になった人物はいないということなのだが。社会的地位で言えば私が一番低い(?)かもしれない。部下はいない。収入は凄く少ない。主夫の仕事で家事もしている。日本の社会的通念からみたら駄目夫なのだが、自分は結構楽しんでいる。でも逆に同級生の女性からは一番進んでいる夫婦の形と言われたのが嬉しい。挨拶で真空管アンプの宣伝をしたら、何人かが質問をしてくれ、このような商売でも興味を持ってくれたのも嬉しい気分だ。
 宴会後先生とちょっとお話出来たのだが、先生(数学の先生だった)も高校時代6V6という真空管でアンプを作ったことがあったそうだ。私も高校生時代に初めて真空管アンプを作り、それがきっかけでエンジニアの道に進み、それが今でも一人で真空管アンプを作っている。私の場合は子供の頃からの<物造り>の楽しみを今もまだ続けている。

次回は定年を迎えた歳にまたクラス会を開こうと言って分かれた。なぜか我々のクラスは現在教員をしている人が多く、今は皆さん立派な校長になっているのだが、定年を過ぎそれぞれの職業上のタイトルが取れた時にまたみんなと会うのが楽しみになってきた。

*本編で紹介したコラムは
 アゴラ 2008年6月号 「言葉とこころ」 文 船曳建夫 から引用したものです。








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