手造り真空管アンプの店




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店主コラム 2008年10月分〜12月分





2008年12月21日

<今年を振り返って>
 もう今年最後のコラムになってしまった。今年1年は何をしたんだろうと考える。世の中、今は100年に1度の大不況に見舞われていて、そんな悠長なことを考えている暇などないと言われるかもしれない。会社経営者は何とかしなければこの先生きていけない思いだろう。大会社ばかりでなく、中小、あるいはサラリーマンでも厳しい状況にある。なんでこんな状況に一気に悪くなってしまったのか、皆さんアメリカの経済政策を内心恨んでいるのではないでしょうか。
 さて自分のことに戻ろう。商売は相変わらずポチポチだし、世の中の不況が大きく影響するほど商いをしていない。まず借金をしていないので気が楽だ。今年はアンプの技術的な内容も少しはアップしてきた。外観もウッドパネルの採用など機構的な進歩もあったし、世界最高のD.F(ダンピングファクター)を誇るアンプもできた。特にこの高D.FアンプはD.Fと音との関係が以前より見えて(聴こえて?)きたのが収穫だった。D.Fが楽器の分離や聴感上のS/Nに大きく影響することが分かってきた。お客様の評価は静かなアンプとなったようだ。更に電源の改良も出来た。ここはまだ技術的に確認しなければならない部分はあるが、方向性が見えてきたことが大きい。多くの真空管アンプの記事やサイトを読むと、高級部品を使っているから音が良いような表現が多い。間違いとは言わないが、アンプの本質を言及しているとは言いがたい。私はあくまでアンプの動作と音との関係を今後も追及してみたい。
 プリアンプ(ラインアンプ)に関しては今設計しているアンプの結果が楽しみだ。まずどんな特性を出してくれるか。特にノイズ特性がどうかだ。このアンプはゲイン可変型のラインアンプだが、先日<ステレオサウンド誌>を立ち読みしていたら、今年の同誌グランプリでエアー(Ayre)社のプリアンプがプリアンプ部門で賞を取っていた。このプリアンプは実はゲイン可変型アンプで私と同じようにボリュームを絞った実用状態でも高S/Nをうたっていて、実際その性能(音)が評価されていた。ただし価格は300万円もするが。同じやり方だから音が良いとは言わないが、ゲイン可変型アンプが方式的に良いと評価する人達がいることは心強いものだ。今設計している新しいプリアンプも来年の完成が楽しみである。(内心では・・・上手くいけば良いが、結果が悪かったらどうしよう。)

その他ではこのMYプロダクツのホームページのアクセス数がやっと1万アクセスを超えた。人気サイトには遠く及ばないが、それでもこれだけ累計でアクセスしていただけてたいへん感謝している。私はこれを一つの宣伝媒体として捕らえている。無名の店主を知ってもらうことはなかなかできない。どんな男か知ってもらうためにコラムを書いている。皆様がどんな気持ちでお読みになっているか想像がつかないが、私は毎回淡々と自分の信条を書いている。読んでいただいてありがとうございます。
 来年もよろしくお願いいたします。






2008年12月11日

<ラインアンプの設計>
 今プリ(ライン)アンプの設計をしている。以前にプリメインアンプを設計依頼してくれたお客さまがラインアンプを追加依頼して下さった。前に設計したプリメインアンプはパワーアンプに改造するとして、どんなラインアンプにするかを検討した。
 私が使っているラインアンプはゲイン可変型のラインアンプでボリュームを絞った状態、すなわち通常聴くボリュームの位置(9時から11時)でのS/Nが通常の信号減衰型のアンプに比べ15dBほど優れている。プリアンプに必要な条件はまずノイズが少ないことだ。真空管は素子としては半導体よりノイズが多い。だから回路方式で実用状態でのS/Nを改善するようにしていた。今回のラインアンプ設計に当たっては、少し真空管素子自体のノイズをもっと減らす工夫をして、それにゲイン可変型のアンプにしようと考えている。
 昔の真空管の文献によると真空管で発生するノイズはグリッド周りの電子の動きが影響するらしく、だからグリッドの少ない3極管の方が5極管よりノイズが少ないらしい。また3極管のノイズはgmに反比例するようだから、ラインアンプの初段は3極管の高gmの球を使うのがローノイズのアンプを設計するポイントとなる。さらに初段で多くのゲインを稼げば、アンプ全体でローノイズのアンプになると考えられる。
 しかし真空管というのは以外とミラー効果の影響もあり、高ゲインの入力段では高抵抗でグリッドに信号を入力すると歪が悪くなる。これは100KΩ程度のボリュームでは影響が出る。また音はざわついたものになってしまう。熱雑音なども考慮すると、なるべく低インピーダンスの素子で設計したいが、ゲイン可変型アンプではボリュームは入力インピーダンスの関係もあり50kΩ〜100kΩのボリュームを使わざるを得ない。そこで入力段はカスコード接続にすることにした。こうすればミラー効果の影響も無くなり、ボリュームの位置に影響されず歪も(ノイズも)少ないアンプが期待できそうだ。
 真空管は6DJ8を予定している。高gmの3極管である。プレート電圧が低めではあるが、逆にカスコード接続するにはむしろ都合が良い。カスコードの素子は半導体を使うことにした。同じ6DJ8を使うこともできるが、電源の利用率やコストを考えると半導体の方がスマートに設計できそうだ。この6DJ8という球でどの程度のノイズになるかが楽しみだ。これまでの経験からすると12AX7を初段にした時のラインアンプの入力換算ノイズはAフィルターを挿入してー116dBVくらいだった。半導体アンプではー120dBV以下にするのは簡単だが、真空管でもどの程度まで下がってくれるか期待している。
 電源回路はもちろん両チャネル定電圧電源を搭載する。電源からのノイズも極力減らすためだ。配線はE.G.W法を用いてグランド電流の流れを混在させない方法にする。
 ローノイズアンプにゲイン可変型でさらに実用状態でS/Nを上げたラインアンプだ。
 さてどんな音のラインアンプになるのだろうか。
 私も分からない。



前回このコラムで紹介した高D.Fアンプのお客様の試聴記は
ぽこあぽこ >
に掲載されております。ご覧下さい。








2008年12月1日

<高D.Fアンプの設計W>
 前回に引き続き高D.Fアンプの話で今回はその音質について。
 設計者の音質評価ほどアテにならないが、私の評価は次のように感じた。

・高D.Fアンプの音について
 今回本格的に真空管高D.Fアンプを聴くことができたが、何が良いかといえば楽器の分離が素晴らしいことと、余韻や場の雰囲気も良く再現されることだ。何故そのように聴こえるかは次のように推測している。我々は音楽を聴く時、声や楽器などはそれぞれ別々に音として聴いているが、これらの信号は全て重畳された一つの複雑な信号になっている。この複雑な信号をアンプによってスピーカーをドライブするとき、高D.Fアンプは出力インピーダンスが低いから、振幅(レベル)方向も時間軸(過渡応答)方向も正確にドライブする。だから複雑な信号が変調されることなく正確に再現され、それが人間の耳には楽器の分離が良くなると感じるのではないかと思っている。信号の乱れが少ないから、それが楽器どうし混じることが少なくきれいに再生するように聴こえる。また高D.Fアンプは決して硬い音ではなく、むしろ余韻など小さな信号もきれいに再生し、雰囲気も良く再現してくれるしS/N感も良くなる。
 以前D.Fは10以上あれば問題ないと書いたが、高級アンプではもっと必要だと感じだ。人間の耳の高性能には驚かされる。

・改良電源回路について
 これまでアンプの電源回路は多くの方が述べられているように非常に重要な項目である。真空管アンプに限ってみても、ここをもっと検討する必要があると考えてきたが、今回ひとつの改善ができた。低音のスピードが素晴らしくなった。言い方を変えれば車のアクセルのレスポンスが良くなった感じだ。吹けが良いから軽くスピーカーをドライブしてくれる感じになる。ここはさらに検討してみたいところだ。
 お客さまの印象では半導体アンプの低音と真空管アンプの高音を持ったアンプということだった。

お客さまの評価
 お客さまからいただいたご自宅での最初の音の印象によれば、
音の傾向は安井さん宅で聴いたときと同じで、音の感じはアダージョよりもシャープですが、演奏のニュアンスはしっかり聴き取れます。アダージョの時は、独特のやわらかさのような雰囲気があって、この雰囲気が演奏のニュアンスを引き出していると感じていたのですが、このアンプは柔らかい感じはあまりないにも関わらず、演奏のニュアンスがよくわかるので不思議な感じがします。それに、全く"きつい感じ"がしないのも不思議です。」

今回の高D.Fアンプの音質については総じて言えば、音像がよりクリアーになり、楽器の分離が良くなる傾向にある。しかしこれは音が硬いというのではなくむしろ音の余韻も正確に再生するので、演奏のニュアンスも再現している。また余分な音が入らないのでS/Nの良い音を再生するということになった。

アンプがスピーカーをドライブする時、高D.Fアンプは周波数特性の改善ばかりでなく、過渡応答の改善も貢献し、より正確にスピーカーをドライブしている印象を与える結果になるようだ。しかしこれは単に高D.Fアンプにすれば良いということでなく、配線や電源などがきちんと設計された上での話であることは当然のことだ。

 今回のアンプは私にとってまた1段技術が上がった気分にしてくれた。D.Fや電源回路が音に与える影響についてある程度その効果を知ることができ有意義な設計となった。
真空管アンプもまだ進化する。







2008年11月21日

<高D.Fアンプの設計V>

前回に引き続き高D.Fアンプの設計の話をしよう。
 世界最高のD.F(ダンピングファクター)を狙った真空管アンプはさてどのような結果になったのだろうか。結論は予定通りの性能が出て良いアンプが出来上がった。

 アンプの特性は次のとおりであった。


 
 ・出力:           10W(8Ω)

 ・アンプゲイン:  13.8dB
 ・D.F:         43(20Hz〜10kHz)
 ・歪:             0.01%以下(1kHz/1W)
 ・周波数特性:     20Hz(−0dB)〜80kHz(−3dB)
 ・セパレーション: 100dB(10kHz以下)、85dB(100kHz)

上記の特性を見ていただくと、まずD.Fは40以上を確保できた。これは真空管アンプでも最高の部類に入る。さらに歪、周波数特性、セパレーションも高級半導体アンプを思わせる特性を確保することが出来た。アンプとしては大変素性の良いものが出来上がった。

 さらに今回は電源回路にも改良を加えた。このアンプはチョークコイルを使わず半導体によるリップルフィルターを採用している。リップルフィルターはきれいな直流電源を造る回路なのだが、真空管アンプではあまり採用されていない。普通はチョークトランスを使用しているのが多い。私は電源インピーダンスを下げるには電源を改善したいと思いリップルフィルターを採用している。今回さらにこの回路の性能が上がり、音の良いリップルフィルターが出来上がった。保護回路を検討しているときにアイデアが浮かび、改良を加えた。会社員だったら特許でも取りたいくらいによく出来た回路になった。電源のインピーダンスが下がったためか低音の出方がずっと良くなった。

お客さまご要望の特性は出たが、肝心の音はどうなったのだろうか。上記の特性だけで音は決まらない。他の特性に現れない回路や配線方法なども音質に影響を与えるからだ。これまでのノウハウを全部入れて設計を終了した。私は特に高い部品を使って音が良くなったという手法は取らない。あくまでアンプの動作だけで音質を追い込んでいく。

 音質評価については次回。



左から正面、後面、内部。
後ろのパネルにはノイトリックのコネクターが装備されています。







2008年11月11日

<高D.Fアンプの設計U>
 今回これまでと少し違うご要求のアンプを設計したので、それを紹介してみたい。今回設計を依頼してきた方は、エンジニアでオーディオを趣味とされていて、電気も音質にも強い方である。MYプロダクツのアンプ<アダージョ>を貸し出ししたらその音質を気に入ってくれて、オーダーメイドのアンプをご注文された。自作でデジタルアンプも設計される方であるから、ある程度アンプの内容も理解されていてご自分のシステムに合う仕様のご要求だった。例えば
ゲインは12dB以上
出力は10W程度
D.F(ダンピングファクター)は出来るだけ大きく
 このような具合のご要求である。

 そこで私は今回の設計で特にD.Fについて世界最高を狙って設計しようと試みた。今まで作ったアンプのD.Fは高くて28。今回はそれより大きい40以上を狙ってみた。真空管アンプでは私の知る限り他社では例がない。私は実験的に特性を出したことがあるが、完成品アンプとしてこれだけの高D.Fアンプ造ったことはない。ON/OFF法の測定法で僅か0.1dBの改善であるが、この0.1dBを上げるのは大変なことだ。ただ今回のご要求をみるとゲインも少なくて良いし、出力もそれ程大きい必要がないため、ゲインや出力で余った余裕をD.Fに振り向ければ何とか高D.Fアンプができるのではないかと考えた。つまり出力の余裕は8Ω負荷で20W程度のアンプを設計し、出力トランスを4Ωから出せば出力は半分10Wになるが、出力インピーダンスは半分になる。さらにゲインの余裕は負帰還(NFB)にまわせばさらに出力インピーダンスを下げることができる。このような考え方で設計を始めることにした。
 さらにお客さまからのご要求は他にもあった。まずコネクターが指定された。信号入力端子はXLR端子、スピーカー端子はノイトリック社のスピコンと呼ばれるコネクターが指定された。実は私はこのノイトリック社のコネクターと言うものを知らなかったのであるが、プロ用として沢山使用されているらしい。ネットで入手先や価格などを調べたら、秋葉原でも購入でき、それ程高価でもなく入手できることが分かった。さらに電源ケーブルと信号ケーブルについても信号グランド、フレームグランド、シールドの区別を明確にしたいということで、お客さまとやり取りをしながらグランドの仕様も決めた。
 かように今回のアンプはご要求が特殊であるが、私としても新しい試みができ楽しみながら設計を進めた。真空管は12AT7、12BH7、6CA7のプッシュプル(UL接続)でこれまで実績のある差動入力、全段PP構成にした。これまで初段は12AX7を使用していたが、今回ゲインはそれほど高い必要がないため12AT7を使用した。またゲインが低いことは入力が大きいことが必要とされるので、よりバイアスが深く取れる12AT7の方が有利と判断した。(差動入力でも完全にバランスが取れず影響する。)
 メイン電源は半導体によるリップルフィルター回路を採用し、すべての電圧増幅段は定電圧電源を搭載した。アンプレイアウトは左右のセパレーションを良くするためにセンター電源、左右にアンプ回路とする構成とした。
 さて結果はどうだったのだろう。次回をお楽しみに。


 
私のお客様であるリシャール・コラス様がこのたび勲二等旭日重光章(勲章)を授与されました。また日本航空の雑誌<アゴラ>には彼のエッセイが毎月掲載されており、今月は私のアンプのことが書かれています。







2008年11月1日

<フェルメール展>
 先週やっとフェルメール展を見てきた。昨年フェルメールの「牛乳を注ぐ女」を見て以来、今年のフェルメール展を楽しみにしてきたのだが、夏は暑くて外で並ぶのは嫌だし、涼しくなったら行こうと思っていたらアンプ製作が優先でなかなか行けなかったのだが、先週やっと東京に行く用事が出来たのでそのついでに上野の東京都美術館に行くことが出来た。昨年来フェルメールの本を読み、それなりの準備をして実物を見るのを楽しみにしていた。私が行った当日は生憎の雨模様であったためか、入場の際も並ぶ必要がなくすんなりと入場できた。8月2日から開催されているからもう入場者もばらけてきたのだろう。
 今回は7点もの作品が一同に上野に展示されている。フェルメールの作品は今現存するのは37点と言われ、それが世界各地の美術館や個人の所有になっているものだから、7点もの作品が一度に鑑賞できるのは初めてのことらしい。こんな機会を与えてもらい幸せなことはない。いつもお目当ての美術品を見る時は、入場するときは何かそわそわしてしまう。若いときにデートに行くときと同じような気分だ。今はこのような絵画がデート相手になってしまったのかもしれない。入り口で説明用のヘッドフォーンを借りる。最近はこれが面白くていつも借りることにしている。今回のフェルメール展ではフェルメールだけではなく同じ時代のデルフトの画家たちの絵画も展示されている。デルフトとはオランダの都市の名前で、1600年後半に多くの画家を創出した都市で、この時代になると宗教画は少なく、もう人物画や風景画などの風俗画になっている。それはオランダはこの時代にスペインから独立し、オランダの黄金時代で、パトロンは商人などの金持ちに移ってきたので、自由な画風が出てきたのがその原因らしい。また絵画がある種の諷刺を表し寓意と呼ばれる裏の意味も隠されている。私は寓意などどうでもよく単純に絵を楽しみに鑑賞してきた。
 フェルメールは<光の魔術師>などと呼ばれているのだが、やはり本物は光の描き方が天才的だった。<ワイングラスを持つ娘>や<手紙を書く婦人と召使い>などは写真などと違い、本物はもっと素晴らしい。何が素晴らしいかと言えば、明るさの階調度が広い。明るさのグレーレベルの表現の細かさが緻密なのである。他の画家の階調度が4ビット程度(16階調)とすると、フェルメールの絵は8ビット(256階調)程にも細かな明るさの表現力が違う。写真で見ると黒つぶれしている部分は、実際に見るとグレーレベルで僅かな差が描かれているのでまったく違う。明るい部分も白飛びがなく明るさのグラデーションが上手く描かれている。だから絵の明るさのラチチュード(Latitude)が広く(白から黒までの差)実物以上に描かれている。実際にこんなに明るさと暗さが混在している場面というのは少ないと思われるが、画家は何かを表現するのに誇張して描かれるのは問題ない。だからフェルメールの絵画は人を惹きつける。フェルメール自身も人の視点を意識して描いていたらしい。平面的な細かさを表わす解像度は細かく描かれていないのにも拘らず、明るさの階調度が大きいだけでこんなにも実物に見えることは面白い現象だった。
 人気の<小路>は以外と静かな絵であった。こちらは光の強弱は少なく、自然な感じで描かれている。しかし良く見るとレンガや路のでこぼこが良く表現されているし、レンガ、木材、漆喰などの材質の違いが分かるほど、質感が良く出ているのはやはり天才の表現力だった。何でこんな表現力があるのかが不思議な気がする。単純な解像度だけではないのだが、何故か本物に見えてしまう。だから世界中にファンがいるのだろう。

今回フェルメールを見て小さな幸せを感じる。まず今回の絵は世界中から集められた物で、高々数千円の費用でこれらの絵を鑑賞できることの幸せである。今回のこの催しは世界でも始めてのことのようで、日本に来てくれて良かった。もしこれらの絵を世界中回って見ようと思ったらいくらかかるか分からない。たかが絵かも知れないが、人間の造った作品を見てその無限の創造性に接することは非常に意義のあることと思っている。
 平和で文化に接することができる今に感謝。







2008年10月21日

<マイブーム>
 私のマイブームについて今回はテーマを選んだ。今自分のなかで興味を持って取り組んでいることが仕事以外でもいくつかあるが、その中のひとつにテニスがある。テニスはもう25年以上続けている。ほぼ毎週土曜日はテニスをするという生活である。現在も時間は2時間程度だが、まだ毎週続けている。恐らくこの生活はサラリーマン時代に長期海外出張の時を除いて、ほとんど続けていると思う。だからテニスは生活の一部みたいなものでこれがないと生活に変調をきたしてしまう。ただ私のテニスはテニスクラブなどで仲間とテニスの試合を楽しむテニスではなく、テニススクールに通って教わるスクールテニスである。10年ほど前までは、土曜日の午前はテニススクールで教わり、午後は仲間と試合を楽しむこともしていたが、仲間がしだいにゴルフに興味が移っていき試合がなくなってきたが、スクールだけはまだ続けている。
 私が通っているテニススクールは室内で行われる。天井も高く広さも十分あるので室内とはいえ制約はない。だからテニススクールは雨が降ろうが、雪が降ろうが毎週行わる。またコーチが行うレッスンはそれなりに動かされるので運動量もかなりある。これが生活のリズムを作っていて健康維持のために続けている理由だ。だがこんなに続けていて、いまさら何でマイブームなのか。
 私は4,5年前五十肩かどうか分からないが肩を痛めてしまった。テニスでサーブやスマッシュがうまく出来なくなってしまった。打つときに痛みが走った。だからスクール最後に行う試合では負けが多くなり、自分でもちょっと残念な気持ちでテニスを続けていた。マッサージやヨガの先生に聞いてみたら、やはり普段のストレッチが良いということを教わり、いろいろ試してみたが良い方法が見つからなかったのだが、1年ちょっと前から始めた腕立てやぶら下がりなど肩に筋肉を付けてきたら次第に痛みが取れだしてきた。またサーブのフォームも変えた。テイクバックで肘を上げるようにしたら、肩の負担が減ってきたし、体全体で打つフォームに変えたらスピードも増してきて次第にテニスが楽しくなってきた。50代後半の年齢でも筋肉は付けられるし、サーブのスピードも付けられるのが少し自信になった。それで今はフォアのストロークのフォームを変えることに楽しみを見出しこれがマイブームなのである。私のフォームは中学生時代に身につけた軟式テニスがベースになっている。ボールを膝で押し出す感覚で打っていた。しかし最近納得の行くボールにならず、そこで今はトップスピンを打てないかフォームの矯正をしている。これが楽しいのである。今のテニスはほとんどトップスピンでボールを打つ。体の回転でしかも下からボールを擦り上げる打法だ。これを真似している。20年ぶりくらいにテニス雑誌を購入したし、テレビでもトッププロの試合もじっくり見て研究している。テイクバックの時のラケットの位置、頭の位置、スタンスの方法などいろいろ真似て試しているのが非常に楽しいのだ。打球感が良い時が時々ありそれを続けられるようにいろいろ試す。テニススクールだけでなく、寝る前にもストレッチポールという背骨矯正器具を使ったり、腕立てしたり、いくつかのストレッチ運動も続けている。
 1年くらい前までは惰性でテニスをしていたのが、ちょっとしたきっかけでまたテニスが面白くなってきた。自分に変化や進化が感じられると人間興味が湧いてくるものである。アンプでも同じで何かちょっと発見があるとまた新たな興味が湧き、新しい物が出来てくる。

 今週も楽しいテニスをしたいが、残念ながら今週は町内会の防災訓練がありこれに参加しなければならず(今年は役員をしているため)スクールに行けそうもない。かなり残念だ。







2008年10月11日

<オーディオショー>
 またキンモクセイの香りが漂う季節になってきた。私はキンモクセイの香りが好きだ。この香りが漂うようになるといくつかのオーディオショーが開催される時期となる。昨年のコラムも同じような書き出しで始まったように記憶している。
 今年は2008年東京インターナショナルオーディオショウを見て(聴いて)きた。有楽町で毎年この時期に開催され、私もこの商売を始めてから毎年見ている。私がこのショーを見る目的は高級オーディオと呼ばれる装置の音を聴くためである。自分が目指している音とこれら高級オーディオの音と言われるものとどの程度差があるかとか、方向性に違いがあるかを確認するためである。高級オーディオがリファレンスと言う意味ではない。評論家が褒めた装置を聴くためでもない。自分で実際聴いてみてこれはと思う感動がもし得られれば、目標となると思うからである。
 このショーでは何人かの評論家が交代で多くのブースで装置や音の解説をしてくれる。私は職人気質な方で、どちらかと言うとオーディオ評論家という人達をあまり好きになれない。本当に正しいことを言っているのか懐疑的だからである。それに装置の値段に関係なく音が良ければそれで良しとする考え方に賛成しない。むしろ値段のつけ方にも評論してほしい。そうでないと消費者寄りの評論にならないからだ。これではメーカー寄りの評論家だ。消費者の目線で批評するのが評論家だと思う。このままでは値段だけが上がりお客様が逃げていく。その理由からか今年のショーの人出は少なかったように感じた。
 4年も毎年行っていると耳も大分肥えてくる。以前より感動が少なくなってきたように思う。当然装置により音は変わるのだが、自分が良いと思われる装置はだいたい同じ感じなのだが、さらなる感動までは至らなかった。これは私が音を聴くところが以前と異なってきたからもしれない。私は最近音を聴くとき、音色、S/N、f特などは聴くとして、さらに演奏者の表現のニュアンス・雰囲気を聴くことを楽しみにしている。良い装置で聴くと、演奏者の表現・雰囲気が良く分かるからである。これにはまると呼吸までこちらが合わせてしまう。ただこの聴き方は良い演奏のCDでないといけないし、また試聴においても良い条件でないと分からないことが多い。だから大勢の試聴者がいて、また後ろの方で音楽を聴いてもニュアンスは伝わりにくい。静かな環境でまたベストポジションで聴かないと演奏雰囲気などは伝わらない。こんな聴き方で聴き比べをしてみようと思ったが、やはりわずかな時間でまた良い装置を聴くタイミングが合わないこともあり、感動をするような音は少なかった。
 ただ一つ他と違うと感じた音はアバンギャルド(スピーカー)でクラリネットの音を再生している時。目の前であたかもクラリネットを演奏しているように感じた。こんな音が世の中あるのかと思ったくらい。演奏を聴くことに没頭してしまった。
 全体的にみて私の音の方向性という点では同じと感じた。ただあまりにも値段が高くてこんな装置が必要なのかと当然思う。私は私なりの方法で気楽に音を楽しむ方法を探している。

 今年は例年より真空管アンプの展示が多いように感じた。真空管アンプファンが増えているためか。私にとってはライバルが増えるから、手放しでは喜べないかな。でも値段が違うからライバルではないか。








2008年10月1日

<休息日>
 先週から体調が思わしくない。風邪をひいてしまい24日から5日間は寝たり起きたりの生活をしている。咽喉が腫れ頭痛はするし咳も出る体はだるいと最悪の状態が続いている。だから当然仕事どころではない。本来作業はしなければならないのだがこんな状態では集中して仕事が出来ずろくなことはないから止めた。ほとんど寝ているのだが、時にはメールを見たり、TVを見たり、食事の買い物にたまに出かけたり、まったく調子が出ない。しかしたまにはこんな状態も気分転換になることもある。どうせ仕事は出来ないのだから、別のことができる。

 先々週行った三菱のダイヤトーンスピーカーの印象について、オーディオ仲間のNさんとメールで意見交換した。二人とも共通した認識は、きっと素晴らしい技術を持って製作したスピーカーなのに何故我々に音としてその良さが伝わってこないのだろうということだった。私は元メーカーの開発エンジニアで彼は現メーカーの開発エンジニアであるからその立場での共通認識から簡単な意見交換をした最終結論は、ダイヤトーンという音を統括する、あるいは責任を持つというのが希薄で、まだ中途半端な感じが否めず、外からみてもその良さ・個性がはっきり見えるものがないのではないかというまことに勝手な推測をしてしまった。別に三菱さんの悪口を言っているのではなく、自分たちの仕事も考えて注意しなければならないなという意味でこんなやり取りをした。NさんのHP‘ぽこあぽこ’に試聴評価が載っています。お読みになりたい方はリンク先を見て下さい。
 寝ていることが多いので読書ができると張り切っていたのだが、それも余り続かない。夏から<カラマーゾフの兄弟>を読んでいるのだがなかなか進まない。夏は暑くて進まず、ここは良いチャンスと思ったが20分も読むと寝てしまう。頭も少しボーとしているのでなおさら進まない。何時になったら終わるのか。全5巻もあり大変だ。なんでこの本を読むことになったかはそれなりの理由があるのだが、その説明はまたの機会に。でも最後まで読むぞー。
 カラキョウ(最近若者の間ではカラマーゾフの兄弟のことをカラキョウと言うらしい)が駄目なときは昔のオーディオ誌でも読んでみるかと、武末数馬著の<武末真空管アンプ>を読みかえしてみる。武末さんという方は偉大なアマチュア真空管アンプ設計者で、多くの製作記事を書いている。アマチュアと言っても商売としてアンプを造っていないというだけで、中身はバリバリのプロの内容になっている。本来の先生の仕事を持ちながら真空管アンプの設計の記事を沢山また論理的に書かれている。すでに亡くなられた方ではあるが、今も十分参考になる内容である。私が彼の本を読む場合、回路を参考にするために読むのではなく、彼がどんな思想でそのアンプを設計しているかを読むのが楽しい。彼はアンプ設計理論その物も書くが、音質評価法などさまざまな分野までその意見を繰り広げる。今回この本を読んでいたら面白い文に出会った。おおよそ次のことが書かれている。
 「真空管アンプが全盛だった頃は、市販のスピーカーは真空管アンプに適合するように設計されていました。しかし今日の市販スピーカーシステム全体としても、真空管アンプ・・・・とくに無帰還アンプに適合する製品はごく一部のものに限られています。(1974年の記事)」
 また彼の試聴システムを見ると38センチウーハー、中高域はそれぞれマルチセルラホーンを使い高効率スピーカーシステムになっている。また「真空管アンプの音の差というのは、使用するスピーカーシステムの適・不適によって生ずるものでもある」とも言っている。何故こんなことが重要かと言えば、彼はすでに真空管アンプで小型スピーカーを鳴らす限界を知っていて、高効率のスピーカーシステムを使う前提でアンプを設計していると思われるからだ。アンプを造る理論は同じだが、最初の設計方針が異なるとまったく違うアンプになる。これで少し違和感を持って読んでいた製作記事が納得できた。

 私の場合は逆で、小型スピーカーシステムを鳴らす真空管アンプは如何に設計すべきかという立場からスタートしている。それは今の世の中、高効率の大型スピーカーを所有している人は少ないからだ。こんな考え方の違いが設計や結果の相違に現れる。だからD.F、電源回路、出力段の設計、S/N、f特の考え方にも差が出てくる。
 真空管だから、無帰還だからとかいろいろなご意見もありますが、まずは設計の前提を十分理解することがまずは先決です。

 たまには風邪をひいて、目前の仕事とは直接関係ないことも真剣に考えてみるのも良い時間かもしれない。このコラムも何も書くものがないかなと思っていたのが、ここまで書けたのは風邪のお陰?








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