手造り真空管アンプの店




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店主コラム 10月〜12月分



2005年12月20日
<北斎展>
 ちょっと前の話だが、12月1日に上野・東京国立博物館で開かれた<北斎展>を見てきた。平日の午後2時というのに入場するまでに外で30分以上待たされた。また展示会場でも作品が小さい為か、見物人が壁に沿って見るためなかなか前に進まず見学も大変な<北斎展>であった。
 浮世絵展を見るのは2度目である。10数年前<写楽展>を見て以来の浮世絵展である。前回の<写楽展>の印象といえば、その色彩の鮮やかさにびっくりした。本物の浮世絵とはこんなにきれいな色をしているのかという印象が今も残っている。写真などでは実感出来ない色だったと記憶している。さて今回の<北斎展>もまた新たな感激を味わってきた。長野県・小布施にある北斎館では北斎の作品を見たことがあったが、今回の展覧会は500点余りの展示で、国内外からの出品なので規模も質もまったくすごい展示であった。浮世絵は西洋の絵画とりわけ印象派に強く影響を与えたのは有名である。マネ、ゴッホなどもコレクターとなっていたようだ。ゴッホの作品<ダンギイ親父>のバックの壁には浮世絵が飾ってあるのが描かれている。当時の西洋画家には衝撃的な浮世絵だったのだろう。
 北斎といえば<富嶽三十六景>が有名だが、今回の展覧会でも一際良かったように思う。特に有名な<浪裏の富士>など、風景の一瞬をデフォルメして描かれていて、まるで現代のイラストそのものだ。色彩は摺った時代により変化しているとは今回初めて知ったが、その大胆な構図は江戸時代にあったとは驚く。きっとゴッホもそれまでの西洋の写実的な絵画と比べて衝撃が走ったかも知れない。しかしながら今回の<北斎展>で新たに知ったことは、北斎のデッサン力の凄さであった。展示は版画のほか肉筆もあったが、絵が非常にうまい。浮世絵からくる印象は大胆な構図、色など写実的なところを感じさせないが、実際にはデッサン力は凄かった。彼の作品に絵の教則本のような物もあり、そこには動物・植物などの特徴などが書かれていてかなり写実的だ。更に驚いたのはすでに遠近法を用いた作品も作っていた。当時海外からすでに遠近法は日本に紹介されていて、それを試している。また風景もすばらしいが、その中に描かれている人物の表現に今回また新たな楽しさを発見した。版画の中の人物の表現がまるで動いているような描き方なのだ。動物に驚いてびっくりした人物を背中から書いた作品、馬にまたがり休憩している人物、橋を渡ろうとする旅人、どれも顔の表情は少ないが、体全体から表現される動きはまるで生きているのを想像させる。晩年の肉筆画もこれまた凄い。色・細かな表現、江戸時代にこんな芸術があったのかと驚嘆させられる。改めて北斎の幅の広さを感じ、やはり天才なのだと思い知った。今回の展覧会で彼のすべてを見て初めてその凄さを知った。
 こんな天才が日本にいて、世界の絵画に影響を与えた作品を残していたのは誇らしく思う。ただこれらの作品で有名なのは残念ながら海外の美術館所蔵になっている。また不思議なのは北斎の作品に国宝がなく、重要文化財も数点であった。版画だからか、海外所蔵作品だからか、はたまた、狩野派などが正統派で北斎の評価はそれ程高くないのか、良くは分からない。こんなにすばらしい作品を残しているのに残念なことだ。
 今度また小布施に行く機会があったら、この展覧会を思い出しながら違った目で見てみたいと思う。

 

2005年12月11日
<ダンピングファクターと音質>
 Adagioの設計で得られたノウハウを使って、かつて私が設計したお客様のアンプのバージョンアップを行っている。あるお客様のアンプを改造してあげたところ大変喜ばれた。その効果に驚き、最初は期待をしてなかったそうであるが、今はこれまで気づいていなかった音が発見できたと喜んでいただけた。オーディオ歴30年位の方で、それなりに音楽を楽しんでこられた方なので、このようなコメントをいただけたのは設計者としてうれしいことだ。これからもお客様が喜んでいただけるようにしたいと思っている。B&W ノーチラス803から発せられる力強い低音、全体的に歯切れが良く、楽器の分離も良い。私としてもイメージした音に仕上がったと自負している。
 さて前回の話の続きをしよう。最近ある雑誌を読んでいたら、スピーカーの評価で抜群のS/N感が魅力と書いてあった。はてスピーカーにS/Nがあったのかなと思いつつ、文章を読んでいくと次のように書いてある。<スピード感に満ちた反応のよさであり、またエンクロージャーを鳴かせないことによる聴感上のS/Nの高さなど、いかにも現代的な音の佇まいの良さ。・・・・>と書いてある。すなわちエンクロージャーを含め余分な振動を抑えたスピーカーは高S/Nに聴こえると書いてあるのである。実際スピーカーなどは内部損失がある程度ないとQが高すぎてそれもまずいのだろうが、今のスピーカーは昔と違い、剛性の高いコーン紙に強固なエンクロージャーを使って俊敏な音を表現しているものが多い。頑丈なエンクロージャーを使っても自然な質感を出しているらしい。さてアンプから見た時、聴感上のS/Nにはどのように影響するのであろうか。当然アンプのノイズレベルは耳に検知される。前にも書いたように信号と相関のないノイズは耳に付きやすく、ホワイトノイズやクロストークなどは十分下げる必要がある。更に私はダンピングファクターが聴感上のS/N感に影響を与えると思っている。それはスピーカーの過渡歪である。前回も書いたがアンプのダンピングファクターによりスピーカーの過渡特性が変化し、そのダンピングファクターの悪いアンプではスピーカーの過渡特性が悪くなる。この音の分離が悪さが聴感上のS/Nを悪くしている。これは先ほど書いたスピーカーのS/N感と同じ理屈による作用である。実際、ダンピングの良いアンプで試聴してもらうと、高音がきれいになったと印象を持つお客様がいるし、私もそのように感じている。特にオーケストラでのうるささが消え、楽器の分離もよくなり聴感S/Nが上がる。だから知らずと音量を上げてしまいがちになる。最初にお話したバージョンアップを実施したお客様も最初ゲインが下がったように感じられたようだ。このようにアンプのダンピングファクターは周波数特性、低音の歯切れ、高音のS/N感などスピーカーとのインターフェースに大きく影響する。これは定抵抗負荷で測定していても音との関係が分からない測定項目だ。繋がる相手がどのような特性を持っているものなのか、どのような動きをする物かを良く知らなければならないものだ。例えば2WAYスピーカーシステムスピーカーを考えてみると、ツイーターの低域共振点は数KHzのところにあり、当然ネットワークにより減衰されてはいるが、耳につき易い帯域に共振点があるので、この帯域でもダンピングファクターは良いのに越したことはないと思っている。このようにアンプとスピーカーとのインターフェースというのは難しい。どんなスピーカーにつながれても、音を正しく再現するというのはアンプにとっては永遠のテーマだろう。ここにエンジニアとしての楽しみがあるのだが。



2005年12月1日
<スピーカーとのインターフェース>
 前回Adagio の展示会のことを書いたが、この展示会で使用していた試作機が気になってチェックしたら、出力管の一つが動作不良だったことが分かった。大変恥ずかしい。これはマーフィーの法則というものだろうか。肝心な時に不具合が起こる。出力管の一つのバイアス電流が少なくなっていた。私はデータを取るのが好きだし、事あることにバイアス電流を確認していたので最初は正しく動作していたことは事実なのだが、エージング中におかしくなってきたようだ。これまで実績ある回路だし、電圧なども問題ない。事実出力管を交換すると正しく動作する。どうも真空管の初期不良が出たようだ。50時間も満たないエージングだが、このような経験は初めてだ。いつからこのような状態になっていたかは定かではないが、聴いて頂いたお客様には迷惑をお掛けしたかもしれない。まったく恥ずかしいことだ。
 さて前回も書いたが最近はスピーカーとのインターフェースのことを考えている。アンプの出力インピーダンスを下げることはその一つで実践しているし、出力インピーダンスの測定法も独自の方法を採っている。通常は注入法とかON−OFF法が採用されているが、私は私が命名した8−4法という測定法を採って評価している。スピーカーは公称インピーダンスの通りの値を示さず大きく変動し、例えば私が使用しているB&Wのノーチラス805などは公称インピーダンス8Ωだが、実際4Ω〜30Ωまで変動している。アンプの出力インピーダンスが高いとこのスピーカーのインピーダンスに影響され周波数特性がフラットにならない。特にスピーカーのインピーダンスが低くなるところへの対応が必要だ。そこでこれまでのアンプの出力インピーダンスの測定法を改め、8Ω負荷時の出力レベルと4Ω負荷時の出力レベルの差からアンプの出力インピーダンスを測る測定法に変更した。この方法だとより実際のスピーカーの動作に近い状況なので、より実際に近いアンプの評価が測れる。これまでの測定法は無負荷に近い状況での出力インピーダンスの値を調べていることになっている。新測定法は電源の影響も測定に表れる。先日出力トランスに繋がる電源回路のコンデンサーを増量して新測定法で測定したら、その効果が測定値に表れた。ON−OFF法ではその効果が表れない。
まだ多くの条件の違いが把握できていないので、一概に結論をだすのは早計だが新測定法はアンプの評価としては正しい方向に向かっているのではとは思っている。出力インピーダンスの値は出力管の動作点でも変化するし、アンプの出力によっても変わる。これもまだ確かめてはいないが、出力管のプッシュプル合成特性が、Aクラス動作とBクラス動作の直線性が異なっているように感じている。実際真空管のペアチューブにはバラつきがあり、合成特性をリニアーにするには真空管の選別と動作点の追い込みが必要と思うが、出力が高い方が低インピーダンスになる傾向なので、今はそれ程目くじらをたてずにそのままで使用している。出力インピーダンスを下げることは周波数特性の改善だけでなく、よく言われるダンピング(音の歯切れ)の改善にも効果がある。スピーカーの電気インピーダンスはスピーカーが動くことにより発生するモーショナルインピーダンスと呼ばれ、等価的にLCR回路を構成するので、ドライブインピーダンスの影響を受けて過渡現象が変化する。過渡現象についても最近はスピーカー、キャビネットの設計方法が変わってきているので、真空管アンプの方も対応しなければと思っている。次回その話をしよう。





2005年11月23日
<Adagio展示会>
 11月12日・13日とでAdagioの展示会を開いた。初めて開催するので一般公開せず、私の知り合いにのみ連絡する形で開催した。このコラムを読んでいただいている読者の方には、招待の連絡が届かなかった方がいると思うがこの場を借りてお詫びしたい。何せ初めてのイベントであり自宅での開催であったため、余り大きなイベントは開けず、まずは知人のご意見を伺おうという趣旨で開催した。両日とも天気に恵まれ、イベントとしては絶好の天気となった。集まっていただいた方は合計12名になり、13日の午後には7名の方が同時に来ることになり、賑やかな試聴となって何とか体裁を保つことができた。これもお休みのところ来て頂いた皆さんのお陰であり、大変感謝している。友人とは有難いものだ。
 展示会では商品を見て、当然音を聴いていただいた。それぞれ好きなCDを持参してもらいその音を聴いていただいた訳だが、それぞれ聴く音楽の好みが違うのでその好きな音楽のジャンルで音を評価していただいた。我が家のシステムはCDプレーヤーはSONY XA50ES、プリアンプは自作真空管プリアンプ、パワーアンプは当然Adagio、スピーカーはB&W ノーチラス805で、小規模のシステムだ。さて皆さんの印象はどうであったか。比較的多いの意見が音のバランスが良いという意見だった。しかしこれはアンプが良いからか、スピーカーが良いからか、部屋のせいなのか分からないと言うのもあった。我が家の試聴室(ただのリビングルーム)は2階にあり、スピーカーの後方が1階との吹き抜けの空間になっており、低音がこもりにくい。(反射波が少ない) 更に部屋壁が平行になっていないので、音が定在波が少ない。よってほとんどスピーカーからのダイレクトの音を聴いている状態で、B&Wのスピーカーで聴くと音源の奥行き感が良く分かる部屋ではある。またこの部屋の特性と真空管アンプの特長からか、長時間聴いても疲れないというご意見もあった。また厳しいご意見もあった。もっと低音がほしいという意見でである。低音の出方が膨らみすぎず良いという意見もあったが、一方ではもっと下の音が出ないかというご意見である。これはノーチラス805の特性も影響していると考えている。ノーチラス805の周波数特性を見ると、150Hz辺りに軽い山があり、100Hz辺りから低い方ににだらだらと下がる特性をしている。高級スピーカーのB&W 800Dの特性を見ると60Hz以下まで伸びているところを見ると、もっと低音が出そうな気がする。また我が家の部屋の特性から低音がこもらないので、ふくよかな低音とはなり難いかも知れない。今後スピーカーを替えて実験してみようと思っている。さらにアンプとスピーカーとのインタフェースをどのように設計したら良いのかを突き詰めてみたい。面白いテーマだ。
 さて今回初めて展示会を開き、それに参加していただいた方には改めて御礼申し上げたい。また貴重なご意見もいただき感謝している。私の提案した真空管アンプを通じて、音楽好きな方、オーディオ好きな方に貢献できるのであればうれしいことだ。今後ももっと広く皆さんに楽しんでいただけるように、商品やイベントで真空管アンプを広げていきたいと願っている。




2005年11月11日
<Coffee break>
 今<Adagio>の導入イベントの準備と以前造ったお客様のアンプのVer.upで少し忙しい。このコラムも重いものは書く気になれず今回は気分的にコーヒーブレイクしたい。
 コーヒーは大好きだ。以前サラリーマン時代一日に4〜5杯飲んでいたこともある。いつもコーヒーブレイクしていた感じだ。コーヒーを飲みながら仕事をしていた訳で、タバコ代わりにコーヒーを飲んでいた。アメリカに出張すると面白い光景がある。オフィスの廊下をマイカップを持って歩いている人に出くわすことがある。皆さんそこら中でコーヒーを飲むものだからカップを持ち歩いている訳だ。会議をするとテーブルにはコーヒーかコーラ、それに菓子パンが置かれる。それらをつまみながら会議をする。これはハイテク産業ばかりでなく、弁護士事務所でも同じだったから、一般的な光景だろう。Coffee breakという言葉もアメリカ英語の様でアメリカではコーヒー休みが普通なのだろう。
 今は自宅で一人で仕事をしているせいか、これ程コーヒーを飲まなくなった。理由は簡単で自分で入れるのが面倒だからだ。しかし毎日の朝のコーヒーは欠かせない。週日はペーパードリップで入れたコーヒーにミルクたっぷりのカフェオレを飲む。これも以前はコーヒーはストレートで飲んでいたが、パリで飲んだカフェオレがおいしく、それ以来カフェオレ党になってしまった。豆の味は良く分からない。味わうというよりむしろ朝の眠気を覚ます一杯だ。週末は私が入れるカプチーノを飲む。エスプレッソマシーンを使って入れる。これはおいしく入れるコツがある。ひとつはマシーン。以前義弟に我が家のとは異なるエスプレッソマシーンをプレゼントしたらおいしくないと言われた。私がそのマシーンを使って入れたがやはりおいしくない。ミルクがうまく泡立たない。これはミルクのせいではなく、明らかに機械のせい。そこで我が家と同じメーカーのエスプレッソマシーンを再度送った。また牛乳の選択も重要。低脂肪の牛乳はだめ。私のお勧めは明治のおいしい牛乳。これならおいしいふっくらとした泡ができる。晴れた日曜日にこのカプチーノを飲みながら、庭に来る小鳥などを見ていると至福の時と思える。これにはコーヒーが一役かっている。
 さてこのおいしいコーヒーを飲めるのも地元能見台のアステカさんという自家焙煎珈琲店があるお陰だ。微妙な味は分からないが、ミルクを入れて飲むにはそれに負けない香り、味がコーヒーにないとおいしくない。ただのコーヒー牛乳になってしまうからだ。また特にエスプレッソ用に非常に細かく豆を挽いてくれるのが有難い。このアステカさんのご主人、コーヒー教室も開いていて、応募者も多いらしい。私はコーヒーの味は良く分かっていないのだが、いつか正しいコーヒーの入れ方というのも教わってみたいと思っている。コーヒー好きな方はこのホームページのリンクにアステカさんが紹介してあるので、読んでみたらいかがだろうか。




2005年11月2日
<続Adagio(アダージョ)について>
 前回に引き続きAdagio について述べてみたい。今回はAdagioの設計方針について。
 オーディオ製品の究極の姿を表すことばで「原音再生」とか「ゲインをもったワイヤー」とかいう言葉がある。オーディオ製品をどのような位置付けにもって行くかということだが、私は後者の方の考え方だ。オーディオ製品を芸術だという評論家もいるが、オーディオの主役は演奏者でありオーディオ製品は脇役で音楽の邪魔をしないことが重要だ。一音一音を出すのに大変な練習と楽譜の読みをしている演奏者の表現を邪魔してはならない。CDなどに録音されている音をいかに忠実にスピーカーから再生することが重要である。それでは忠実に再生するとはどの程度のことだろう。言葉で言うことは簡単だが実現は難しい。アンプでも使われている部品の性能の限界があるし、繋がれる他の機械にも影響されるし、人間の検知能力も考慮にいれなければならない。アンプにとって忠実とはそれが装置全体性能のネックにならないようにして、他の装置の性能をフルに引き出してあげることだ。
それではAdagioはどの程度の忠実を狙って設計したか述べて見たい。例えば周波数特性はフラットであることが重要だが、一番問題になるのはスピーカーだ。それもインピーダンスが変動しているので、これをフラットにするには技術を要する。アンプはスピーカーのインピーダンス変動にも影響されずにドライブしてあげなければならない。Adagioはアンプの出力インピーダンスを出来るだけ低減し、これまでの真空管アンプに比べ1/2以下位まで下げた。またSACD対応を考えると高域は100kHzまでは必要と考えた。歪はどうだろう。これもスピーカーで発生する歪より下げることを考えた。スピーカーで発生する歪は良いもので1kHz・1Wで60dB(0.1%)〜70dB(0.03%)発生する。アンプはこれより10dB〜20dB少ない歪のアンプを目指した。1%程度の歪を持つアンプで音が良いと言う記事もあるが、これではCD・スピーカーの能力を活かしてなくアンプが邪魔をしている。Adagioは1kHz・1Wで80dB(0.01%)の実力になった。ノイズはどうだろう。これは人間の検知能力に影響している。昔私の友人がFMチューナーを設計していた時、それまでFMのS/N比を70dBから80数dBまで性能を上げた。この時の音の印象はノイズ感が大変少なくそれまでとは明らかに違っていた。更にその後PCM録音された90数dBの音には無音から音が出る印象で、人間のノイズ検知能力の高さを思い知らされた。人間は歪成分より相関のないホワイトノイズの方が検知しやすい。だからアンプのノイズはなるべく下げることだ。Adagioはホワイトノイズ成分ばかりでなくクロストーク成分(セパレーション特性)も十分注意を払っている。音楽にノイズは不要である。
 他にも細かい点はいろいろあるが、私のAdagio の設計方針を少しは分かっていただけただろうか。アンプの設計は人それぞれ目指す方向が異なるから違ってくる。それは当然なことで、そこにオーディオの個性が生まれる。さてこのような意図で設計されたAdagioの音はどうだろう。これが重要だ。アンプは測定器ではなく音楽を聴くものだからだ。このコメントについては差し控えたい。これは音楽を楽しむ皆さんが決めることであり、私が決めることではないと思う。ただ一言言いたいことはこれまでの真空管アンプより一歩深く踏み込んで設計していることだ。私が提案したこのAdagioが皆さんに評価されたら最高だ。



2005年10月20日
<Adagio(アダージョ)発売>
 この秋にMYプロダクツより最初の既製パワーアンプ<Adagio(アダージョ)>を発売する予定だ。そのため準備で忙しい。このホームページのトップページも久しぶりに書き換えた。如何だろうか。
 さて今回発表する<Adagio>はこれまでの経験を活かし、インピーダンスの変動が激しい現代スピーカーにも対応した力作の真空管パワーアンプだ。特性を見ての通りDF(ダンピングファクター)が20以上、低歪、低ノイズ,セパレーションも優れ、真空管アンプとしては抜群の数値を示している。しかしなかには音と物理特性は比例しないと言う方もいるであろうが、真空管アンプの特性はこれまで悪すぎて単なる言い訳にしか聞こえない。ここまで追い込んだ特性の真空管アンプの音を経験している人は少ないと思う。特に低出力インピーダンスのこのアンプからドライブされる音は異次元だ。何人かに試聴してもらっているが、低音がこれまでと違い、また楽器の分離や歯切れがすばらしくこれまでの真空管アンプとは一線を画している。余り自画自賛すると疑われるのでこの位にする。
 Adagio(アダージョ)とは音楽用語で<緩やかに>という意味だ。クラシック音楽ではアダージョと名の付く曲は多いし、名曲、人気曲が多い。よく名曲クラシックなどに出てくるのは<アルビノーニのアダージョ>が有名だし、確かカラヤン指揮でアダージョだけを集めたCDも出ていたはずだ。私は機種名をつけるのに悩んだが、<A−100>のような英数字の機種名はつけないつもりでいた。何故か味気ない機械の名前で、それでは音楽を聴くには楽しくないような気がしたからだ。私としてはもっと音楽を楽しんで、ゆったりとした気分に浸って欲しい希望もあり<Adagio>に決定した。勿論このアンプはクラシックばかりでなく、ジャズ・ロックも楽しめる様に設計してあるので心配はない。これまではオーダーメイドのアンプを中心に設計してきたが、今回初めて既製のアンプを提案したのは、もっとMYプロダクツのアンプで音楽を楽しんで欲しいからだ。
 初めて提案するMYプロダクツのアンプの評判がどのようになるのかは楽しみである。
皆さんMYプロダクツの<Adagio>宜しくお願いいたします。


2005年10月10日
<オーディオショウあれこれ>
 この時期オーディオのイベントが目白押しで、私も楽しみにしていろいろ参加した。商売敵(?)がどのような展示をしているのか楽しみだ。AVフェスタ・東京インターナショナルオーディオショウ・ハイエンドショウ・真空管オーディオフェア全て見た。全部で何曲のデモの曲を聴いたことになるのだろう。特に10月7日は東京インターナショナルオーディオショウとハイエンドショウのデモ音楽の他に中川昌三のジャズフルートの生演奏と夜は女房とタンゴの演奏を聴いたものだから、ほぼ一日中音楽漬けの一日で特に楽しい日であった。
 生演奏とオーディオのデモでは私が受け取る音楽の感覚は違う。中川昌三はCDを持っていたので初めて生の音楽を聴いたが、もともとクラシック出の人でもっとクラシック的な演奏をするのかと思っていたが、まったくジャズで音は当然良いし、演奏もうまい。生演奏ではCDで聴くような大きなベース音はせず、もっとあっさりと聴こえるが、演奏にこちらがノセられてそんなことはまったく気にならない。また夜のタンゴ演奏はアルゼンチンのバンドでダンスは当然<シンゴ&アスカ>のお二人。演奏はどうかろ言えば荒っぽいしベースはお世辞にもうまいとは言えず、PAを通して聴くので音も良いとは言えない。しかし名曲の<ラクンパルシータ>や<バンドネオンの嘆き>の演奏になるとさすがに演奏者もアドリブが増えて乗ってくる。すると聴いている我々も俄然楽しくなってくる。これがプロの演奏なのだろう。やはり生演奏はこちらを楽しくさせてくれる。
<シンゴ&アスカ>のお二人もすばらしかった。私はダンスのことは良く分からないが、多分細かな動作は高度な動きをしているのだろうが、まことに流れるような動きできれいだった。これがお二人の表現するタンゴダンスなのだろうと勝手に思っている。
 さてオーディオショウの印象はどうだったか。当然いろいろだった。悪い印象はデモの仕方だ。デモにつかう曲により私には耐えられない場面があった。やたら低音を響かせ名演奏とは思えないことが多い。あるブースでは<キャラバン>を演奏していたが、すごい低音が出ていて、これが音楽かと疑いたくなるのがあった。他ではバッハの無伴奏チェロ組曲をサクスフォンの演奏でデモしていた。何でサクスなのか。名曲を聞かせるにはチェロで聴かせたほうが我々は聴き慣れていて製品の違いがより分かると思うのだが、どちらも普段家では聴かないような音楽を聴かせている。私にはデモする人のセンスを疑ってしまう。本当に音楽が好きなのか。製品を音楽再生を楽しむ物と見ていないようだ。
 私が感心したのはソナスファベールの<ストラディバリウス>というスピーカのデモ。さすが500万円もするスピーカで弦楽器の再生に自信があるせいか、<ギルシャハム>のバイオリン演奏と誰か知らないがチェロの演奏を聴かせてもらったが、スピーカの存在を忘れるほどに音楽に聞き惚れてしまう。音楽に入っていってしまう。こんなスピーカが造れるのかと感心してしまうと同時にデモのさり気無さに好感が持てた。
オーディオマニアには音楽が好きな人と音そのものを求めている人がいる。売る方にしてみたら如何に自分の製品がすばらしいかをアピールするためにしていることであろう。しかしこの日は生演奏を同時に体験して私にとってやはり音楽とは楽しむものだということを再認識した。業界ももっと音楽を楽しむとことを主眼に置いたならば、今のように海外製品の馬鹿高い製品ばかりが残り、一方聴く方もiPod文化にならなかったかもしれない。
この先オーディオはどこに向かっていくのだろうか。


2005年10月1日
<秋葉原>
 前回<シンゴ&アスカ>のコラムを掲載しましたら、早速ご本人からFAXをいただきました。ご本人が嬉しくてジーンとしてしまったということでした。私としても嬉しく思っております。また失礼がなくてよかった。

 今回のトピックは秋葉原。最近秋葉原は話題が多い。再開発が著しく町並みも変貌し、ITビジネスの中心となっていくようだ。また筑波エクスプレスの開通で人の流れも変わってきた。昔とは変わってきている。しかし最近何よりも話題になっているのが<電車男>で有名になったオタクである。アニメとフィギアの町として日本だけでなく世界中からマニアが集まっているらしい。昔は電気の町世界の秋葉原であったが、今はアニメ・フィギアの町世界の秋葉原である。そこに集まる人間を何故か秋葉原オタク族と称している。
 実は私は自分のことを秋葉原オタクであると思っている。タモリも自分のことを秋葉原オタクと称していたが、電気製品見ていると楽しいらしいのだ。私の場合はもっとマニアックで部品を見ているだけで楽しい。完成品には余り興味がない。部品をながめながらいろいろ想像しているのが楽しい。また秋葉原に行くときのファッションはいつも帽子・リュック・コッパン・スニーカーである。当然スーツは似合わない。先日この格好で女房と銀座でランチを取ったら、女房からクレームがついた。このファッションは銀座には似合わないらしい。私が主に買う部品は当然真空管アンプの部品が多い訳だが、最近これらの部品が少なくなっていて、また価格も高騰しているのが寂しい。真空管は東欧、ロシア、中国製が最近あるが、高耐圧電解コンデンサーなどは種類も減っているし、売っている店も少なくなってきた。何とか生産を続けて欲しいものだ。
 秋葉原の他の魅力は下町の雰囲気と老舗だ。私は昼飯には<松栄亭>という洋食屋によく行く。その昔夏目漱石も通ったという老舗で、私には味が飽きなくて楽しめる店だ。他にも<うさぎや>のどらやきもおいしいし、もう一つ大好物は<構(かまえ)>の薩摩揚げ。屋号はマルカで、店は地下鉄末広町駅脇、部品の若松通商の隣の小さな店だ。両脇のビルにはさまれそこだけが築50年は経っていると思われる昔の店構えで建っている。母の実家がこのすぐ近くなので私は小さい時から食べているから40年以上食べていることになる。薩摩揚げも10種類以上あり、いつも買う時には2個づつ適当に1000円分程度下さいと注文する。するといろいろな薩摩揚げを取り揃えてくれる。食べ方は何も付けずにそのまま食べる。おでんなどにしたらもったいない。そのまま味わうのが最高の食べ方だ。昨日の夕食もこの薩摩揚げだった。40年以上食べていても飽きがこない。時代と共に味は少しは変えているかもしれないが、飽きが来ないのはさすが老舗の味と言わざるを得ない。
 真空管や部品、松栄亭、うさぎや、マルカなど昔から伝統あるものは今後も永く続いて欲しいと願っている。前回も書いたが普通商売はビジネスだ。だから儲からないとその商売を辞めてしまう。しかしそれでは何か寂しい。これらのものは秋葉原と共に永遠に残って欲しいものだ。




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