手造り真空管アンプの店




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店主コラム 2010年7月分〜9月分




2010年9月21日

<最新の真空管アンプは必要?>
 ここ数回のコラムで真空管アンプにおけるスピーカーの駆動法について書いた。これは技術的に私のノウハウを述べている。特に最近のスピーカーの駆動法について述べたものだ。その他にも世界最高と一人で宣言しているD.F=43以上のアンプだとか、ゲイン可変型反転アンプのノイズ解析などもこのサイトで述べている。私としては真空管アンプでもここまで性能・音が良くなりますよという意味でいろいろ研究しているつもりなのだが、先日女房に厳しい言葉を浴びせられた。

 「真空管アンプが好きな人は必ずしも最新技術の真空管アンプを欲しがっているのではないんじゃないの」と言われてしまった。これは痛いところをついている。真空管アンプは性能でいえばトランジスタアンプにはかなわない。それに真空管アンプを欲しがる人はこれまで使っていた真空管アンプの代替とか、昔買えなかった真空管アンプを余裕が出来たから買いたいとか思っている人が多いのではないか。別に中途半端な性能の真空管アンプではなく、昔の真空管アンプが欲しいと思っているのではないかと指摘されたのである。
 中途半端な性能というのはトランジスタアンプに比べての言葉である。真空管アンプというのは、複雑な回路はどうしてもヒーター電源やPNPトランジスタに相当する真空管がないので複雑な直結回路を組むのが難しく、到底トランジスタアンプの機能・性能を出すのは出来ない。だから真空管アンプで性能を出そうと思っても中途半端なものになってしまう。例えばD.F(ダンピングファクター)など真空管アンプで40以上は大きい数値だがトランジスタアンプでは数百あるいは千を超えるD.Fのアンプは多い。

こう言いながらも女房は我が家のオーディオの音は気に入っている。私が一生懸命アンプの改善をしてきたからこそそれなりの音が楽しめるのに、商売は別ではないかという指摘でもある。しかし私は今のやり方すなわち真空管アンプの性能を上げる追求は止めるつもりはないし、商売の仕方も変えるつもりもない。昔の回路では当然今の音を楽しめないからだ。私が好む音を追求していくとやはりD.Fが高いとかノイズが少ないとか、でも真空管を使うことにはこだわりを持っているから、今の形になっていく。
 私はB&Wのノーチラス805によって私のアンプ技術力が上がってきたと思っている。スピーカーによって育てられたのである。これがJBLのスピーカーだったら違う方向へ進んでいったかもしれない。手ごわい相手がいたお陰でアンプの性能が良くなっている。これが私にとって楽しみであり、生きがい(ちょっと大げさ)でもある。

女房の指摘でちょっと考えさせられた。今後は少し注意して商売に当たらなくてはいけない。







2010年9月11日

<スピーカーの駆動W>
 前回までスピーカーのインピーダンスの変動に対して出力段、電源回路、測定法について述べたが、真空管アンプの場合これらを上手く解決する方法がある。
 それは出力トランスをうまく利用する方法だ。電源の容量を考えた時、トランジスタアンプの場合例えば4Ωの負荷(スピーカー)では、8Ω負荷の倍の電流が流れることを想定して電源トランスの容量が必要となる。負荷電流は倍になるが、電源トランスの電流容量として単純に倍とはならないが、電流が増えることを想定しなければならない。だからアンプしては最小負荷(例えば4Ω負荷)で電源を設計しておけば、8Ωはその半分の出力のアンプとなる。
 出力トランス付きの真空管アンプの場合、出力トランスというインピーダンス変換器を上手く使えば、電源トランスの容量を大きくせずに対応することができる。それは出力トランスの4Ω端子から出力する方法だ。これは4Ω出力端子で4Ω以上に変動する負荷に対応させることだ。このとき8Ω負荷時では最大出力は半分になるが、4Ω負荷時にも最大出力が保証される。言い換えると8Ω出力端子に8Ω負荷を繋げた時最大出力が保証される電源回路があれば、4Ω出力端子に4Ω負荷を繋げるのは同じ電源電流なので電源容量が保証されることだ。だから通常8Ωで最大出力が得られる出力トランスと電源トランスがあれば、あとは出力を4Ωから出してあげれば、4Ω〜30Ωに変動する負荷に対応できる。ただし8Ω負荷での最大出力は最初の設計の半分になる。

 私の設計するアンプはこのようにしている。8Ωでの最大出力は半分になるがきちっと4Ωまで保証できるようにしている。最大出力が下がる点について使用上問題がないかと思われるが通常家庭で使用している分には問題ない。私が普段聴いている試聴レベルでは大きくても1W程度の出力しか出ていない。例えばB&W805の場合、能率は88dB/2.83V/mである。だいたい2.5mくらい離れて試聴しているのでロスは−8dB程度。2cH分で+3dB。よって1Wのアンプ出力でも83dB程度の音圧レベルで聴いていることとなり、音量でいえばうるさい部類に入る。家庭ではこの程度の音量で普段聴いている人がほとんどだ。だから最新アンプでも10W/8Ω、20W/4Ωの最大出力でも十分使用できる。最大出力よりスピーカーのインピーダンス変動に対し一定の出力電圧を供給するアンプの方に価値がある。
 電源回路にしても低インピーダンスが必要だ。いくら電源の電流容量があってもそれが使えなければ意味が無い。だからこちらもチョークコイルは使用せず、リップルフィルターで低インピーダンス化し、特に低域での電流供給能力を上げている。

アンプのスピーカー駆動について数回にわたってコラムを書いてみた。ちょっと長すぎたかもしれない。思うがままキーを叩いていったらこんな長さになってしまった。これは私の考えであり、違うご意見もあるかもしれないが一案としてご容赦願いたい。








2010年9月1日

<スピーカーの駆動V>
 さらに話を進めよう。前回スピーカーのインピーダンスの変動によるアンプの出力段の影響をかいた。
 真空管アンプではどうなのだろうか。電流負帰還については真空管アンプでもカソード抵抗の影響がでる。真空管アンプの出力段には固定バイアスと自己バイアスがある。自己バイアスはカソード抵抗を挿入しその電圧降下でバイアスを与えるものなので、前述したカソード負帰還の影響が出る。注意が必要だ。固定バイアスではカソード抵抗を省くことができるので、この点半導体アンプより有利になる。
 注意しなければならないのがシングルアンプの時だ。シングルアンプはある固定のバイアス電流を設定してその範囲内で信号が振れるように設計する。これをAクラス動作いう。ところが実際スピーカー負荷時ではインピーダンスの下がった時点でより多くの出力電流を要求する。4Ωまで下がるスピーカーでは8Ωの倍の電流が必要だが、この時出力段のバイアス電流以上の電流が流れる可能性があり、その時信号はクリップしてしまう。小出力シングルアンプでは気を付けないとこの現象が実際スピーカー負荷時で起こってしまう。プッシュプルアンプでは出力管のゼロバイアス近辺まで振り込めるのでこのようなバイアス電流による電流制限は起こりにくい。だから真空管のシングルアンプでは特にスピーカーの負荷変動に注意しなければならない。
 真空管アンプではスピーカーのインピーダンスの変動でアンプの出力段の動作で注意しなければならないことがさらにある。これはシングル、プッシュプルに限らず真空管アンプの出力段は通常ゲインを持った回路になっており、負荷の変動により出力段の電圧ゲインも変動してしまうことだ。前にも述べたが負荷インピーダンスが変化してもゲインは変化してほしくないのだが、アンプの構成上出力段のゲインも変化してしまうのでここを押さえなければならない。電圧負帰還回路が有効なのだが、無帰還アンプでは難しい。出力管を考えると、五極管より三極管(接続)、UL接続が有利である。

 次にアンプの電源についても述べてみよう。何度も書くがスピーカーに流れる電流は8Ω負荷時で設計している以上に流れている。この電流は当然電源回路から供給されるので電源回路の設計は余裕をもった回路にしなければならない。4Ωまで下がるB&Wのスピーカーなどを使うアンプは4Ω負荷時でも十分電流を流し込めて、出力電圧が下がらないようにしなければならない。8Ω負荷時の倍の電流を想定して設計することとなる。しかし使用時の音量によっても最大電流は変わるからどこまで保証するかは設計者の自由だ。

 雑誌などでアンプのドライブ能力を表わす能力として、4Ω負荷時の最大出力が8Ω負荷時の倍になっていることが良いとされているが、私はそれだけではこの能力を正しく見ていないように思う。それより8Ω負荷時と4Ω負荷時で出力電圧が下がらないことのほうが大事だ。最大出力が倍になってもその時のゲインが下がってしまったら、信号をドライブできたことにならない。要はスピーカーのインピーダンスが変化してもアンプのゲインが変動しないことが重要なのだ。私はこの能力を測定するために8−4法という出力インピーダンスを測定する方法を数年前に考案している。これは8Ωと4Ω負荷時での出力電圧の差を調べるものだ。これが変化しないほうが良い。私の最新のパワーアンプではこの差が-0.2dB(D.Fで43になる)となっている。恐らく真空管アンプでは最高レベルの値ではないかと推測している。何せこの測定法は私以外に使っていないから比べようもないが。この8−4法によればカソード抵抗の違いも出てくるし、電源回路の差も出てくる。このサイトの表紙に出ている3番目のアンプがこの8−4法で-0.2dB、D.Fで43以上のダンピングファクターを有している。

 まだ続く







2010年8月21日

<スピーカーの駆動U>
 前回、スピーカーのインピーダンスの変動がアンプに与える影響について書いた。今回も更に話を進める。スピーカーのインピーダンスが大きく変動していてアンプの出力電圧は一定でも出力電流は大きく変動していると書いた。スピーカーの能率は周波数で大きく変動している。アンプはどのように動作するのが理想なのだろうか。まずスピーカーの音圧レベルの周波数特性をフラットにするためにはまずアンプの出力電圧の周波数特性もフラットでなければならないのは当然のことだ。これは負荷が変動してもという条件だ。8Ω固定での負荷ではない。このような条件でも出力一定にするのに電圧負帰還は効果がある。オーディオ愛好者には負帰還を毛嫌いする方もおられるが、まずスピーカーを正しくドライブするためにはこの電圧負帰還は有効な手段だ。もちろん負帰還なしで負荷変動時でも周波数特性がフラットに保たれるのであれば問題ないが、これを実現するのは難しい。これはしつこいようだが負荷が8Ω固定での出力電圧ではない。負荷が4Ω(あるいは最悪2Ω)に下がっても出力電圧を保てるアンプが必要ということだ。だから私はアンプにおいて電圧負帰還は有効な技術と思っている。

 次にスピーカーに流れる電流について考えてみよう。スピーカーに流れる電流はスピーカーに与える周波数によって大きく変動する。これはスピーカーをドライブする真空管でいえば出力管、半導体アンプでは出力トランジスタ(FET)の電流も出力電圧が一定でも周波数により電流は大きく変動していることを表わす。ここで問題になるのが、出力段(管)のカソード抵抗やエミッター抵抗の悪影響である。この抵抗は特に半導体では温度による安定性を高めるために通常挿入されているが、これが入力電圧に無相関で負荷インピーダンスに影響された電流負帰還が発生してしまう。これは出力電圧に悪影響を及ぼすだけでなく、電流の変化を押さえ込む方向に発生するので、スピーカーの電流変動要求に逆の反応をしていることを表わす。あるメーカーなどはこのエミッター抵抗をなくしてしまったアンプを作ってしまった。当然温度特性もクリアーしてのエミッター抵抗レスなのだが、これは素晴らしい技術だ。一番の理想はエミッター抵抗無しなのだが、他の手段として出力トランジスターを並列に繋げることも効果がありそうだ。これは等価的にエミッター抵抗も並列値になり値を小さくすることができる。
 この出力段の電流負帰還が音質に与える影響はかなり大きい。スピーカーのインピーダンスは100Hz近辺で一番インピーダンスが下がり電流を多く必要とする。これはウーハーのコーン紙は大きく、質量があるので一定の音圧を出すにはパワーが必要であることで推測できる。電流負帰還の影響はこの低音のドライブに大きく影響する。電流を流そうと思っても電流負帰還によりそれを押さえてしまう。だから伸びのある低音が出なくなってしまう。この現象は8Ω負荷だけでアンプの特性を良くしてもみつけられない。

 スピーカーの動作原理を考えると、理想のオーディオアンプとは理想の電圧増幅器である。ゆえに電圧負帰還はスピーカードライブの上で理にかなった方式であり、負荷変動による出力段の電流負帰還は害を及ぼすものと考えている。

 さらに続く。







2010年8月11日

<スピーカーの駆動>
 最近のオーディオ雑誌やサイトでもスピーカーのインピーダンスの変動について正しい認識をされているコメントが増えてきていると感じている。現代スピーカーのインピーダンスの変動は大きく、かつて公称インピーダンスと呼ばれていた数値が正しい定義で語られておらず、アンプ設計者としては大きな問題となっている。私は5年位前からこのスピーカーのインピーダンスの変動に対応するアンプの設計というところに重点を置き、アンプは低出力インピーダンスの必要性を述べてきた。私はご注文を受けてアンプを設計する時まずお客さまのご使用のスピーカーをお聞きし、そのインピーダンス特性を調べ、データはないのがほとんどなのだが、かつて雑誌で発表されたデータを参考にしながら、そのスピーカーに合ったアンプを設計している。そこまで必要かと思われるかもしれないが、相手(スピーカー)を知らないととんでもないアンプを作ることになるからである。
 今回少しこの問題を掘り下げてみたい。

スピーカーのインピーダンスはかなり周波数変動する。今発売されている<ステレオサウンド誌>を読んでもB&W800Diamondは3.1Ωから20Ω以上に変動する。他のスピーカーでは最低2Ωまで下がるスピーカーもある。我が家の古いB&W805でも最低4Ω最高30Ω位まで変動する。公称インピーダンスは8Ωである。こんなスピーカーをアンプでドライブする時どんな問題が起こるのだろうか。一つはアンプの出力インピーダンスの影響で実際スピーカーから出てくる周波数特性が変動してしまうこと。だから私の設計する真空管アンプではD.F値を43まで上げた恐らく世界最高値をもつアンプを設計している。次に考えなければならないことはアンプのドライブ能力である。
 ところでスピーカーというのは周波数特性を測るとき、端子に定電圧を与えて測定される。周波数に関係なく電圧は一定になるようにアンプは供給しなければならない。例えば8Ωの公称インピーダンスを持つスピーカーでは1Wの電圧2.83Vをスピーカーに供給する。1m離れた位置でその音圧レベルを測定する。このときアンプはどのような動作になっているのだろうか。電圧はあくまで一定値2.83Vを供給しているのに、インピーダンスは4Ωまで下がっているということは、8Ω負荷に比べ電流が倍必要としていることだ。電圧は同じで電流が倍であることは電力が倍になっているにもかかわらず、音圧レベルは同じということになる。このインピーダンスが4ΩになるところB&W805では200Hzくらいのところだが、このときスピーカーの能率は半分に落ちていることを表わす。アンプとしては200Hz付近では1W出力するのに2W必要ということだ。一方1KHz付近ではスピーカーのインピーダンスは16Ω程度であり、このときは公称インピーダンスの時より半分の出力(電流)で同じ音圧が得られている。
 これでお分かりだろうか。アンプの設計は8Ωだけで設計していても意味が無いのである。実際スピーカーを接続した時、周波数特性は出力電圧は一定で与えても、周波数により出力電流は大きく変動しているのである。しかもその電流の最大値はスピーカーにより異なる。実際には試聴レベルからも影響する。

B&W805を使う場合では通常設計8Ω負荷時の倍の電流を流せる電源、出力素子などが必要となるのである。2Ωまで下がるスピーカー(これは公称4Ωだが)さらに強力な電源が必要になる。これはトランジスター、真空管の区別はない。だから相手(スピーカー)の特性を知らずしてアンプを設計することは大変大げさなアンプが必要になる。これはアンプ設計者にとってきびしい環境だ。特に大出力で聴くリスナーには、アンプの負担は並大抵ではない。
 通常アンプは決められた公称インピーダンスのスピーカーは接続できる。ところがスピーカーが公称インピーダンスより下がって2〜3Ωまで下がることを想定してはたしてどの位のアンプが設計されているのだろうか。限られた数のアンプになるだろう。スピーカーによっておのずとそれに合うアンプは限られてくる。
 近年オーディオ業界では機器の特性は必要なく、音が良ければよいという風潮がある。しかし実際繋がる相手の特性も知らずしてアンプを設計しては正しい方向に向かないであろう。

次回続く。






2010年8月1日

<土佐料理>
 7月末四国の高知(土佐)・香川(讃岐)と旅行してきた。女房の友人が高知出身で高知を案内していただけるというお言葉に甘えて行ってきたのだが四国は初めての旅だった。どんな風景なのか、どんな料理があるのか期待に胸を膨らませ飛行機に乗った。
 初日は生憎雨になってしまったが、高知空港に降りると南国の感じがする。暑い。直ぐに龍馬像のある桂浜に向かう。予想より狭い浜辺だ。九十九里や湘南の浜辺に比べかなり短い浜辺だった。土佐を訪れる大きな目的はこの桂浜だ。桂浜(龍馬像)を見なければ土佐に来た意味がない。以外と小さく何かあっけない風景にあまりにも期待が大きかっただけに拍子抜けの感じがしないでもない。まあ実際桂浜を見たという事実だけが残った。その後、美味しい伊勢海老を食べさせてくれる池の浦というところに移動して、伊勢海老料理にありついた。伊勢海老のフルコースである。料理屋といっても洒落たレストランではなく、池の浦の漁港近くの民宿みたいなところだ。まず伊勢海老の活き造りが出てきたが、海老の量がすごい。海老とあおりイカの刺身だが、これが甘くておいしい。そして量が多い。昔、鳥羽でも伊勢海老の刺身を食べたが量がかなり違う。3倍近くの量がある。刺身だけでもかなりの量なのだが、さらに鍋でまた伊勢海老が出、その後おじやで締めたがもうこれ以上入らないくらい味良し、量良しの大満足の昼食だった。
 その日の夕食は伊野町の料理屋で一杯やった。ここでも最初から期待していた<鰹のたたき>にありついた。これもこの旅の目的の一つだ。この鰹も美味かった。これまで暖かい鰹のたたきを食したことがなかったのだが、土佐では鰹はその場で火であぶってから出されるので鰹が少し暖かい。刺身のイメージが少し変わる。味は肉がふわっとしていて、臭みなどなく絶品の鰹だった。また鰹と一緒に<つま>として食べる玉葱のスライスも甘くおいしい。トマトも美味しかった。また土佐清水で捕れる清水鯖も食べた。鯖の刺身だ。これも生の鯖なのだが臭みがなく旨みのある刺身だった。酢で締めてない生の鯖は初めて食べた。
 もう土佐で美味しいもの言ったらきりが無い。土佐は川が大変きれいだ。伊野町には仁淀川と言う清流があり四万十川よりきれいということだが、鮎の塩焼きもおいしかったし、他にはとうもろこしを茹でた<ゆできび>、ご飯にかけた生卵(土佐ジロー)、粒が小さめの米、調味料のポン酢、少し甘めの醤油、他には国友農園のお茶など美味しいものが多く、大変満足できるものだった。土佐はうまい。

高知市は何か昭和の感じが残っている都市だった。昔から独自の文化が育ってきたように感ずる。それに人情もある。だからどこで食べても、美味しく食べる食べ方を知っていて、お客に惜しげもなく出してくれる。この繊細さと豪快さが入り混じった土佐の文化に十分浸ってきた旅であった。

四国は暑い。35度くらいあっただろう。だが土佐と讃岐とは雰囲気が違う。土佐は山が多く水が豊富だが讃岐は平坦で乾燥している。海も瀬戸内と太平洋とでは違う。だから食べ物がまったく違う。土佐は自然が厳しそうだが食べ物は美味かった。


    

左から桂浜(背景右の小山に龍馬の像がある)、伊勢海老の活き造り、仁淀川、はりまや橋、国友農園の茶畑








2010年7月21日

<エージング>
 エージング、あるいはエイジングと呼ばれる言葉を聞いたことがあると思う。人間で言えば加齢すなわち歳を重ねていくこと。私などはもう重ねすぎでアンチエイジングが必要なくらいだ。車などは慣らし運転の意味で使われ、酒の熟成などにも使われる。オーディオでもエージングという言葉で使われ、慣らし運転の意味もあるし熟成の意味でも使われる。オーディオの場合エージングにより本来の性能・音が発揮されるといった意味で使われることが多い。
 MYプロダクツでは納入後、1年後とか数年後にバージョンアップをしてあげることが多い。私の技術が上がったとき、改造の可能性があるときにはなるべくしてあげている。その方が安く、グレードの上がった音を楽しめるからだ。さてこのように設計・納入後数年して改めてお客さまのアンプを聴くと音が初期の時と違っていることに気づく。どのように変わるかと言えば、「音に柔らかさが増す、しっとりした感じになる、中低域が充実する」「乾いて高域寄りの音がしっとりと低域寄りに重心が移る感じがする。」こんな印象を持つ。音としては良い方向に変化している。これは印象だけで何かアンプの性能が大きく変わったということではなく、あくまで試聴での感じ方なのである。この傾向というのは世間一般のオーディオ製品もあるようでメーカー製のアンプなどもエージングにより音が変化することは普通らしい。エージングとはただ使用しているだけ特別なことはする必要ない。使用するだけで何かが変化するのである。

 では真空管アンプの場合何が変化するのであろう。使用すれは全ての部品は変化するのは当然として、ほとんどは寿命が縮まる方向なので逆に性能が上がる要素はないのかを考えると、二つの部品にたどり着く。一つは真空管でもう一つは電解コンデンサーである。全ての部品について詳しくは知らないが、何故この二つの部品の影響が大きいかと言えば、これら2つの部品はその製造工程にエージング工程が入っていて、エージングにより部品の性能を上げているからである。真空管の場合その製造工程でエージングがあり、その効果は<豊富なかつ安定したエミッション(電子放出)が得られ、球の中は一段と高真空になる>と書かれているし、電解コンデンサーは<製造工程で破れた酸化膜を再度作るために再化成処理としてエージングされる>となっている。すなわち真空管と電解コンデンサーはエージング処理を行わないと本来の性能が出ない工程になっているようだ。因みにウエスタン製の300Bという真空管は初期不良の検出も含め、約7時間ものエージング時間を掛けている。部品として性能が保証できるエージング時間とさらにオーディオのように音に変化が現れるエージングではその長さは異なると思うが、音の変化が落ち着くには数十時間から百時間くらいの時間が必要なのではないかと考えている。私もアンプが出来たとき、音の確認、初期不良の検出、音の熟成などを考え、出来る限り音を出してエージングをしてから出荷している。ただ部品は全て寿命があるから、アンプの使用方法として電源をずーっと入れたままでは寿命の点から逆に実際の使用時間を縮めてしまい、これは注意しなければいけない。
 アンプのエージングについては、何故、どこが音の変化に影響しているかについて定性的、定量的に測定したことはなく、ただ試聴での経験のみで話をしているのでエージングの効果について懐疑的な方もおられるかもしれないが、私は事実として受け止めている。

 オーディオはまだ測定・数値だけですべて音が把握できてなく、最後は人間の感性に如何に受け入れられるかという難しいところが面白いところです。








2010年7月11日

<料理教室U>
 先日一流シェフによる男の料理教室の2度目の参加をしてきた。今回のシェフは「オテル・ドゥ・ミクニ」オーナーシェフの三國清三シェフだった。料理は<短角牛のハンバーグ カルヴァドスソース>であった。今回も大変楽しみな料理教室だ。三國シェフと言えば料理の腕もさることながら、かつてはちょっと怖く部下を怒鳴りつけていたようでそんなシェフから料理を教わるのも興味があるところだった。私にとっては2度目の教室なので今回は大分落ち着いて臨むことができた。
 三國シェフの解説から始まったが、三國シェフも55歳で、人柄が丸くなってきたようで怖い人ではなかった。最近は子供さんにも料理を教えているようなので、かつての三國シェフではないらしい。シェフも男の生徒さん相手なのでメニューも人気があり料理もやさしい、あまり手間をかけないハンバーグを選んでくれたようだ。この料理教室は一人で全ての工程をこなしていかなければならない。12人の生徒にすべて調理台・器具・材料があてがわれる。今回も中央の一番前のレンジになりシェフに一番近いところがあてがわれた。

 最初玉葱のみじん切りから始める。この程度はいつもしているから切ることは問題ない。ただちょっと教えていただいたのは最初玉葱の外側の皮には包丁で切れ目を入れておくように言われた。みじん切りにしたとき外側はどうしても大きく切れてしまうので最初に切れ目を入れると大きさが均等に切れる。こういうところがプロの腕だ。次に玉葱を炒めるのだが、これも問題ない。火力に気を付けて焦がさないように炒めれば良いだけだ。隣の方は火力が強すぎて少し焦げている。ボウルに挽き肉、パン粉、牛乳、玉葱、卵、塩、胡椒、ナツメグを入れよく混ぜ合わせる。シェフは塩加減については細かな量は指示しない。自分の勘で入れてくれと言う。ここらが料理の面白さだ。シェフも言っていたが塩加減で料理は大きく変わる。少ないと肉の旨みが引き出せないし、多いと当然しょっぱくなる。ここらが料理の面白さだ。だから同じ材料・レシピでもプロとアマチュアでは出来上がった味はまったく異なると言っていた。調味料・火加減・火の通し具合・切り方など変わる要素はたくさんある。だからプロが存在するのだが。話を料理に戻すと、材料は手で良く混ぜる。少し粘り気が出る位混ぜる。混ぜ過ぎると今度は肉の味がおちる。ここらも勘だ。次に中の空気を抜くようにして肉を左右の手の間で投げるようにして丸く整えていく。ここらはハンバーグでは良く知られた料理法だ。次に肉を焼くのだが、この時の火加減は弱火で何度もひっくり返して焼くのが良いそうだ。また形良く焼くには肉をフライパンの奥に寄せて、フライパンのカーブを使って肉にカーブを付けるようにする。こうするとハンバーグが大きな木の葉状の形になりきれいに仕上がるそうだ。また肉は基本的には弱火でじっくり焼く。油が5mm程度跳ねる位の火力だ。時間を短縮したい時はフライパンを傾け、下に溜まった油をハンバーグにかけながら焼く。こうすると両面から火が入り、オーブンで焼くのに近くなり時間も短縮できるそうだ。私は肉を焼く時は普段でもこのやり方を実行しているので今回も実行してみた。肉の真ん中がふっくら持ち上がり焼きあがってくる。次にソースなのだが今回使うカルヴァドスというのはリンゴのブランデーのようで、リンゴの乱切りを軽くソテーし、それにカルヴァドス・ソテーした玉葱・ケチャップ・フォンドボー・ウースターソースを軽く混ぜ、煮詰める。煮詰めすぎた時は水を入れて濃度を調整すれば良いようだ。これは発見だった。

 さて出来上がったハンバーグの味はどうだったかといえば、非常に美味しいハンバーグだった。こんなハンバーグ食べたことがないような一品だった。だがその理由は肉にあった。今回使った短角牛は霜降り肉ではなく赤みに肉で、シェフが言うには欧米のシェフは霜降り肉はメタボな牛の肉で健康的ではない。美味しい肉は健康な牛の赤身の肉と言うらしい。今回赤味3と脂身2と混ぜているが150gのハンバーグを皆さんペロリと平らげていた。胃に負担のないハンバーグだった。ソースも当然美味しい。こんな簡単な料理でも美味しいものができるのかと思った。
 ところが最後のシェフの話で落ちがついた。美味しい料理を作りたかったら、材料の良いものを選べときた。プロは少々材料が悪くても腕でカバーできるが、素人は腕が無いからできるだけ良い材料を使えときた。
 今回のハンバーグの上手さは私の腕のせいでなく、短角牛の美味しさからきたものだったのだ。事実その後家庭でピーマンの肉詰めを作ったのだが、短角牛の上手さに到底及ばない料理だった。残念。

よくアンプで高い部品を使ったから音が良いという宣伝文句がありますが、これは当てはまりません。シェフの料理と同様、回路設計・配線など腕がないと音の良いアンプにはなりません。はい。


  

左:三國シェフのデモ
中:私の作ったハンバーグ。添えられた野菜は三國シェフによるもの
右:三國シェフと記念撮影







2010年7月1日


<新型アンプ>
 今年はアンプの電源を検討している。高圧電源回路インピーダンスが測定できるようになり真空管アンプの電源の改良ができた。そんな中パワーアンプの注文をいただいたので最新の電源回路のパワーアンプを設計した。それが完成したので紹介する。 


 仕様
 ・EL34pp(UL)  20W/4Ω
 ・12AX7、12BH7  差動2段増幅
 ・ゲイン    20dB(4Ω負荷)

 特性(8Ω負荷時)
 ・周波数特性    -0.1dB(20Hz)   -3dB(80kHz)
 ・歪率(1W)     0.0065%(100Hz) , 0.0075%(1kHz) , 0.038%(10kHz)
 ・セパレーション  98dB(5kHz以下)
 D.F(ON/OFF法)    43以上(20Hz〜3kHz)  *D.F(8-4法)  43以上
 ・メイン電源インピーダンス   0.7Ω(20Hz〜2kHz)

こんな具合のアンプが完成した。
 アンプの特長は真空管アンプとして最高のD.Fを狙い、当然歪・周波数特性・セパレーションも上位の特性を狙って設計した。結果として表れた特性を見てもD.Fは43以上あるし、その他の特性もまったく問題ない特性になっている。今回電源の改良によりメイン電源のインピーダンスは0.7Ωとなった。これはチョークコイルを使用せず、サイリスタ(SCR)を使ったソフトスタート(突入電流防止回路)付のリップルフィルターを採用した。20Hzから2kHzまで0.7Ωの低インピーダンス電源になり低域での効果が表れている。この電源の採用によりアンプ特性にその効果が表れている。それは8‐4法として私が開発したD.Fの測定法に表れた。通常ON/OFF法では8Ω負荷時と無負荷時とのアンプ出力電圧の差を測定するが、8-4法は8Ω負荷時と4Ω負荷時のアンプ出力電圧の差を読みそこからアンプの出力インピーダンスを計算する方法だ。これは前者に比べ負荷が重い方に振られるので、電源インピーダンスの影響が出る。実際私が設計したアンプの中では8-4法で43以上になったアンプはこれまでなかったが、今回強力電源ができたお陰で8-4法でも43以上の値を得ることができた。スピーカーは低域でインピーダンスが下がるので音質の効果は大きく表れる。これだけ強力なドライブ能力のある真空管アンプは他では見られないだろう。以前設計したDF=43のアンプよりさらにドライブ能力を増したアンプになった。その他にも電圧増幅段の電源回路も新定電圧電源を採用した。これまでの電源より一桁以上特性を改良した電源になった。

さて音質はどうだろうか。まだお客さまからは感想をいただいていないが、私の印象はオーケストラでのそれぞれの楽器がより明瞭に聞こえるようになった。楽器の音が崩れない。だからベルリンフィルのブラームスを聴いていて、管楽器が上手いなと初めて感ずるアンプになった。

 お客さまが使っているスピーカーはピエガだ。このスピーカーがどのように鳴ってくれるか楽しみでもあり心配でもある。今回設計したアンプは現代スピーカーを如何に鳴らすかという目標で最新のテクノロジーでアンプを設計した。性能的にまた一段階段を上がることが出来た。

 現代スピーカーを真空管アンプで鳴らしてみたいと思う方は是非ご相談下さい。


  


左:正面から
中央:内部配線の様子。中央に電源回路を配置して左右にアンプ回路。中身は結構濃い。
右:JJのEL34(E34L)とハシモトトランス。








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