オーダーメイド手造り真空管アンプの店

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 <300Bアンプの音>
 2012年6月21日 

前に300Bアンプをお借りして自宅で聴いているとこのコラムで書いた。それはまだ続いていて、出力管もWE300Bもお借りすることができ、この高価な球で聴いている。巷では人気のある球がどんな音を鳴らせてくれるか、最初はこの高価な球を使ったアンプの電源を入れるのもちょっと躊躇したが、実際聴いていくとWE製にしたからといって劇的に音が変わることもなく、やはりアンプの素性で決まる音質でなっているようで、アンプの特性が音に反映されていて、アンプ設計の重要さが確認できた。
 お借りしたアンプは無帰還で、いろんな点で僕の造るアンプとは設計概念がまったく異なるものだから、むしろどんな音を出してくれるのか興味があった。特に現代小型スピーカーのB&Wノーチラス805をどのように鳴らしてくれるか、これまで僕が考えてきたスピーカードライブの考え方を再確認する上で、興味ある試聴になった。
 それではこれまでの印象を述べてみたいと思う。
 残念ながら300BアンプとB&W805との組み合わせでは良い印象を持つことがなかった。古い設計のアンプと新しい設計のスピーカーの組み合わせという感じだ。アンプの欠点が耳についてしまう結果になってしまった。これは300Bだからということではなく、アンプ回路設計の問題で多くの点で改良の余地があるものだ。少しまとめてみると

DFは2,3程度でこれではやはり低域が出にくい。またダンピングの効きが悪いので音の切れが悪く、楽器の分離も悪い。小編成ジャズなどは聴き易いが、ピアノやオーケストラでは表現が弱い。
 またオーケストラの再生では音の広がり、ダイナミックレンジが狭く感じられ小さなオーケストラとなってしまった。これもセパレーション特性、電源、配線などの改良が必要と思われる。

 アンプをお借りしておいて、批判ばかりしていて申し訳ないが残念ながら805との組み合わせでは良い結果が得られなかった。もしこれが高能率・大口径スピーカーとの組み合わせだったら、もう少し違った印象になっただろう。逆に805はアンプの欠点をさらけ出してしまうスピーカーといえる。僕はこのスピーカーのお陰でアンプ技術が向上したと思っている。アンプを良くすれば音はだんだん良くなり、このスピーカーのもつポテンシャルの高さに驚く。
 巷で人気の300Bについてその人気の理由が今回の試聴で少し分かったように思う。それは低DFによる甘い音が好まれているのではないかと。切れを求めない小編成ジャズでは大変気持ち良く聴ける。また雑誌などのアンプ試聴では昔のスピーカーが使われるのも頷ける。高能率・大口径スピーカーで聴けば甘いサウンドが期待できる。しかし現代スピーカーでピアノ・オーケストラを聴くには適していないとこのアンプはいえる。
 これはあくまで今回試聴した300Bアンプの印象であって、他の300Bアンプでは違ったものであるのは言うまでもない。また、WE300Bだから良いという信仰も疑問を感じたし、やはりアンプ自身の設計がスピーカーに合っていなければ良い音はしません。今回の試聴はたいへん参考になった。どこを直せばどんな音になるかもだいたい想像がつくし、デバイス(素子)による音の違いはあるにせよ、やはり共通したアンプ技術が音に大きく影響していることが再確認できた。


 
 <初物>
 2012年6月11日 

今月に入り初物の演奏に触れている。ひとつは6月2日にヒラリーハーンの演奏を初めて聴いてきた。昨年4月に来日予定でチケットも得ていたが震災の影響で中止となり、今年再来日でついに生演奏を聴くことができた。CDしか聴いてなく今回の生演奏を非常に楽しみにしていた。演奏はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調で、CDにも収録されており生演奏との比較もできる。場所は横浜みなとみらい大ホール、席は残念ながらオーケストラの木管楽器の脇辺りという場所で正面ではなかったが、ハーンの顔は見える位置であった。
 演奏は期待どおりだった。何を期待していたかと言うと、まずはヴァイオリンの音で、CDで聴くのと印象は変わらず、細くなく、太くなく、芯があってきれいでイメージ通りの音だった。また一流演奏家のテクニックというのはすごい。これはCDより強く感じた。アンコールで演奏してくれたバッハの無伴奏などはヴァイオリンだけの演奏なのでそのすごさが分かる。何一つあいまいな音がない。強くても弱くても速くてもゆっくりでもすべての音がきちっと出てくる。当然リズムは乱れないしすべての音が丁寧に演奏されている。だからと言ってもちろん機械的な演奏ではなく、間もありテンポも曲に合わせて少し変わり表現がすばらしい。まあ一流というのはこういうものかと今更ながら感心してしまった。完璧さの次元が違う。ほとんど人間離れしているように思える。クラシックの演奏家のプロ意識の次元はサラリーマンのプロ意識とは本当に違う。まさにこれぞプロという感じ。
 演奏後にサイン会が催されていたが、その行列はすごかった。恐らく3〜400人くらいの人たちが順番待ちをしていただろう。彼女の人気のすごさを知った。僕はそこまで元気がなかった。

もうひとつ今月は初物があった。それは能舞台を見たことだ。これまで能というものを鑑賞したことがなかったのだが、女房に誘われて見る(聴く)ことにした。ちょっと笛の音を聴いてみたいということもあった。シテは友枝昭世、笛は一噌仙幸(イッソウヒサユキ)、演目は<隅田川>というヒラリーハーンに負けない出し物であった。
 こんな一流の内容にもかかわらず、僕の理解が不十分でクラシックほど感激するところまでいかなかったのが残念だった。<隅田川>という演目のだいたいの筋は知っていて、大まかのストーリーは理解したのだが、やはり台詞が十分理解できないのが寂しい。日本語なのだが謡(うたい)の内容が理解できなかった。オペラのように現代語訳を付けてくれたらもっと舞台の内容が理解でき、涙を流したかもしれない。
 僕はどうしても音に反応してしまう。笛の演奏は素晴らしかった。これはヒラリーハーンと同じであいまいな音はない。構造的に不安定な楽器だと思うのだが、音は澄んでいて、良く響く。ほとんどビブラートをかけず、装飾音も少なく単純に聴こえるが、良く伝わって体に入ってくる。人間国宝の技なのかもしれない。この作品の最後のほうでヒシギ音を聴いたときはこれで話は終わりだということを直ぐに理解できた。話しが亡霊から現実に戻ったとすぐに理解でき、この不思議な楽器の面白さも知った。

一流演奏家の舞台というのはやはりすごい。何か超越している。また音でいえばひとつひとつの音を大事にしている。再生する側からみれば、やはりこれらの演奏を丁寧に再現する必要があると感じた。演奏が丁寧なら、再生も丁寧に。

 
 <300Bアンプの試聴>
 2012年6月1日 

「300Bアンプ試聴」と書くとついにMYプロダクツも300Bアンプを設計したかと思われるかもしれないが、残念ながらそうはいかず、実はお客さまから300Bアンプをお借りしそれを試聴している。以前このコラムに我が家で300Bアンプを聴いたことがないと書いた影響もあるかもしれないが、あるお客さまが300Bアンプを貸して下さるということなので、お言葉に甘えて聴いている。
 我が家の装置で他人の設計したアンプを聴くのは20年ぶりくらいかもしれない。本当にしばらく既製アンプというものを我が家では聴いてなかった。いつも自分の設計するアンプばかりで(お客さまご注文のアンプも含め)厳密な意味での音の比較はしたことがなかった。もちろんお客さまの装置ではいろいろなアンプは聴いてはいるが、自宅の装置でアンプだけ替えて聴くのは初めてだ。こういう経験もしないと独りよがりな設計に陥りやすいので喜んでお借りすることにした。
 巷で大人気の300Bアンプはどんな音なのか、B&Wノーチラス805をどのようにドライブしてくれるのかが大変興味があった。アンプの型名は伏せておくが、日本製の古くからある市販アンプである。これまた人気のある無帰還アンプで、僕自身は我が家では無帰還アンプは聴いたことがない。DF=3くらいではどんな音を出してくれるのか興味が尽きないところであった。
 ちょっと緊張しながら最初の音を聴いた。印象は思ったより805をドライブしてくれた。もう少し硬い音になるかと思っていたら805でも柔らかい音を出してくれた。ちなみにプリは自作のゲイン可変型ラインアンプである。ビル・エバンスなどはふっくらしていて聴き易い。しばらくいろいろなCDを聴いてみる。すると少しずつ欠点も聴こえてくる。オーケストラなどは音場が小さくなってしまうし、余韻が感じられないなどこれでOKとはいかなくなる。だがこれらは真空管が原因というわけではなく、アンプ設計上の問題であるし、どこが悪いかもだいたい見当がついている。
 面白い話がある。このアンプを聴いていたら女房が部屋に入ってきてしばらく聴いた後「どこかアンプいじった?」と言ってきた。「別のアンプ」と答えると「どうりで」ときた。数日後また部屋に入ってきて「慣れたらいい音じゃない」ときた。「これは我が家のアンプ」と答えるとまた「どうりで」ときた。女房の耳には我が家のアンプの音がすでに記憶されているようで数十秒の試聴で直ぐに差が分かるようだ。なかなか厳しい批評家なのだ。

巷で人気の300Bアンプの試聴は良い経験となる。性能と音との関係が納得できるところと、まだ良く理解できないところを教えてくれる。考えてみればこれまで3極管の音というものを自作6RA8以来聴いていないので、経験からくるその特長というものをまだ十分把握していないからかもしれない。

 やはり3極管は面白そうで、僕が設計したらどんな音になるかをぼんやり想像しています。


 
 <位相補正>
 2012年5月21日 

アンプを設計するなかで一番難しい技術は何かと聞かれたら位相補正と答えるだろう。ただしこれは負帰還アンプでの話しだが。
 本屋さんには申し訳ないが、店で時々雑誌を立ち読みする。もちろんオーディオ雑誌もちらと読む。前にお店で読んでいた真空管アンプ製作記事に負帰還のことが書いてあり、その設計者(先生)は負帰還量を音を聴きながら決めると書いてあった。そこには負帰還量が多いとつまらない音だが、負帰還量を減らしてアンプゲインを上げていくと耳に心地よいところがありそこ決めていると書かれている。この現象は間違いではないが、設計方法として私はこの方法をとらない。何故かといえば、この記事が書かれている回路図を見てみると位相補正が十分でなくて、負帰還量を増やせば不安定になることは予想され、アンプの安定度についてあまり考慮した設計をしていると思えないからだ。負帰還アンプは発振しないまでも不安定状態であってもいけなく、そのためにいろいろ安定対策を講じなければならない。

このような例は他の記事にも見受けられた。例えばアンプの周波数特性をみると高域で少し持ち上がっている特性が示されているにもかかわらず、位相補正を付けずに僅かな持ち上がりだから大丈夫だというような記事も見受けられた。このような設計方法を批判はしないが私には受け入れられない。
 真空管パワーアンプの場合出力段はゲインを持ち、スピーカー負荷のインピーダンスによりゲインも変化してしまう。一定の負荷だけで判断しても不十分なのだから、いろいろな想定で安定度を判断しなければならない。実はこれがノウハウなのだが。僕の場合特性より安定度を優先させる。特性を少々悪くしても安定度をよくする。これは先ほど述べたようにスピーカーのインピーダンスは大きく変化するのでそれを見越して安定度を判断しなければならないから少し過補正くらいが良い。
 最初に述べたスピーカーで聴きながら負帰還量を決めるやり方では、スピーカーが違えばインピーダンスが変わり、それで負帰還量も変わり安定度が確保できるかが分からない。
 僕のようにある程度負帰還によってアンプの出力インピーダンスを下げて、かつ安定に動作させることは難しい作業になる。簡単ではない。測定器はもちろん必要だし、根気も必要だし、少しばかりの制御理論も知っておく必要がある。結構この安定度でアンプの音が大きく変わる。きちっと補正された負帰還アンプであればやわらかくて力強い音もする。

僕は評論家でも批評家でもないから人のことを批判しているつもりはない。ただやり方が違うと言っているだけだ。何を造るにも人それぞれのやり方で良く、それがそれぞれの作品の個性になっているからだ。


 
 <餃子>
 2012年5月11日 

日本人の特に男性は餃子が好きな人は多いだろう。そういう僕も餃子は大好物だ。ラーメン・餃子や中華定食のおかずとして外食で何度食べたことだろう。何てことのないおかずだが、やはり欲しくなるものだ。外食ばかりでなく、自宅でも餃子は時々作る。これまで少なくとも年10回として、10年のキャリアーとしても100回以上は作っている計算になる。それでもいつも同じ味にはならず、良かったり味が薄かったりでなかなか安定した味は出てこない。また我が家では出来上がりの餃子を買ってきて夕食のおかずとしても食べる。その餃子はいつも銀座・天龍の餃子と決まっている。ひとつのサイズが大きくて1人前8個入りだが、最近は全部食べられない。昔は8個ペロリだったが今は6個位か。ここの餃子は大きいので他のおかずはいらない。すなわち餃子・ライスで食べる。他のおかずは食べられないからいらない。まああっても漬物くらいか。でもビールは必需品です。それから我が家では市販されている冷凍餃子は食べない。ほとんど食べたことがない。理由はおいしくないからだ。どんなに忙しくても自分で包んで餃子を作る。皮にはちょっとこだわる。時間がない時はスーパーの皮、デパートに行ったときは横浜・永楽の皮、もっと時間があるときは自家製の皮を使う。この自家製皮が一番美味しい。

こんな餃子人生観で過ごしてきた僕だが、この間の5月連休に義弟の家族4人と義母を入れて、我が家で食事をすることになり、そのとき新しいレシピの餃子を作った。当然自家製皮も作った。この餃子レシピは航空会社の雑誌のなかに紹介されていた。
 ふむふむ皮の作り方は普通だな。具はちょっと普段と違うな。肉と青葱しか入っていない。肉はひき肉でなくこま切れ肉を細切りにして使う。これは肉汁が出て旨そうだ。味付けにテンメンジャンを入れるのか。でも皮の包み方は普通と違っている。具を包んだ後、上部をつまんでそこをくっつけるだけでサイド部分は開けたままになっている。これでは肉汁が出てしまうのではないか。これでいいのかなあ。でも新しい餃子だ作ってみるか。
 こんな気分で新しい餃子に挑戦した。小学6年生の姪に皮作りと具の包みを手伝ってもらって60個ほどを作った。焼きは僕が担当した。誰も手伝ってくれず、焼いてはテーブルに運ぶ、でもすぐになくなる。また焼くの繰り返し。自分が食べるものがなくなるほど評判が良い。女房もこれまでこれまでで最高の味と言ってくれたし、料理上手の義母もおいしいと言って、レシピをコピーさせてと言ってくれた。子供たちにも評判上々だ。
 この餃子肉汁が皮に染み込んでこれが旨い。
具と皮とが両方旨い。なるほどそれでサイドが開いているのだ。
 餃子は生で味付けをするから出来上がりの味を想像するのが難しい。それが餃子の味を一定にするのを難しくしている。これも次回は上手くいくかなあ。

餃子はおいしい。実は今日のおかずは天龍の餃子です。カブの浅漬けでも作って、ビールと一緒に楽しもう。

 
<季節の香り>
 2012年5月1日 

年齢を重ねると季節とか自然とかに少し興味が移るようだ。タモリに言わせれば花鳥風月に興味が湧いてきたらこれは年寄りになった兆候だそうだ。確かに昔は季節とか花とかにはまったく興味が湧くことはなかったが、最近はこの時期花が咲くと季節が感じられ、それが楽しく感じられることがある。少しずつ老人に入りかけているのか。
 今年は春でも寒い日が続いたので、開花の時期が例年とはずれていて桜の開花時期のちょっと前に梅やジンチョウゲが開花し、春の待ち遠しさといくつかの花が一気に花を咲かせ二重の喜びが感じられた。例年だと1月末ころからだんだんと花が順序良く咲いてくるのだが、今年は寒い春で3月末に一気に春が到来して、一斉に開花が始まった感じだ。
 関東地方だと春は順々にやってくるのだが、寒い地方だと春は一気にやってくるそうだ。福島県三春町の滝桜は今が盛りできっとたくさんの観光客でごったがえしているだろう。この三春という名前は福島の人に聞いたら、この地方では梅、桃、桜が同時に咲くので三つの春が同時に来るから三春と名付けられたと言っていた。本当のところは知らないが、まことに情緒ある名前の由来だなあと感ずる。サラリーマン時代はよく福島県・郡山市に出張で行っていて、この三春町の桜については話を聞いていて、その時にでも見ておけば良かったと今は思っているが、その時はそんな余裕もなく、またそこに行くには車も必要でなかなか行けなかったのがちょっと残念だった。まあそのときは今ほど余裕も興味もなかったので見に行かなかったのだが、今だったらきっと時間を取って見に行っているだろう。これが年齢による違いか。

今回のタイトルは季節の香りとなっているのでその話。昨日ちょっと親の顔を見に田舎に行ってきた。この時期田んぼは田植えが終わっていて草の匂いがする。僕はこの時期の田んぼの匂いが好きだ。何故かこの匂いを嗅ぐと少年時代を思い出す。少年時代というより中学生くらいかな。この匂いが中学校に通った通学路の思い出とリンクしている。別の匂いではキンモクセイは小学校の運動会なのだが。
 実家からの帰り、その中学校時代の同級生の店を初めて訪ねた。現在は嫁ぎ先でいちご園を経営していると聞いたので、いちごを求めて尋ねてみた。本当に久しぶりに会って昔話をちょっとして、そしておいしそうな香りのいちごを買って帰ってきた。このいちごもわざわざ畑に行って特別にもいでくれた新鮮ないちごだった。
 田んぼの匂いが中学時代を思い出させて、そして中学の同級生からおいしい香りのいちごが得られて、ちょっと楽しい春の香りを楽しむ帰郷になった。


 
 <バランスアンプレポート>
 2012年4月21日 

今回やっとWE396バランス型ラインアンプのレポートを書いた。MYプロダクツはオーダーメイドの真空管アンプを設計・販売しているので、いろいろな要求がありバランスアンプの対応も考えなくてならない。昨年は友人の依頼でバランス型のプリメインアンプを初めて設計した。それ以来、真空管バランスアンプの回路を考えてきて、今回は第2段の真空管バランスアンプとなった。前回のバランスアンプとの大きな違いは前回が反転型アンプだったのに対し、今回は非反転型のアンプになった。何故こうしたかというと非反転型アンプは負帰還抵抗を比較的小さくすることができ、ノイズを下げることができるからである。また音量調整用ボリュームの位置に関係なく入力インピーダンスが一定に保たれるのでこちらもメリットがある。ただ非反転型バランスアンプを作るには入力信号と負帰還信号合わせて4つの入力端子が必要になり、その点が解決できれば実現できると考えていた。
 その解決にヒントを与えてくれたのがAnalogDevicesの<計装アンプの設計ガイド>のレポートである。4つの入力端子は簡単に差動増幅器で受けるという最もシンプルな形で構成されている。勿論計装アンプの方はトランジスターで構成されているが、真空管アンプでも同じように構成できる。最初僕は別の回路を考えていたのだが、計装アンプの方がシンプルで良かった。その回路を今回初めて造って、性能を確かめ、音質も確かめた。まったく問題ない。と言うよりむしろ性能、音質でも利点が多く今後この回路で推していきたい気分だ。MYプロダクツの場合、プッシュプルアンプの入力はすべて差動増幅器で受けているので、このバランス回路への対応も比較的簡単にできた。ベースとなる回路が同じなので特性の比較も分かるし、配線方法においてもこれまでと変わらず、むしろシンプルになり対応がスムーズにできたと思っている。

このコラムのERにレポートを載せたので読んでいただけるとありがたい。簡単な回路図も載せたのでそのシンプルさが分かると思います。


 
 <同期会>
 2012年4月11日 

先日、40数年ぶりの高校の同期会が開かれ参加した。ここ数年クラス会は開かれていたのでクラスの仲間には会っていたのだが、学年合同の同期会は初めての催しだったから、ほとんどの仲間には高校卒業以来という再会になった。僕の高校は千葉県の田舎にある高校で創立は明治だったからかなりの歴史はある。実家から歩いていける距離にあって、父親、兄弟姉妹もその卒業生である。文武両道を校風としていて、昔は野球も千葉県では常に上位にいっていた。一度甲子園に出たこともあるしプロ野球選手もいた。また今では考えられないかもしれないが下駄履き通学が許されていて、僕も得意になって下駄履き通学をしていた。いくら40数年前といってもどこの学校でも靴で通学するのが当たり前の時代であったのだが、我が高校は明治から続く伝統で下駄履き通学が許されていた数少ない高校だったのである。今では桐の下駄を探すのも大変だろうなあ。

 同期会の集合は高校の校庭で横浜から3時間かけて久しぶりの高校に出かけた。高校の庭には大きな桜があり、入学した時にも確か桜が咲いていたと思うのだが、今回の同期会も我々を歓迎してくれるかのように桜が満開で、否応無しに昔に引き込まれてしまった。校舎やグランドは当時と大分異なっているが、まだ僕らが使っていた校舎も残っていて、桜と共に懐かしい風景が過ぎた年月を一気に引き戻してくれた。

 同窓会の楽しみは何といっても昔の仲間に会うことだろう。今回120名近い参加者があり、しかも高校時代でも他クラスの人というのは記憶にも停めていないし、40数年の年月は人の顔、体の形を大きく変えてしまう。校舎や桜の木は昔のままなのに人の外見は大きく変わってしまう。だから会ってもすぐに誰だか分からない。幹事さんの計らいで昔の顔写真と名前を胸につけ、それを最初に見て確認してから誰だか分かる。中には余り変わらない奴もいるが大体は直ぐに思い出せない。これが楽しい。僕の場合今回の楽しみはブラスバンド部に所属していた仲間に会うことだった。他クラスで知っているのは部活動の仲間くらいだから、今回初めての同期会だったから会うのを楽しみにしていた。プロになったトランペット奏者もいるし、焼き肉屋になったクラリネット奏者もいて懐かしい顔を久しぶりに思い出すことができ楽しい時間を過ごせた。

 高校時代の思い出はブラスバンドばかりでなく、当時物理部といっていたサークルにも所属していて、この時初めて真空管アンプを製作した思い出がある。これが今の僕のルーツになっている。40数年過ぎてもまだしているというのは正直成長していないなあとも思う。三つ子の魂百までか。このアンプを初めて作ったときに、秋葉原に初めて部品を買いに行くのを付き合ってくれた仲間がいたのだが、その彼とも再会できた。久しぶりに話をしたら、彼も今度は211のアンプを作るのだとまだ彼も情熱を持っているらしい。これも我々は全く変わらないなあと思ってしまった。

 久しぶりの高校の同級生との再会は本当に楽しいひとときだった。髪も顔も体型も大きく変わったのに頭の中はお互い全く変わっていない。特に還暦を過ぎ、会社というしがらみから解放されると、出世、体裁も無くなり、また少年時代に戻っているのかもしれない。



 
 <バランス型ラインアンプU>
 2012年4月1日 

出荷前に設計して出来たばかりのWE396バランス型ラインアンプのエージングを兼ねて聴いている。このアンプの音はこれまで僕が作ったアンプより更に進化した音をしている。僕の印象では音は柔らかくそれでスピード感もあり低域も無理なくスーと出てくれる感じだ。まだお客さまの判断がないから何とも言えないが、先日元スピーカーエンジニアの方に聴いてもらったら良い印象を得られたようだった。僕の音の印象と大きく変わることがなかったので多分お客様にも喜んでいただけると信じているのだが。

 今回設計したバランスアンプの音が何故これまでと違うかについては今後調べていかないといけない。このアンプはアンバランス入力、アンバランス出力で聴いていて音が良いのである。何故だろう。オーディオマニアにはそれはWEの真空管を使ったからだと言われそうだが、それだけではない。回路がまったくこれまでと異なっているからそれも検証しなければならない。今回のアンプは完全にバランス増幅になっていて通常のアンプのようにグランドを基準とする増幅法を取っていない。原理的にはグランドの影響を受けない回路になっている。しかし通常理想と現実は異なり、理想どうリに動作することは少なく何らかのコモンモードノイズを受けている。しかしこれまでのアンプに比べれば、電源のふられなどのコモンモードノイズの影響はかなり少なく、事実セパレーション特性は優れた特性を示している。CMRR(同相ノイズ除去比)初めて測定してみたがこれまで測定したことがないので比較しようがなくこれがアンプの音質に良い効果を与えているかどうかはまだ分からない。今はすべて推測の領域で音への影響を述べているところだ。
 これまで配線法などを検討してきたとき、特にグランド配線をどうするかなのだが、今回バランスアンプを設計してみると、配線の処理が簡単になり理想に近い配線が可能となっている。これが音に良い影響も与えているとも考えられる。まだ何が良くなったのかは今のところ正確につかめていない。今後の楽しみだ。
 今回のラインアンプは半導体のミューティング回路を搭載した。これまでラインアンプはリレーを使用してきたが、今回、回路数も増えているので半導体を使用してコンパクトな回路に仕上がった。これからも使えそうだ。

 オーダーメイドのアンプは設計が難しい。新しい回路でも失敗が許されないからだ。すでに出来上がった回路で設計するだけではなく、お客さまのご要望に応えるため、あるいは新しい機能や進化した音を目指すために新しい回路が必要になるが、これが難しく一方では楽しい。ただ常に心がけていることは、独りよがりにならないようにしてアンプを造ることだ。



 
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