オーダーメイド手造り真空管アンプの店






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 <LP三昧>
 2013年9月21日 
バランス型EQアンプがほぼ出来上がり、今は音質を確認しながらLPレコードを聴いている。楽しい。CDを聴くのとはちょっと気分が異なりレコードが回っているのをチラっと見ながら音楽を聴いているとこれがグッドなのだ。それはきっと僕が古い人間で昔を思い出すからだと思うが。LPレコードの経験のない若い人たちだったら、携帯で音楽を聴くことに慣れ、こんな面倒くさい作業をしながら音楽を聴きたいと思わないだろう。
 そんなことはどうでも良く、我が家で再生してくれるLPの音は期待以上の音を再生してくれている。まずLPレコード特有の針が擦れる音や傷の音がほとんど聞こえないのである。ちょっと言い過ぎかもしれないが無音の溝のところではCDと間違うほどにノイズが少ない。だから音楽もS/Nの良い音が聴ける。オーケストラの各パートも良く聴こえるし、ジャズでは楽器の歯切れも良い。昔聴いたLPはこんな音だったかなあと思ってしまう。

いただいたクラシックのLP50枚近くあり、もう20枚以上聴いた。こういう古いLPはさすが音質ではCDに劣るかもしれないが、CD化されない演奏が聴けるわけだから、LPで音楽を楽しめるのはまた別の楽しみになる。クラシックはある程度聴き込めたが、あとは10枚程度のポップス(ABBAChicago、カーペンターズなど)だったので、是非ジャズが聴きたくなった。調べてみたら今でもLPが販売されていることが分かりまず数枚購入した。
 山野楽器ではマスターテープから再プレスしたそれもプレス工程の少ない高音質LPが販売されていて購入した。(オスカー・ピーターソントリオ、ビル・エバンストリオ)
 更に中古LPの店もあるということで、スーパー・ジャズ・トリオ、ウイントン・ケリー、ズート・シムズ、キース・ジャレット、スタンリー・ジョーダンなどの中古LPも購入して試聴盤として聴いてみた。これがまた非常に楽しい。中古LPで音質的にはまったく問題ない。ノイズはほとんど聞こえないし、柔らかくてクリアーな音が楽しめる。

この音の出方はバランスアンプの影響なのかは聞き比べていないから良くは分からないが、ただ結果としては良い方向に向かっていることは確かである。
 思わず心の中では万歳と叫んでいる。


左の黒いケースが電源部、右のシルバーのケースがアンプ部


 
 <バランス型EQアンプ変更>
 2013年9月11日 

前回のコラムでバランス型EQアンプが完成したと書いた。あと変更は1か所と思っていたが、やはりちょっと気がかりな点があったので別のところも変更した。たぶん僕の性格では本当の完成とはすぐにはならない気がする。
 ノイズについてもフリッカーノイズ対策として真空管を差し替える案も考えていて、先日秋葉原にちょっと寄って代替用の真空管を買ってきた。今回のEQアンプの構成はヘッドアンプが半導体で設計し、いわゆるEQ部が真空管で設計していて、それらのアンプは両方ともバランス型となっている。前回書いたフリッカーノイズ問題は真空管EQで発生していて、主にそれがEQの初段の真空管によるものである。この初段の真空管は6R-HH2という球で6DJ8の同等品である。これらはハイGm管と呼ばれるものだが、ノイズの点では有利で、数が少ないので以前秋葉原で入手しておいた球(東芝製)であった。理論上はノイズが有利であるにもかかわらず、実際作ってみると理論のようにはいかずノイズの揺らぎが大きくノイズデータ上ではあまり良くなかった。
 秋葉原で真空管を探していたら6922という球を紹介された。これはもちろん6DJ8と同等品で、驚くことに中古品でなくロシアで今生産しているとのことだった。(エレクトロ・ハーモニクス製)僕はこの球の存在を知らなかったが、値段も高くなく新品であることが気に入った。中古品だと特性の劣化がどの程度進んでいるかは分からず、そのためバラつきも大きいから信頼性の点では新品より劣ると考えているからだ。
 早速、アンプの改良と同時に初段真空管の変更も行った。その結果ノイズの改善ははかられた。

入力換算ノイズで
 MM入力では-128.1dBv(L),-125.6dBv(R)
 MC入力では-142.4dBv(L),-141.3dBv(R)
 となり5dBv近く改善された。波形をみてもフリッカーノイズが少なくなり、揺らぎが大分改善された。新しい6922のお蔭である。現代の球の方が特性が良いようだ。

ノイズ問題はこれで一応目途がたったので、あとは電源の特性を測ってみようと思っている。新しい試みで定電圧電源をFETで設計してみたので、トランジスター製と特性の違いがあるかを調べてみるためだ。

球の変更と同時にヘッドアンプのDCサーボの定数も変更した。音を聴く限り低域のしまりが出てきたように思う。

世界でも完全バランス型のEQアンプは少ないと思う。まして真空管のバランス型EQアンプとなればその音を聴いている人はさらに少ない。こんな少ない立場にいられるのは面白い。


 
 <バランス型EQアンプ完成>
 2013年9月1日 

やっとバランス型EQアンプが完成した。正確にはまだデータを測定している最中なので設計の手が離れた訳ではないし、まだ1種類の抵抗(実際には4本になるが)を変更したいと思っていて完全に完成というには至っていない。それでももう実際にカートリッジ(MMMC)を接続して音も聴けるようにはなったので、完成寸前というところだ。
 特性はほぼ満足できるものに仕上がったようだ。まだ測定途中なのではっきりしたことは言えないが、真空管EQとしては高性能EQアンプに仕上がっていると思う。初めてのバランス増幅のEQアンプでいろいろ紆余曲折はあったものの最後は何とかまとめることが出来て嬉しい限りだ。その中で設計予想どおりにいかなかったものがフリッカーノイズ(ノイズの揺らぎ)だった。ホワイトノイズは予定どおり下げることが出来たが、フリッカーノイズは回路で制御できず真空管特性がそのまま出てしまっている。そのばらつきも大きく真空管を差し替えるだけでノイズレベルが10dB近く改善されてしまい、この点が今後の検討項目になっている。数本の真空管を用意し一番フリッカーノイズの少ないものを選択するのも一つの方法である。とは言ってもMM入力でー120BV位だしMC入力でー138BV位での話だから、特別ノイズが多いという訳ではなく、十分実用レベルにはなっている。

肝心の音はどうかというと聴感上ではかなりフラットで、歪感も少なく予想よりいいEQができたのではと思っている。何かを強調することもなく素直な音とでも表現できるかもしれない。楽器の分離、音の歯切れなども問題ない。CD音源に比べればそのSN感や歪感にはかなわないけれど、状態の良いディスクに当たったときはSNも良く、LPレコードを聴いていることを忘れてしまうほどだ。MMMCとも同じ傾向だから今回のバランス型EQアンプの特長が出ているのではとは思っている。
 抵抗を変更した後はしばらく何人かのお客さまに聴いていただき、そのご意見を参考にまた考えてみるつもりだ。

今回アンプの製作中にまたあるお客様からMMカートリッジ(ソニー XL15)を下さるとのご提案があり、お言葉に甘えてこのMMカートリッジを入手することが出来た。MCカートリッジは自腹でDENON DL-103を購入したが、MMカートリッジまでは予定がなかったので、お蔭さまでMM入力の音も確認できて大変ありがたかった。

最初はLPレコードをいただけることから始まったEQアンプ設計はその後レコードプレーヤーもいただき、更にMMカートリッジもいただけて、こんな皆様のご厚意で何とか完成に近づけることができた。今後はオーディオ仲間を呼んで、LPレコードの音をみんなで批評してもらいながら楽しんで、恩返しをしたいと考えている。

時間はまだかかりますが、このバランス型EQアンプの技術レポートをいつかまとめてみるつもりです。


 
 <タンゴトランス>
 2013年8月21日 

今年の夏は暑い。ここ横浜もこのところ雨も降らず晴天が続き、温度は下がらず毎日暑さと戦っている。これ程暑いと仕事にも差し支える。食欲は減るし、睡眠不足もあり仕事への集中力を欠いている。
 今製作中のバランス型EQアンプもようやく音が聴けるところまできた。このコラムを読み返してみると今年の1月にはヘッドアンプの検討をしているから、もう8か月もかかっていてようやく音が出るという状態だ。仕事が遅いなあ。この暑さも仕事の進み具合に影響していることにしておこう。どんな音が出てくるのか楽しみでもあり、ちょっと心配でもある。これだけ苦労して造って音が悪かったらどうしようという心配だ。まあ自分用だしチャレンジングなアンプだから最初からうまくいかなくても仕方がないと最初から言い訳を考えている。
 そんな中タンゴトランスの廃業というニュースを大分遅れて知った。サイトも雑誌もあまり見ていなかったので知らなったのだが、6月末に廃業を発表したらしい。僕の作るアンプにもタンゴトランスを使用しており、大変残念なニュースだった。タンゴトランスは以前にも平田電気製作所が廃業したときに一度無くなったが、その後ISO(アイエスオー)という会社が引き継いで生産して復活したのが、今回このISOが廃業してまたタンゴトランスが消えてしまうということになった。前回のようにまた復活してくれるとありがたいのだが。
 タンゴトランスは市場他社より少し低めの価格設定で、僕としては使いやすい製品なのだが、これが無くなるとトランスの選択肢が少なくなり、どうしてもお客様のご要望に応えるのが難しくなってしまうことが予想される。最近の真空管アンプの部品市場はその選択肢が狭められている。今回のトランス、電解コンデンサー、シャーシーなどはすでに種類が少なくなっている。真空管は中古市場を含めれば種類はあるが、しかし価格は上がってしまうのでその意味では選択肢は限られている。
 今回の廃業は僕のように小さな商売では影響も小さくて済むが、大きな商売をしている会社ではトランスがなくなると自社のアンプの生産に影響するので大変だと思う。代替トランスを使うにしても、回路変更はもちろん、シャーシーの変更も必要になってくる。真空管アンプのメイン部品はやはり真空管とトランスだ。このトランスの種類が減ってしまうと設計の範囲が狭くなってしまうことを意味する。

今の若者は家でオーディオを聴くという趣味はないらしい。ヘッドフォンでどこでも聴けるからそれでOKとなるらしい。真空管アンプなんて今更いらないと言われそうだ。しかしそれでも最近は若い女性のオーディオ評論家も出てきているとも聞いているから、彼女たちに頑張ってもらって真空管アンプの市場を盛り上げてもらえたら、またタンゴトランスも再復活するかもしれない。


 
 <車試乗>
2013年8月11日  

先日友人に誘われて車の試乗に出かけた。車の試乗をするのは10数年ぶりのことで、普段はなかなか依頼しにくいことだが、今回は友人が誘ってくれたので気楽に試乗を楽しむことができた。試乗した車は小型輸入車で、今このカテゴリーでは競争が激しいところらしくいろいろ特長を出しており魅力満載になっていた。
 車は経済性(ECO)、安全性などは基本的には重要ではあるが、そのうえに嗜好性(趣味性)がおおいに影響するから人によってその好みが大きく分かれるところである。これはオーディオにも通ずるが、その嗜好範囲はかなり広くデザインももちろん重要だがエンジンや乗り心地のフィーリングなどは乗ってみないと分からない感覚的なものであるからここは理屈で説明できるところではない。

 実際試乗してみて感覚的にはしっくりこないところもあったが、最近の車の技術はすごく進んでいるのは実感できた。一番の面白い点はレーダーによる衝突防止システムだ。オートクルーズと組み合わせたこのシステムだと普通の道で前にどんな速度の車が走っていても、僕はアクセル、ブレーキをまったく操作しないでも前の車に衝突せずに追尾でき、楽に運転できるようになっている。最初ブレーキを踏まないままで運転していると、ちょっと怖い気がしたが車が勝手にブレーキ操作をしてくれるので止まってくれた。その他にもブレーキをちょっと強く長く踏めばホールドしてくれて、その後はブレーキから足を離してもブレーキは保持したままになっている。アクセルを踏めば解除できる。信号待ちなどでは便利な機能だ。またギアシフトもハンドルの左右についているスイッチでシフトアップ、ダウンでき、まるでフォミュラーカーのような操作ができる。あるいはサイドミラーの死角もレーダーで車の存在を知らせてくれるなど、僕の今の車にはない機能が至れり尽くせりで満載だった。またドライバーの注意力を測る機能もついていて、いくつかの運転パラメーターをチェックして異常だと休憩を促す機能もあった。

 久しぶりに試乗してみたが最近の車の技術力には驚かされた。エンジンも小型だがDOHCターボで小型エンジンながらパワー・トルクをかせぐなど基本的なところも押さえていて経済性を考慮しながら、安全性にはいろいろな機能が盛り込まれていた。僕のような年齢とともに今後運転能力が劣る人間には優れた車ではないかと思われた。今の僕にとっては安全性が一番で、スピードや力は必要ない。ちょっと欲しくなってしまった。

値段も国産車とそんなに変わらない。それより車産業はこんなにいろいろな技術を満載しているのに、今の輸入オーディオでは機能・性能は昔と変わらないのに値段だけが車と同じ価格になっているのはどうも納得できない。


 
 <横浜 中華街>
 2013年8月1日 

自分用バランス型EQもあともう少しのところにきた。回路的には最後の仕上げかなというところになっている。こういう時ちょっとした部品を買いに行くときは横浜・石川町にある部品屋さんに行く。ここは抵抗・コンデンサ・スイッチ・工具などが売られているからちょっと部品が足りない時などに買いにいく。今回も最後の変更(?)で、わざわざ秋葉原まで出向かなくても近くで済ませたかった。それにこのお店は中華街に近く、歩いて5分程度だからそこで昼を食べるのも楽しいので、わざわざ昼時を狙って買い物に行くようにしている。今回も中華街での昼食を楽しみに石川町に出かけた。
 12時半近くに部品屋さんでの用事を済ませ、楽しみの中華街に出かけた。ご存じのとおり中華街にはたぶん100軒以上のお店があるからどこに入るかが、楽しみでもあり悩むところである。僕は慎重だからなかなか新しいお店を開拓することができない。まずい店に入ったら後で後悔すると思ってなかなか勇気を出して知らない店に飛び込むことはない。だから以前はネットで評判をある程度調べて入ったこともあった。あとは俗にいう有名店になってしまう。
 今回は久しぶりに以前から時々使っていたお店に入った。ここはシェフが昔TV番組の<料理の鉄人>の挑戦者になったくらいだから、味も評判で高級店にくらべ割安だったから、千円以内のランチを食べるには安くておいしい店と認識していた。さて今回も楽しみにして<八宝菜ランチ>をビールもつけてオーダーした。ところが今回のランチはいただけなかった。八宝菜といいながら野菜は少なく肝心の味もまずく料理の半分も残してしまった。量はたくさんあるが材料・味の手を抜いている。ビールを頼んであったから良かったものの、ランチとしては最悪だった。以前、ネットで評判の店も入ったことがあるし、またここで流行りの食べ放題の店も入ったことがあるが、味はいまいちで結局有名店が美味いなと思っていたら、その店もこのような味になってしまい中華街も味が落ちてきた。
 昔中華街は本格中華料理が食べられるということでわざわざ食べに来たものだが、最近の中華街は食事をする街という雰囲気ではなくなっている。若い人が多いのは結構なことだが、食事もお昼は食べ放題の店も増え、まだデフレの影響を引きずり安さを競っている感じがしないでもない。
 帰りにシュウマイを買って帰ろうとして有名店に行ったら、そこは新館といわれたところだが閉店していた。本館を探しやっとのことでシュウマイを手にいれた。ここも中華街の今をもの語っていた。ランチの影響はまだ続き、自分で餃子を作るため<永楽製麺>の餃子の皮も買い、更に台湾茶も買って、昼のまずさを自分で取り返そうと部材を仕入れた。自分で作ったほうが納得がいく。

故郷の友達や元会社の友達などは中華街で一杯やりたいという希望があるらしいのだが、僕にはここで安くておいしい店を探すのは難しいような気がする。


 
 <バランス型EQアンプ進捗2>
 2013年7月21日 

前回から引き続きまたバランス型EQアンプの進捗について述べてみたい。これまでになくこのバランス型EQアンプの進捗がスムーズにいってないことは前回のこのコラムで述べた。ヘッドアンプ部は半導体でバランス型アンプを設計してこちらはもちろん変更はあったもののそんなに手こずることなく進んだが、EQ部は真空管で設計したが、こちらもバランス型のEQアンプで、最初の設計どおりにスムーズに性能は出なかったが、ここにきてもう少しで回路の定数がすべて決まりそうなところまで進んだ。EQ(イコライザーアンプ)というのはいろいろ考慮しなければならない注意点が多く、それらを満足させるには全体のバランスを考えて定数を決めていかなければならないので、その定数の決め方に時間がかかってしまっている。最初は動作の安定性が悪かったのでそれらを直したが、そのあとはゲイン、周波数特性、歪、ノイズなどある程度性能を満足するものに仕上げていかなければならない。そこに時間がかかっている。まだ今でもノイズの点で満足していないので、まだ検討は継続中である。

こんなに苦労してEQアンプを設計しているのに、これで本当に音の良いアンプに仕上がるのだろうか。こんなことを考えていたら、テニスの友達が使っているEQの調子が悪そうで、このアンプを見てあげることにした。オーディオテクニカ製の小さなEQアンプで手のひらに乗るほどのかわいいアンプである。サイトで内容を調べてみたら中身はICで構成されているらしい。これでも立派なEQアンプで十分装置をして使えるものだ。サイトに載っている内部写真を見る限り僕が今設計しているアンプに比べ大分シンプルで、何か僕が今悩んでいるアンプは必要なのかと思ってしまうほどだ。これで僕のEQより音が良かったら僕の苦労は何なのだろうか。そんなことを思ってしまった。だから完成後の僕の音質評はあてにしないほうが良い。絶対音が良いと言うに決まっている。こんな苦労して作ったアンプで音が悪いとは言えないからだ。

このバランス型EQアンプは自分用に作っているからこんなことを言えるが、お客様用だったらこんな冗談を言える状態ではない。今回の設計で時間をかけていろいろな性能を確かめられれば、今後のアンプ設計にたくさん生かせる部分がある。バランス型の真空管アンプを設計する上では、ちょっとしたブレークスルーが僕のなかではあったと感じている。


 
 <バランス型EQアンプ進捗>
 2013年7月11日 

バランス型EQアンプの設計を紹介しているが、その後の進捗をお話しよう。正直に言ってスムーズに作業は進んでいない。半導体のバランス型ヘッドアンプは何とか性能もメドがたっていよいよ真空管のバランス型EQの検討に入ったのだが、これがいろいろ問題が出て、最初の回路案では動作が安定せずそのため回路変更を余儀なくされている。新しい回路では検討がスムーズにいかないことはよくあるが、今回はその程度が大きい。まだ真空管回路についての知識、経験が乏しいと感じてしまう。まあ自分用だから誰にも迷惑をかけていないのがせめてもの救いで、時間的には思っていた予定より大幅に遅れてしまった。ただこういううまくいっていない状況というのは嫌いでなく、これまでも新しい事をやろうとすると、最初はうまくいかないのは当たり前という認識だから、ほとんど落ち込んでない。むしろ楽しんでいて、これが出来たらさぞ愛着のあるアンプになるだろうなと密かに思っているくらいだが。
 これまでのトラブルを挙げてみると 
 ・カスコードのバイアスがうまく設定できていない問題。
 ・カスコードアンプ部の動作ノイズ(発振)
 DCゲインが高くて動作点が不安定。
 ・差動増幅部のグリッド電圧の発生。
 ・ヒーター電源のリップル。
 ・初段ノイズ。
 ・ゲイン不足。

などなどいろいろトラブルが出てきた。こんなことをあからさまにお伝えするのは信用を失うようで良いことではないかもしれないが、今更信用問題もないだろうと思い、まあいいかという心境である。今はだいたいメドは立ちそうなのだが、まだ細かい測定までしていないのでここで断言できるところまでは至っていない。(慎重だなあ)

何事も最初からうまくいかない。僕はちょっとひねくれ者だから、むしろうまくいかないことを楽しんでいる。これを克服すれば僕の技術はまた少し上がる。いろいろな経験が自分を育ててくれる。

このホームページで初めて設計途中の作業を公開したら、それがうまくいかないのもちょっとした神様のいたずらかもしれない。「そんなに甘く見るなよ」とささやいているようだ。


 
 <型>
 2013年7月1日 

エンジニアが語る型というと金型を連想するかもしれないが、これはちょっと違う。習い事などで規範となる動作・やり方の型の話。
 最近女房が能管(能の笛)を習っているので、それに影響され能のことを少し知ることとなった。先日も女房が出張で行けない能の公演を一人で観に行ってきた。場所は国立能楽堂で定期公演のようなものだった。能のことは全く知らない。歌舞伎も見たこともない人間が能を観にいって何が分かると言われても何も言えない。ただどんなものかを観たいだけだ。台詞はすぐには理解できない。海外で外国語の劇を観ているようなものだ。そういえば昔ロンドンでミュージカルのキャッツを観たことがあるが、英語は分からないがストーリはちょっと理解できて面白かった記憶があるから能も同じように楽しめればよいのだろうと思っていた。ただまったく知識なしで観るのも楽しめないと思い、女房から能の本を借りて事前に情報を得てから観た。演目は「俊寛」という話。言葉は分からないが、事前勉強のためかストーリは理解でき初めて能を楽しむことができた。どこが良いかなどは分からないが、ストーリに入り込めたのが良かった。映画でも演技と分かっていても泣いてしまうことがあるが、それと同じで劇の内容に観客の気持ちが入り込めるというのが一番と思う。
 能は600年前に出来た演劇らしいのだが、現代から見るとシンプルなものだが、600年前の平安時代にこれだけの劇の型が完成されていたと思うとこれは素晴らしい文化と思える。シテ、囃子、地謡(じうたい)の構成や舞の型、衣装、面(おもて)などが600年前に世阿弥によって完成されていて、現代の能は型を連綿と受け継いでいるそうだ。

白洲正子の本を読むと能は何も考えずにただ昔からある型と忠実に学ぶことが重要だと書いてある。自己流、現代流は考えるな。ただ昔からある教えられた型がきちんとできるようにすることが重要だと書いてある。世阿弥によって完成された型を忠実に学ぶとこが大切と書いてある。ただひたすらに何百年と続いてきた型を覚えるというのがまずはすることのようだ。
 これはどの世界でも同じことだ。何事も最初は真似から入る。そしてそれが十分できるようになってから少し自分という個性が出せるようになる。昔からある基本が真似できないで自己流では困る。この考え方が能の世界では重要らしい。だから600年も継承されていることになる。

音楽にしても料理にしても長く続いている物は安心感を与えてくれる。後味が良い。真空管アンプも新しいものを追いかけるばかりではなく、時には伝統みたいなものを振り返る必要があるのかなあ。


 
 
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