我が家の近くにはおいしいパン屋さんが2軒あった。もう過去形になってしまった。この2軒のパン屋さんひとつは10年ほど前、もう一つは7年ほど前に開店し、その味はたいへん良かった。前者はフランス系のパンでフランスパンやクロワッサンなどで後者はドイツ風と言ったら良いのだろうか、クルミやナッツ、干した果物などをふんだんに使った固めのパンだった。両方とも調理パンもおいしく僕などは朝、昼ともパン食だったこともあった。ところが昨年12月末、ドイツ系のパン屋さんが閉店してしまった。ここは女性のオーナーで週4日の営業だったのだが、家庭的な雰囲気で味は僕の少ない経験からは味わったことのないパンを提供してくれいたのだ。だがオーナーの体調がすぐれなくなり、ついにその営業を閉じてしまわれた。昨年の11月に閉店の話を聞いたとき、もうこの味が食べられないと思ったときは本当にショックだった。秋葉原で100年続いたはんぺん屋の「構え」が店じまいした時と同じショックを受けた。
ところがである。昨日もう一つのフランス系パン屋さんに買い物に行ったらここもこの2月で閉店するとの掲示が出ていて、当然確認したらその通りとの返事。またショックを受けてしまった。何ということなのか。
この2軒、我が家から歩いてほんの数分のところにある。パンはもちろん生地やフィリングなど材料の良し悪しが味に大きく影響しているのはまちがいないが、もう一つの旨さの要素として出来立てというのがある。パンは焼き立てが抜群においしい。両方とも朝の開店は早くないから出来立ては昼過ぎになってしまうが、焼き立てパンの一口目というのが最高の幸せの一瞬だ。これがもう味わえないなんて、誰かどうにかしてくれ。女房はこれらのパン屋さんができる前にはそれほどパンは好きでなかったのに、この2軒のお陰でパン好きになった。これからはどこで買えば良いのだろうか。
これまでおいしいコーヒー、紅茶、そしていろんなバリエーションのおいしいパンがあって、朝食が楽しめたのにこれからどうしてくれるのだ。
以前アステカのマスターから、パン屋さんを続けるのは大変だということを聞いていた。かなりの肉体労働で経営も難しいらしい。そんな予言が図らずも的中してしまった。人生の中の10年程度はおいしいパンが食べられて良かったと、前向きに考えようと思っている。でもまた再開してくれないかなあ。
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