オーダーメイド手造り真空管アンプの店



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 <実用オーディオ学>
 2019年4月16日 

岡野邦彦 著「実用オーディオ学」(コロナ社)なる本を読んでみた。このような雑誌ではなく工学の本を買ったのは本当に久しぶりのことだ。30年以上も手にしたことがなかったから最初はちょっと最後まで読めるのか不安もあったがそれは杞憂であった。
 きっかけはあるオーディオのサイトに紹介されていたので急に読んでみたくなったからだ。装丁は工学本ではあるけれど数式などは出てこず、著者自身も述べているように、内容は音響学ではなく趣味まで含めたオーディオ道として書かれている。ただしときどき巷でみうけられるオカルト的な意見ではなく、なるべく「科学の作法」を取り入れ科学的に理解しようと述べている。だから電気を専門にしていない方にもそれほど難しくなく読める内容だと思う。
 この本の中で面白い意見と思われたのは<CDとハイレゾの科学>という章のなかで、まとめでは「・・・・CDを超えるハイレゾの音は確かに素晴らしいが、時代遅れと思われているCDの音も、時代とともに実はまだ良くなる可能性がある。CDの可能性のすべてを引き出すのは意外と大変だったのだ。・・・CDは大事にしておけば、いつか、いまよりはるかに素晴らしい音で鳴ってくれる日がくるかもしれない。・・・・・」という文章があった。
 またハイレゾの音が良いと言われる可聴帯域外の音(20KHz以上)が再生されるからではなく、DACの再生波形がより正確になるからだと主張している。
 これらの主張に関しては僕も大賛成で、ハイレゾの音が良いのは可聴帯域外まで再生されるから音が良い、と言われる意見にはおかしいと思っている。このコラムでDAC調査ということを書いたことがあるが、CDフォーマットのデータを正確に再生すのはかなり難しく、今の大半の製品は完全に再生できていない。僕が思うに一番正確に再生しているのはCHORDDACだと思っている。これはかなりのゲート数が必要なデジタル回路になっているが、そのうちにきっと小電力、高速LSIが生まれCDの音も今よりすっと良い音になると信じている。ハイレゾはそれだけフォーマットに余裕があり、DACの設計が楽に行われるので今の技術でも十分な再生音を作ってくれている。ネットなどではCDフォーマットは時代遅れで何故こんな規格にしたのだという意見も聞かれるが、それは正しくなく今でもCDの理論を正しく再生できる製品が少ないということだ。だからCDでもそのうちにもっと良い音が聴けるようになるというのは正しい意見と思う。

 著書の中での内容が全て正しいかどうかは分からないが、一部には同意できる部分もある。この本はオーディオ道の本だからそれぞれの意見で自分のオーディオ道を進めばよいと書かれているので、考え方が少し異なる意見もありかなと思っている。



 
 <6550アンプ解体作業>
 2019年4月1日 

この季節イマイチ調子がでない。花粉症と季節の変わり目の気温の変化に体がついていかず、涙、鼻水、のどがやられ身体がすこしだるい状態が続いている。薬を処方してもらっているがこの身体の悪い調子は続き、頭もスッキリしていない。だからオーディオの作業をしようと思ってもなかなかはかどらない。
 集中力が続かないので、気楽にできる作業でもしようかと思いアンプの解体作業を始めた。それが6550ppUL)アンプ解体作業だ。このアンプは20年以上も前に設計されたものをその後何回もの回路変更をかさね、いわばMYプロダクツの実験アンプとしてこれまで多くの実験に耐えてきたものだ。
 定電圧電源の実験、リップルフィルタの実験、ソフトスタート回路の導入、電源インピーダンスの測定、配線の実験、アンプ動作点変更実験、バランスアンプへの変更などこれまで思いつく回路をこのアンプで実験、測定、音質評価を繰り返してきた。このアンプでの実験がMYプロダクツのアンプの技術ベースになっている。あまりにも変更が多いので今では回路図すら存在せず、実際の回路を見て回路を思い出すという有様だ。
 昨年あたりからKT88ppUL)のバランスアンプの回路を書いていて、いよいよ6550ppUL)アンプ実験機はここで終了してKT88にリニューアルしようと計画していた。使える部品はなるべく使うということにして、トランス類、電解コンデンサなど大物高価部品を丁寧にはずしている。もう20年以上もこれらの部品を使ってきたのかと思うと自分の歳と重ねて当時を思い出す。
 今は自分用のアンプしか作ってないから気楽ではいいけれど、縛りがないから時間的な計画性というものがなく気分次第で作業をしているからなかなか先に進まない。誰かやってくれないかなあと思いながら老人の作業は少しずつ進めています。




 
<真空管バランスアンプ5>
 2019年3月16日 

真空管アンプでバランスアンプを構成するやり方は半導体アンプとは少々異なる。特に出力トランスを使ったパワーアンプは簡単だ。出力トランスの2次側がすでにバランス出力すなわちホット・コールド端子を有しているのでそのまま出力すればバランス出力になる。しかしそれでも安定性や電位などを考慮すれば少しばかりの変更が必要だ。
 一般にこれまでバランス伝送とはバランストランスを通して伝送するくらいだから、パワーアンプの出力トランスをそのままバランス出力として使うことは自然に考えられることだ。僕のこれまでの経験では例えばトランス出力の0Ω、8Ωをそのまま出力するとしてそれぞれの端子にから100Ω程度でグランドに落としてあげると動作が安定してくれる。負帰還方式も無しでも反転型でも非反転型でもよい。入力はもちろん差動増幅にする。2段目も差動にしたほうが全段プッシュプルになるのでなおよい。出力段はプッシュプル方式だ。こうすればりっぱなバランスアンプが完成する。これは普通のアンバランスアンプの出力だけをバランスにしただけだから、性能もこれまで述べてきたいくつかの利点が得られない部分がある。偶数歪のキャンセルとか出力インピーダンスの増加とかはない。ただ共通インピーダンスの削減効果は得られるので音質でのメリットは大きい。
 一方ラインアンプやEQアンプに関して言えば、これまで2出力を持つプッシュプルバッファがみつからなかったがCSPP回路を応用すれば高性能のバッファが構成できるので、差動増幅とCSPPとの組み合わせがあれば2入力・2出力のバランスアンプが構成できる。負帰還は無しでも反転型、非反転型でも構わない。具体的な回路はこのサイトのERを参考にしていただきたい。

ざっとバランスアンプの利点・欠点を述べてきた。バランスアンプやBTL接続アンプは多くのメリットを有している。真空管アンプは別にして回路の複雑さやコストの上昇はあるものの高級アンプとして発売している割にはバランスアンプ・BTL接続アンプが少ない。しかし最近ではいくつかのメーカーがバランスアンプ、BTL接続アンプを販売しまた評価を得ているのも事実であって、バランスアンプの利点を積極的に宣伝し、他社ももっと積極的にバランスアンプを設計すればと老婆心ながら思ってしまう。
 僕はもちろん個人用ではもうアンバランスアンプを作る気がしない。すでにシステムがバランスで作られているのでその中で発展していきたい。
 読者の中に自作される人がいましたら、真空管バランスアンプを作ってみて下さい。これまでより繊細で定位が良くスピードのある音が得られると思います。


 
 <真空管バランスアンプ4>
 2019年3月1日 

今まではバランスアンプ、BTL接続アンプの歪とノイズについてその利点を述べてきた。今回はその他の利点、欠点について述べてみる。
 ・最大出力
 良く言われるバランスアンプ、BTL接続アンプの利点だ。出力電圧がHotColdそれぞれ逆に振れているのでアンバランスに比べ2倍の出力電圧が出る。電圧が倍になるということは電力では4倍となるので、バランスアンプ、BTL接続アンプはアンバランスアンプに比べ約4倍の出力をもつアンプにすることができる。バランス型の真空管アンプでは出力されるトランスの接続を変えるだけだからこの現象は起きない。
 ・スルーレート
 最近はアンプのスルーレートについてその重要性はあまり議論されなくなった。オーディオ全盛のころはある時期このスルーレートが音質に大きく影響を与えるという理論があり、あるメーカーはスルーレートの値を誇ったものだった。スルーレートというのはアンプの立ち上がり(rise)あるいは立ち下り(fall)の傾きのことで、1μsに何ボルトの変化が可能かの値である。当然大きいほうが急峻な波形を伝送できるから優秀なアンプとなる。バランスアンプやBTL接続アンプは出力段でそれぞれHotCold端子が逆に振れているから立ち上がりと立下りのスルーレートを加えた値になるので、アンバランスアンプに比べ倍近い値になる。ただし僕が推奨するバランス型の真空管アンプでは出力トランスの両端をバランス接続として使うのでスルーレートの変化はない。
 ・出力インピーダンス

 前回のコラムで説明した図3を見てみると、バランスアンプ、BTL接続アンプはスピーカーに対して2台のアンプでドライブしているから出力インピーダンスは2台分の合計になる。よって同じ性能の2台のアンプで構成されているとすれば出力インピーダンスは2倍となる。すなわちアンバランスアンプに比べ、バランスアンプではダンピングファクターが悪く出る。しかし最近の半導体アンプは十分大きなダンピングファクターを持っているのでそれほど問題にはならない。バランス型の真空管アンプでは出力インピーダンスの変化はない。
 ざっとこのような変化がバランスアンプには起こる。これまで述べてきた利点、欠点をみてみるとバランスアンプにする欠点というのはダンピングファクター程度でそれも無視できる値だからほとんど悪いところはない。むしろ僕の考えでは前回述べた電源の影響から解放されるからバランスアンプにしない理由はほとんど見当たらない。

このようなバランスアンプの利点を理解した上で次回は真空管アンプでバランスアンプを実現する方法を述べてみたい。


 
 <真空管バランスアンプ3>
 2019年2月16日 

今回はバランスアンプとノイズについて。バランスアンプの特長などをサイトで見るとバランスアンプにするとコモンモードノイズが取れるという説明がある。コモンモードノイズを説明するのは難しい。信号ラインとグランドラインの両方に同時にノイズがのる現象なのだが、これがどういう時に起こると言ったらオーディオ帯域(100KHz以下の周波数)ではあまり起こらないと思う。配線がひどくて2点アースになっていれば信号・グランドと大地の間でループができハムや高周波ノイズがコモンモードノイズとして乗ることは考えられるが、通常はスイッチング電源・デジタルアンプ・整流のスイッチングノイズなど高周波領域でのコモンモードノイズが主で普通のアンプではオーディオ帯域でのコモンモードノイズは無視していいのではと思っている。
 それより共通インピーダンスの影響を論じた方が音質に影響を与えると考えている。図1が通常のアンプの信号の流れを示している。アンプの出力部分を見るとアンプはオーディオ信号と電源回路と負荷(スピーカー)が直列に繋がっているように見える。電源部は電源のインピーダンス(主にコンデンサ)とそこに流れる整流回路のリップル電流によるノイズenがある。
 eはオーディオ信号、rpは信号源インピーダンス(出力インピーダンス)、ezは電源インピーダンス。enはリップル電流ノイズである。これがステレオアンプになると通常電源が共通になるから図2のようにrzenが共通の回路として用いられている。これが共通インピーダンスとして作用する。
 図1の場合負荷に発生する電圧は信号eの他enの影響を受けているが、図2の場合rzの存在のためRL1ene2の影響を受けている。すなわち通常のアンプというのはいつも電源ノイズと他チャンネルの影響を受けながら再生している。ところがこれをバランス接続(BTL接続)させてみると図3のように負荷は接地されずにすむため電源回路の影響を受けずに回路が閉じている。交流回路だけをみるとバランス回路は電源の影響を受けない回路になっている。ここでは計算式を書かないが、図2rp1=rp2e1=-e2としてE1E2を算出しEE1E2を計算してみればrzenの項がなくなりEは電源に影響されない回路であることが分るだろう。
 ここが一番のポイントなのだが、通常オーディオアンプというのは図1にしても図2にしても致命的に電源のノイズ(enrz)の影響を受けているがバランス接続にするとあら不思議この悪影響から逃れることができる。これがバランスアンプの大きな特長となる。これが大きく音質に好影響を与えることは当然と言えるだろう。
 実際バランスアンプで音楽を聴くと、より微細レベルでの表現が上がっている。これは電源・配線などの共通インピーダンスの影響が薄れ聴感上でもその効果が表れている。
 次回は他の特長を述べてみたい。

           




 
 <真空管バランスアンプ2>
 2019年2月1日 

・バランスアンプの歪について
 今回はアンプの歪について述べる。アンプというのは入力信号と出力信号が正確に比例するのが理想だが実際には比例しない。このような現象をアンプの非直線性と呼ぶ。アンプの非直線性は大小の違いはあるものの普通のアンプでは存在し、その出力は基本波の他に高調波の歪として2次歪、3次歪、・・・いわゆる高調波歪と呼ばれるものが不随して出力される。
 このような高調波歪とバランスアンプとの関係を考えてみたい。
 アンプの非直線性によって現れる歪は直流、2次、4次、・・などの偶数次歪と、3次、5次・・などの奇数次歪に分けられる。この偶数次歪と奇数次歪はよく見ると面白い性質がある。2次、3次というのは基本波の2倍、3倍の周波数という意味である。
 1は基本波と2次歪の例を描いた図だ。歪の大きさは分かりやすいように基本波の20%の大きさで示してある。本来歪がなければ出力は基本波だけだがこの例では2次歪が発生したことを表している図である。2次というのは基本波の2倍の周波数だから周期が半分になっている。ここで基本波がゼロからプラスに上がっていく時とゼロからマイナスに下がっていく時にも2次歪は同じようにプラス方向に振れている。だから図2のようにもし基本波が反転した時にも歪波形は反転せず、図1と同じ歪波形を維持したままになっている。ところが歪が3次高調波の時を考えてみると、図33次歪を発生する時の図になるが、この時基本波がゼロから上がっていくときと下がっていく時では歪波形は異なっている。(位相が合っていない)基本波がゼロから上がる時は歪波形も上がり、基本波がゼロから下がる時には歪波形も下がっている。だから図4のように基本波が反転した時の3次歪は歪波形も反転している。
 ではこれらの2次、3次の歪を発生するアンプがBTL接続されたらどうなるだろうか。BT接続ではホット出力からコールド出力を引き算されるから(図1-図2)、(図3-図4)を描いてみるとそれぞれ図5、図6となる。2次歪は打ち消されてなくなり、3次歪はそのまま残っている。3次歪の場合基本波と歪はそれぞれ2倍されるので歪の割合(歪率)は変わっていない。
 ここで分かることはBTL接続すると偶数次歪は打ち消されて減り、奇数次歪はそのまま残るということだ。すなわちBTL接続されたアンプは偶数次歪を少なくさせる特長を持っている。
 この特長はBTLアンプに適用でき、BTLアンプはより高性能のアンプということができる。バランス増幅アンプではこの現象は起こらず歪の改善はない。
 次回はバランスアンプとコモンモードノイズの関係。






 
 <真空管バランスアンプ1>
 2019年1月16日 

これまでこのサイトでは真空管バランスアンプについて回路や性能について発表してきたが、バランスアンプについての基本的な考え方とか特長については述べてこなかった。今年は真空管バランスアンプについてのレポートを発表するつもりでいるので、まず今年最初のコラムでバランスアンプの特長から話を始めようと思う。
 すでにこのサイトにあるERではEQ、ラインアンプ、パワーアンプのバランスアンプの製作例を発表していて、その説明の中で簡単にバランスアンプの構成を示している。しかしバランスアンプとはどういう物か分からない人にとってどんな利点があるのか、もっといえばそれが音を良くするのかということは分からないと思う。また一方バランス伝送とかバランス増幅とか言われる方式は主にプロのオーディオの世界では使われているということも聞いたことがあると思う。このバランス伝送とかバランス増幅と言われる方式が何故使われるかについてはもちろんそれなりの理由がある訳で、すでに多くの書物やサイトでその理由が述べられているが、僕としてはこの紙上でもう一度説明し、その利点などを僕の視点で解説してみたい。また真空管でバランスアンプを設計することがそれ程難しくないことも最後に説明していくつもりだ。

・バランスアンプの構成
 通常オーディオアンプの構成は電気信号ではグランドと言われる電位を基準(0V)にしてそこから電圧が何V発生しているかとして設計していく。だから入力信号も出力信号もグランドを基準にして交流信号を増幅し、信号レベルを測っている。図1がその概念図でグランドレベルを基準にして信号が入力され増幅して出力される。今世の中に出回っているオーディオアンプはほとんどこの構成になっている。一般にこの構成をバランスアンプと区別するためにアンバランスアンプと称している。
 一方バランスアンプというのは入力が2つ、出力も2つある構成になっていて、それぞれの信号はホット、コールドと呼ばれ、この間に信号を入力し出力する。だからそれぞれの信号を見ると、振幅が同じだが逆位相の信号になっている。
 バランスアンプというのはこのホット・コールド間の信号を増幅した形をとる。だからこのアンプはグランドを基準にしないで増幅する。うまく作れば僕が提案した真空管バランスアンプのようにアンバランスと同じ回路規模でバランスアンプをつくることもできる。
 しかし多くのバランスアンプはアンバランスアンプ2つを使って構成することが多い。この場合はBTL接続と言われている。動作的には似たような動作をするが、完全なバランスアンプとは少し違っている。
 1にアンバランスアンプ、図2にバランスアンプ、図3BTL接続アンプの概念図を示す。

今回はここまで。





 
 <2019年明けましておめでとうございます>
 2019年1月1日 

明けましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いいたします。

今年はコラムの回数を減らしますが、その分面白い中身になるように努めたいと思います。
今年から月2回(1日、16日)の公開としますのでよろしくお願いいたします。

僕の今年の目標はKT88のパワーアンプを完成させることで、どの程度時間がかかるかわかりませんが頑張りたいと思います。また昨年完成させたKT66パワーアンプについては、予定どおりこのコラムでエンジニアリングレポートを公開します。バランスアンプ用の新しいCSPPドライブ回路を作りましたので楽しみにして下さい。


KT66ppパワーアンプ

 
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