出力管を低インピーダンスでドライブするやり方を試してみたくなったきっかけは武末数馬氏の製作記事からだ。記事では最高の音質を求めてと題して設計意図が述べられていたが、そのなかでドライブ段について次のような文章があった。
「たとえば古い出力管や、とくに低rpの出力管を使用したアンプの場合、前段のドライバ管と出力管の縁を切って、ドライバの出力電圧を見ると、思いのほかひずみの少ない大出力電圧が取り出せます。出力管を正規の状態にしてドライバ管を接続すると、トタンにドライバの出力電圧が低下して、ひずみも増大します。・・・・・・」
この記事を読んだことが以前あったのでそれならドライバ段を低インピーダンスで設計してみよう、それもppのCSPPでということになったわけだ。
さてこの武末氏のご意見は本当なのだろうかとその後僕のアンプで実験してみた。KT88に改造する前の6550アンプでの実験で、出力管あるなしでドライバ管の出力の歪を測定してみたところ、出力管のあるなしにかかわらず1KHz、10KHzの歪特性に大きな変化はなかった。ここで考えられる結論はビーム管のUL接続の出力管ではドライブ段への影響はそれほどないということだ。ただこれは1回の実験だけだから断言するまでは言えないけれどドライブ段で極端にひずみが悪化することは少ないだろうという結論だ。
しかし不思議なことにアンプトータルの歪特性はCSPPドライバがあるときとないときでは歪率が違うことはあきらかだった。これまで低インピーダンスで直結のドライバ回路の無い回路を測定してきたデータと、CSPPドライバのあるKT66、KT88アンプの歪特性に違いは明らかにある。これは何が違いを生んでいるのかはまだ分かっていない。少なくともドライバ管の駆動能力の違いによるものではないようだ。今考えられるのは出力管のプレート端子からの静電的か電磁的な戻りによる歪の劣化なのではと推論している。
ドライバ段の出力信号が出力管からの静電的、電磁的結合により悪影響を受けているというもの。出力管のプレート信号はかなり複雑な形をしている。電圧的にも電流的もだ。まず出力管はAB1クラスで動作しているので上下対称な波形ではなく、片側は大きくその反対側は小さい波形だ。それに真空管自身も歪が大きいからプレート信号波形というのはかなりの高調波が含まれていると考えられる。こんな高調波の多いプレート信号の直ぐ傍に入力のグリッドがあるので、グリッドの信号インピーダンスが高いと影響を受けて歪が悪化するという推理だ。まだ確実な理由ととらえていないが、出力管のドライブは低インピーダンスであるほうが歪が少ないことは明白な結果だ。
これがCSPPドライブパワーアンプの低歪の特性を生んでいるのではという推論をたてている。また低インピーダンスドライブは最大出力にもいくらか影響してわずかな出力増大の効果もある。電源の効果もあるが今回4Ω負荷での歪特性が素晴らしかったが印象的だった。
さらに話はつづく。
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