オーダーメイド手造り真空管アンプの店


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 <CSPPドライブについて4>
 2019年12月16日 

今回パワーアンプにおける低域の時定数の話。
 僕の設計する真空管アンプは負帰還アンプである。通常NFBをかけたアンプと言われている。なぜ負帰還が必要かは意見の分かれるところだが、僕は出力インピーダンスを重要視するからどうしてもNFBが必要と考えている。さてこのNFBアンプは利点も欠点もある。よくNFBアンプは歪が減ると言われる。実際歪はかなり改善されるがアンプ回路内部をみると面白い動作をしている。入力にきれいな信号が入ると、NFB回路は出力が入力と同じ信号になるように働いている。それで歪が減るのだがこの動作を少し見てみると、もともと真空管自体には歪を持っているのに何故アンプ出力は歪が減るのだろうか、その歪はどこにいってしまったのだろうか。例えば出力管はもともと大きな歪を持ったデバイスなので魔法でもかけない限りこの部分の歪は減らない。それでもアンプ出力の歪が減っているということは、NFB回路というのは出力管の入力には歪を打ち消すような信号が入り、その結果出力には歪の少ない波形が出ているということになる。すなわち出力管が偶数次の歪を持ったデバイスだったら、NFB回路では入力にはこの偶数次の歪を打ち消すような逆相の偶数次歪波形が入力されていることになる。
 次にこの偶数次の歪波形信号はどのようなものなのだろうか。偶数次の歪を持った波形と言うのは実は上下非対称の形をしている。上下どちらかの波形がつぶれ、反対側が伸びている波形をしている。この波形は上の波形(プラス側)面積から下の波形(マイナス側)面積を引いてみてもゼロにならず、これは直流が存在していることを示している。平均値がゼロにならず、これは数式でも証明できる。すなわちアンプ内部では素子に偶数次の歪があるとDC(直流)が生じている。アンプ出力ではDCは必要ないものの、アンプ回路内部ではDC増幅する必要があることを示している。これは面白い現象で何故半導体アンプはDC再生する必要ないのにDCアンプにする必要があるかに通ずる。真空管アンプでも同じ現象があるから、特に歪の多い出力管の前は大きな偶数次歪波形が入力され、そこに小さな時定数ではDCまで必要な帯域が得られない。しかしそこに直結バッファを入れ出力管での時定数は無くし、別のCR結合で時定数を大きくできれば、偶数次歪を持った信号をより正確に伝達することができると考えられる。これが直結ドライブのメリットではないかと推測している。
 もちろん武末氏のグリッドリークの影響もあると考えられるから否定はしないまでも、それだけでは説明できない現象もあるのではという意見だ。
 ほんとうの原因はまだわからないけれど、直結ドライブというのは真空管アンプでは必須ではないと思っている。

 最後にまた武末氏のご意見
 「相変わらずのCR結合で出力管をドライブするなどという無神経な設計が改められようとしません。」
 CSPP
ドライブはこれで終わりにします。

 今年もコラム読んでいただいてありがとうございました。


 
 <CSPPドライブについて3>
 2019年12月1日 

前回までCSPPドライブの低インピーダンスドライブの考察を述べたが、今回は直結回路の効果について述べてみたい。今回のKT88アンプは低域が伸びて、力強い音がする。この効果は直結回路に起因しているのではと思っている。その前にまた武末数馬氏の意見から書いてみる。彼は出力管のドライブは直結にすべきとの持論で次のように述べられている。「CR結合は次段の入力インピーダンスに非直線性がある場合は非直線歪を生じますが、音声信号のような過渡入力によっては過渡ひずみを生じます。特に低内部抵抗の大型出力管では常時グリッド電流が流れ、しかもグリッドの電位は大出力時にゼロに近づき、時にはプラス領域に流れることもある。これは入力信号に比例しない、つまり非直線性を持っている。したがって出力管をCR結合でドライブすることは、過渡ひずみの点から好ましくない。」「従来から直結ドライブアンプの音は伸びやかな印象を与え、特に大出力時にはひずみ音が耳につかない傾向」などと書かれています
 さて僕の意見としては音の伸びやかさということに関して言えば同意見で同じ印象を持っているが、出力管のグリッドの非直線性云々については少し疑問をもっている。それは前回で述べた出力管の影響を調べるドライバの実験では、それほど顕著な影響が現れなかったことによる。ただ過渡ひずみを測定できてないので断言できないが、KT88を使用し比較的小信号でも音の伸びは感じられたのでその原因は別のところからもあるのではないかと思えるからだ。
 では直結回路の他の利点はないだろうかを考えた時、他の利点が一つ上げられる。それは回路の低域時定数の改善だ。直結回路がない場合CR結合の負荷は出力管のグリッドリーク抵抗だ。この値には制限がある。大型出力管のグリッドは武末氏の指摘どおりグリッド電流が流れやすく、このためグリッドリーク抵抗は制限を受け6550では50KΩ以下、KT88では100KΩ以下(共に固定バイアス時)に制限される。しかしバッファを介してドライブした場合、CR結合の入力抵抗はバッファ回路のグリッドリーク抵抗になり、それは通常の電圧増幅管が使われカソードフォロアでは最大1MΩ近くまで増やすことができ、大幅にCR結合の時定数を大きくすることができる。
 それでは真空管パワーアンプではそんなにCRの時定数を大きくする必要があるのだろうか。トランスがありDCまで再生できないアンプなのに内部回路の時定数は大きい値が必要なのか。そんな疑問が湧いてくる。
 今回は紙面がなくなってきたのでこの辺で。
 次回を楽しみに。


 
 <CSPPドライブについて2>
 2019年11月16日 

出力管を低インピーダンスでドライブするやり方を試してみたくなったきっかけは武末数馬氏の製作記事からだ。記事では最高の音質を求めてと題して設計意図が述べられていたが、そのなかでドライブ段について次のような文章があった。
 「たとえば古い出力管や、とくに低rpの出力管を使用したアンプの場合、前段のドライバ管と出力管の縁を切って、ドライバの出力電圧を見ると、思いのほかひずみの少ない大出力電圧が取り出せます。出力管を正規の状態にしてドライバ管を接続すると、トタンにドライバの出力電圧が低下して、ひずみも増大します。・・・・・・」
 この記事を読んだことが以前あったのでそれならドライバ段を低インピーダンスで設計してみよう、それもppCSPPでということになったわけだ。
 さてこの武末氏のご意見は本当なのだろうかとその後僕のアンプで実験してみた。KT88に改造する前の6550アンプでの実験で、出力管あるなしでドライバ管の出力の歪を測定してみたところ、出力管のあるなしにかかわらず1KHz、10KHzの歪特性に大きな変化はなかった。ここで考えられる結論はビーム管のUL接続の出力管ではドライブ段への影響はそれほどないということだ。ただこれは1回の実験だけだから断言するまでは言えないけれどドライブ段で極端にひずみが悪化することは少ないだろうという結論だ。

しかし不思議なことにアンプトータルの歪特性はCSPPドライバがあるときとないときでは歪率が違うことはあきらかだった。これまで低インピーダンスで直結のドライバ回路の無い回路を測定してきたデータと、CSPPドライバのあるKT66KT88アンプの歪特性に違いは明らかにある。これは何が違いを生んでいるのかはまだ分かっていない。少なくともドライバ管の駆動能力の違いによるものではないようだ。今考えられるのは出力管のプレート端子からの静電的か電磁的な戻りによる歪の劣化なのではと推論している。
 ドライバ段の出力信号が出力管からの静電的、電磁的結合により悪影響を受けているというもの。出力管のプレート信号はかなり複雑な形をしている。電圧的にも電流的もだ。まず出力管はAB1クラスで動作しているので上下対称な波形ではなく、片側は大きくその反対側は小さい波形だ。それに真空管自身も歪が大きいからプレート信号波形というのはかなりの高調波が含まれていると考えられる。こんな高調波の多いプレート信号の直ぐ傍に入力のグリッドがあるので、グリッドの信号インピーダンスが高いと影響を受けて歪が悪化するという推理だ。まだ確実な理由ととらえていないが、出力管のドライブは低インピーダンスであるほうが歪が少ないことは明白な結果だ。
 これがCSPPドライブパワーアンプの低歪の特性を生んでいるのではという推論をたてている。また低インピーダンスドライブは最大出力にもいくらか影響してわずかな出力増大の効果もある。電源の効果もあるが今回4Ω負荷での歪特性が素晴らしかったが印象的だった。

 さらに話はつづく。

 
 <CSPPドライブについて>
 2019年11月1日 

KT88pp(UL)CSPPドライブバランス型パワーアンプ>の音質から話を始めると、これもすばらしく僕の製作したアンプのなかでは最高ではないかと思っている。ただしいつも僕は最新作のアンプが最高と常々言っているから至高のアンプというわけではない。新しいアンプは何かしら新しい技術を入れることが多いから音も良くなっていることが多いからだ。(これまででは最高です。)
 さて今回のCSPPドライブのパワーアンプは静かで、柔らかく、そして力強く、定位も良くてかなり満足できる仕上がりになっている。もの静かでやさしくそして力持ちというまるでヒーロー人物のような出来上がりになった。低域についてはスピーカーや部屋の影響もあるので限度があるけれど、全体的に低重心で定位のよい音を出してくれている。
 こんな音質は何故生まれてきたかを考察するのもアンプ設計にはおもしろいテーマだ。前回設計したパワーアンプはKT66CSPPドライブパワーアンプで、今回のKT88アンプと音の傾向が似ている。KT88アンプのほうがトランスや電源の性能が良いのでより低重心な音となっているが、この2つは低音の伸びや定位の良さなどはこれまでのアンプとちがった音質の良さを備えている。この2つのアンプの大きな特長はドライブ段にCSPPの直結バッファを備えたことがあげられる。このCSPPドライブが音質にどんな影響を及ぼしているのかを考察してみたので述べてみたい。
 出力真空管の直前の増幅段を真空管アンプではドライブ段という。ここは通常は増幅段と兼ねているので特別な回路ということはない。ただ回路的に出力管の前にあるだけでドライブ段と言われている。出力管が正常に動作するように十分な信号を送り出す役目だ。出力管の入力すなわちグリッド端子は深いバイアス電圧動作をさせているので、入力信号の振幅も大きなものが必要となる。大電流は必要ないけれど大きな電圧振幅が必要となる。このおおきな振幅信号を送り出すという意味でドライブという言葉が使われているのだろう。
 このドライブ信号というのは出力管のグリッドのインピーダンスが通常高いので大きな電力を必要とせず、増幅回路のプレート出力からカップリング(直流素子用)コンデンサをとおして出力管のグリッドに供給される。多くの真空管アンプはそのような回路になっている。

次に僕がここ2つのパワーアンプにCSPPドライブという回路を入れた理由から話をすすめる。これまでドライブ段をカソードフォロアというバッファ回路を入れて出力管と直結にした回路は多々ある。主にAB2級というグリッドをオーバドライブして出力を上げる手法だ。今回の場合はその理由でなく、単に低インピーダンスで出力管と直結回路でドライブして音質を確かめてみたくなったからだ。そのドライブ回路をこれまでのカソードフォロアではなくpp(プッシュプル)で動作するCSPP回路のほうがグランドの影響が少なくより理想のドライブ回路を考えられるから使用した。 
 話はつづく。

 
 <ほぼ完成>
 2019年10月16日 

ついにと言うかやっとと言うか昨年から作業してきた<KT88pp(UL)CSPPドライブバランス型パワーアンプ>がほぼ完成した。昨年の夏から検討を始めたから1年半ちかくの時間がかかったことになる。それでもほぼ完成としたのはまだ底板の加工・取り付けが終わってなく完成にはまだ少しの時間が必要となる。それにしても長い間このアンプの設計に時間を費やしたものだ。自分用だから気が向いた時に作業をしている状態だったからこんなに時間がかかってしまったのだが。
 今回のアンプは以前実験機として長く愛用してきた6550ppUL)をリメイクしてみようと思い立ったことから構想が始まった。だからトランス、一部真空管、電解コンデンサ、真空管ソケット、端子類など使える部品はすべて再利用している。回路とシャーシは大幅に変更して再設計している。
 回路は出力段はKT88pp(UL)、初段はカスコード接続6922差動入力、2段目は12AU7直結差動増幅、ドライブ段は12BH7AによるCSPP(クロスシャントプッシュプル)回路という構成になっている。アンプ回路は全段プッシュプルのバランス増幅構成でできている。2つの電源トランスを使用し、出力段と電圧増幅段の電源を分けている。さらにメイン電源はSCRによるソフトスタート付きリップルフィルタ、9個の定電圧電源など今考えられる回路をすべてつぎ込んでみた。そのためレイアウト設計や回路確認に手間がかかってしまう原因を作ってしまったが、出来てみれば良くやったと自分をほめてやりたい仕上がりになった。
 アンプの特性はすばらしかった。

 出力        25W8Ω)、50W4Ω)
 f特          20Hz-0.1dB)~65KHz-3dB
 歪(1KHz,1W)   0.008%8Ω)、0.01%4Ω)
 セパレーション(1KHz)  99dB
 D.F1KHz)      
28

 ノイズ(入力換算)  -118dB
 という結果になった

 僕がこれまで設計したアンプでは最高の特性になった。
 今後はこれが僕のメインのアンプになる予定だ。
 ここまで特性が良いと音が気になるところだがそれは次回まで。




 
<10月になってしまった> 
 2019年10月1日 

もう10月になってしまった。9月はいろいろ忙しかった。実家で弔事があったり、台風15号の影響で庭木が倒れその後処理をしたり、またもともとこの時期に家のメンテナンスが予定されていたので工務店さんの対応をしたり、まあいろいろありました。
 今はもう落ち着いた生活にもどったが、アンプの製作も少し停滞してしまった。忙しかった理由でアンプの完成が遅れている言い訳をしているが、最初の設計のまずさもあってスムーズに動作がしなかったのが本当のところだ。
 KT88pp(UL)バランス型CSPPドライブパワーアンプはちょっと欲張った設計をしたせいで、動作確認もちょっと複雑になり、いざ動作を確認してみたらこちらもいろいろトラブルが出てきた。一応動作はしているのだが思ったような性能が出ていないのが大きな問題だった。前回のコラムでは出力管のバイアス調整がうまくいかないと述べたが、これは対策ができ少しばかりの回路変更で対応できた。ところが動作させてみたら裸ゲインが全然足りないことが判明した。僕のアンプはいつも高DF(ダンピングファクター)をねらうので、どうしても高NFB(負帰還)にしている。負帰還アンプを嫌う人が多いが、僕はまったく気にしない。20B近いNFBをかけても音は柔らかく嫌な音になるとは思っていないからだ。
 それはそうとして裸ゲインがたりない原因は初段の定数設定に問題があった。今回初段を高Gm管の6922を使用していて、ゲイン、ノイズをよくする手段を選んだつもりがその性能を十分出せる設定になっていなかったのだ。すでに半田付けしてある部品をはずして新しい部品に交換うるのはちょっと心苦しいが、思い切って新しい定数に交換した。また他には手元にある古い真空管で動作確認をしていたら、それも問題で12AU7に不良がみつかったり、なかなかスムーズに進めない状況であった。
 先日最終的に使うKT8812AU76922などを秋葉原で購入した。これから最終的な部品で動作確認、データ取りを行う予定だ。音出しはまだちょっと先になるかな。
 今の計画ではこのKT88パワーアンプが出来たら、KT66パワーアンプと一緒にバイアンプにして鳴らしてみたいと思っている。
 KT88アンプがうまくいけば、たぶんこれが我が家の標準システムになる予定だ。

 非常に楽しみ。

      秋葉原で購入した真空管


 
 <9月>
 2019年9月16日 

今の僕の関心事は台風15号のことだ。99日未明に神奈川県・千葉県に上陸し、想像以上の被害をもたらしている。横浜でも強風が吹き、我が家の庭木2本が倒れてしまった。そのうちの1本がお隣の家にごく僅かだがご迷惑をおかけしている。
 実家のある千葉は被害がひどいようだ。断水・停電が続きさらに台風後の気温上昇で生活も大変だったらしい。幸い家の被害は無かったから、時間が過ぎれば元の生活にもどれるが、それでも電気のこない生活は大変だったらしい。冷蔵庫が使えない、クーラーなし、シャッターが電動であったため窓も開けられず蒸し風呂状態だったようだ。しかし12日には電気が復旧し、ようやく普段の生活に戻れたようだ。兄の話だとLEDのランタンがこんな時便利で良いと話していた。
 ところが、別の地区に住んでいる友達のところはまだ電気が届いていない。テレビのニューズによれば電柱は折れ、倒木が電線にかかったりしてなかなか回復作業が進んでいないのを見るとこんな状態なのかと想像してしまう。千葉県ではこれまで台風の大きな被害にあったとこはないと記憶しているが、これも地球温暖化の影響によるものかかと想像してしまう。これからはこういう台風被害が増える傾向にあるのだろう。我が家の庭木も高さを制限するように切ってもらった。近隣に迷惑をかけられないし、今後もこのような強力な台風は増えるだろうから。

KT88アンプはこんな状況もあり大きく進んでいない。しかしアンプはほぼ動いている。ほぼと言ったのは回路自体は動いているが、設計でもくろんだ動作点より少しずれているので微調整している。一番予想外だったのが出力管のバイアス調整回路のズレだ。前段のドライバー管を12BH7で設計したが、この管のバイアスが想定していたより深いバイアス値になっていて、その影響で出力管のバイアス調整回路の見直しにせまられた。今はどこを直すかの実験をしていたが、解決策が分かってきたのでもう少しでこの問題も解決するだろう。

 千葉県の被害を考えると、電力効率の悪い真空管アンプを作って楽しんでいてよいのだろうかと思う。これまで何も気にせず電気を使ってきたが、実際電気がないと何もできないようだ。地球温暖化への影響もあり電気は大切にと思う。




 
 <300B>
 2019年9月1日 

300Bとは出力管の名前。直熱3極管で何故か日本では人気がある。特にウエスタン製のWE300Bというのが一番人気のようだ。僕は直熱管は使いにくいからこれまで設計したことがない。一度だけお客様からお借りして300Bシングルアンプを聴いたことがある。特にすばらしい音をしていた印象はない。アンプは出力管だけで音が決まる訳ではないので、回路、電源、配線、特性など様々な要素がからんでくるから一つの部品で音をうんぬんするのは適切ではないと考えている。
 今回300Bの話を持ち出したのは、以前いただいたアンプに使われているトランス類がちょうど300Bアンプに使用できるものなので、いつか作ってみようかと考えていたことから話が始まる。
 先日本屋さんで立ち読みをしていたら、上杉研究所の広告蘭に300Bの宣伝が載っていてフィラメントの点火方式を新しくして音質を上げたということが書いてあった。直流点火は音が悪い。交流点火はノイズが多いが音は良い。新しい交流点火方式は交流点火だけれども、ノイズの特性を分析しそれを打ち消すような点火方式だという。(もし正しい認識でなかったらすみません。)
 実際いくつかの300Bの製作例をみると、昔は交流点火であったけれど、半導体が導入されるようになると、ほとんどがハム音の少ない直流点火になっている。ところがこの直流点火方式というのは音が悪いというのが、世間(一部)の評判のようだ。
 実は僕が300Bの回路を考えるに当たって一番の問題はこの点火方式だったのだ。だから上述した広告にすぐに目がいったのだが、その問題点というのは次のようなことだ。
 フィラメントを直流で点火し、またハムバランサーで中点電位から信号電流を取り出す方法は欠点もある。それはフィラメントの両端で電位差があるので、両端ではグリッドとの電位差が異なるしプレートとの電位差も異なってしまう。だから微視的にみると電子はフィラメントの片側に偏った流れになっている。これではエミッションの効率がよくないのではないか。この状態で本当に300Bのエミッション特性が得られるのかが疑問だった。また交流5V点火と直流5V点火では、エミッション特性的に等価なのかどうか。こんな疑問を直流点火についての疑問を抱いていたので、交流点火の方が音が良いという件にちょっとはまってしまった。
 実際音がどう変わるかは分からないが、直流点火にも何か欠点があるようだと感じながら何となくどういう回路ができるのだろうかと考えていたら、それが新しい点火方式のアイデア創出となった。
 考え方はシンプルだが回路はちょっと複雑だ。ちょっとデジタルを使う。特許にしても良い位自分では面白いと思っている。まだアイデアの段階だからこれが成功するか実現するかはまだ分からない。ただもし自分が300Bのアンプを設計することになったら、この新しい点火方式を試してみるかもしれない。


 
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