手造り真空管アンプの店




Minuetの技術説明

回路について
 Minuetは出力管は6BQ5シングル構成、3段増幅回路、2重NFB回路となっている。これは出力管の6BQ5シングル出力の性能を最大限に発揮させるためのものである。6BQ5の最大出力性能を保持したまま、かつ出力インピーダンスを最小限にするための回路になっている。これは6BQ5に限らず5極管、ビーム管を出力管に使用した時にも応用できる回路だ。
5極管は3極管に比べ最大出力は多く出せるが、出力インピーダンスが高く、これら相反する特性を共に良くするにはテクニックが必要だ。最近の真空管アンプの回路例だと5極管接続のアンプは少なく、多くが3極管接続かUL接続を使用して最大出力、出力インピーダンス性能の妥協点で使用していることが多く見受けられる。
Minuetはこの最大出力と出力インピーダンスの性能を共に最大に発揮させるように設計された回路で、それには高度なNFB技術が要求されるが、高NFB回路にもかかわらず安定したNFB回路となっており、性能、音質とも優れたものになっている。

この回路について簡単に説明する。
最近の真空管アンプではあまり使用されていない2重のNFB回路について説明する。

回路図(図1)、Gain特性(図2)

図1

図2

回路図を見ると、2つの電圧負帰還(NFB)がある。1つは6BQ5のプレートから12AT7(2/2)のカソードへの負帰還(Local Loop NFB)と2つ目は出力トランスの2次側から12AT7(1/2)のカソードへの負帰還(Over All NFB)である。

 また周波数特性も見てもらうと3つの特性が描かれている。
1、負帰還のない時のアンプのGain(Open Loop Gain)
2、Local Loop NFBをかけた時の特性
3、さらにOver All NFBをかけた時の特性。(Closed Loop Gain)
これらの特性はそれぞれ回路で説明をしてあるNFBをかけた時のアンプの周波数特性を示している。

 Minuetは5極管の出力段だが高NFBによって出力インピーダンスを低減している。このアンプでは最近の真空管アンプではあまり見られない27dBものNFBがかかっているが、どうして安定に動作しているのでだろうか。その秘密が2重NFBにある。通常27dBにも及ぶNFBを1つのOver All NFBのみで行うとすると安定性に問題が出る。Gain特性を見てもらうと、1のOpen Loop Gain特性ではゲインは高いが狭帯域になっている。低域、高域とも狭い帯域で、ゲインは落ち始めており、この部分はすでに位相が回っていることを示し、そのまま多量のNFBをかけると発振してしまう。次に2のLocal Loop NFBをかけると1に比べ帯域が延び、また落ち方がゆるやかになっている。これはそれだけ低域、高域の位相回りが少ないことを示している。この2の状態からさらにNFBをかけると安定して3の特性が得られることになる。これが2重NFBによる安定した高NFBの回路だ。勿論位相補償回路の定数設定は重要だが、1重だけのNFBに比べ、安定して、歪の性能も良くなっている。
 またこの2重NFBの特長は両NFBとも出力インピーダンスを下げる方向に働いていることに意味がある。これらの負帰還は6BQ5のプレートと出力トランスの2次側からの電圧帰還なので出力インピーダンスが下がることになる。よって2重NFBによって6BQ5の最大出力は変化せず、出力インピーダンスがかなり低減され、かつ安定した回路になっていることがお分かりと思う。だからD.Fが21もの大きな値になっている。

では何故、Minuetはこれほど低出力インピーダンスが必要なのだろうか。

B&Wノーチラス805インピーダンス特性(図3)、実際スピーカーをつなげた時のアンプの周波数特性(図4)

図3

図4

図3は私が使用しているスピーカー B&Wノーチラス805のインピーダンス特性を示す。公称インピーダンスは8Ωだが、実際下は4.6Ωから約32Ω近くまで変動している。(この値をRfとする)これだけインピーダンスが変動しているとアンプの出力インピーダンスによって、実際にスピーカーを接続した時の周波数特性は変化する。
 アンプの出力インピーダンスをRo、スピーカーのインピーダンスをRf(Rfは周波数で変化)とすると、実際にアンプをスピーカーに接続した時の周波数特性は
Rf/Ro+Rfとなる。
分かり易くするために1kHzの時の出力を基準にしてみると、その変化の比は
G=(Rf/Ro+Rf)/(R1k/Ro+R1k)

対数にすると
20logG・・・・・(1)式

アンプの出力インピーダンスRoは
Ro=8/DF(ダンピングファクター)で表される。

そこでDFの異なるアンプをこのB&Wノーチラス805に接続した時の周波数特性(1式)を計算したのが図4である。今回はDFは固定値(周波数により変動しない)と仮定して計算した。

DF=2のアンプというのは真空管アンプ市場で人気のあるWE300B無帰還アンプのDF値。これは森川忠勇氏の設計記事から参照した。他の記事でも似たような値だ。
DF=20というのはMinuetのアンプのDF値。
図4を見てみるとDF=2のアンプでは周波数特性が大きく変動してしまう。これはアンプの出力インピーダンスが高いために、スピーカーのインピーダンスの影響をもろに受けてしまう。だからWE300B無帰還アンプをB&W805に接続して聴くと、200Hzは落ち込み、逆に2KHzでは持ち上がり、高音よりの音質になることが予想される。

一方Minuetでは幾分の変動はあるものの、周波数の変動は少なくスピーカーの特性を発揮させることができることが予想される。実際MinuetでB&W805をドライブしても、予想以上に低音が出るという印象を受ける。
私が予想するに、ショーなどで真空管アンプのデモをするとき昔のスピーカーを使用することが多いのは、最新のスピーカーは公称よりインピーダンスが下がり、またその変動が大きいものが多いため、昔の設計方法の真空管アンプではこのようにフラットに再生できないからではないかと思っている。

さて、Minuetで何故出力インピーダンスを下げる(DFを上げる)必要があったのかお分かりになっただろうか。そのため高NFBアンプとなっている訳だ。
WE300B無帰還アンプで実際B&W805を鳴らしたことはないが、WE300Bだからと言ってこれではすべて音が良いとは言えないだろう。低NFBアンプが音が良く、高NFBアンプは音が悪いと言うのは、正しい評価ではない。Minuetは低域は伸び、高域はやわらかい音がする。きちんと設計されたアンプにはNFB量は関係しない。

Minuteは他に電源回路にも注意を払った設計がなされている。
再び図3を見てもらいたい。200Hz付近と2KHz付近のインピーダンスは7倍近い開きがある。スピーカーは定電圧駆動でドライブされる物だから、200Hzと2KHzで同じ音圧を得るのに電流では7倍近い開きが生じている。すなわち200Hz付近では2KHz付近より約7倍もの電流が必要になっていることを示している。
Minuetではこの駆動電流の変化も十分考慮に入れた電源、出力段になっている。
音楽再生では特に低音の再生が重要だ。音楽は低音楽器がないと基礎のない家のようになってしまう。

今回はB&W ノーチラス805を例にとって説明をしたが、この説明は他のスピーカーの場合にも当てはまる。
アンプはスピーカーをドライブするための装置だ。だからスピーカーの動作を考慮して、最大限の性能を発揮させるように設計されるべきと思っている。

このようにMinuetは小型のアンプながら最新のテクノロジーとこだわりを持って設計されている。
音楽好きの皆様に音楽を聴く楽しみをこれで味わっていただきたいと思っている。


電源の改良について(2007年4月 変更)
 アンプの電流供給能力を上げることは、上で述べたようにスピーカーのインピーダンスが大きく変動する実用状態では重要でことである。アンプの電流は電源回路から供給される訳で電源インピーダンスが低くすることが大切になってくる。今回この電源の見直しをし、電源インピーダンスを下げる改善を行った。
 Minuetの電源は図1に示されるように、半導体によるリップルフィルターを採用している。この回路は整流後のリップルを抑圧すると共に電源の出力インピーダンスを下げる役割もしている。
電源の出力インピーダンスは次の近似式で示される。

電源インピーダンスをZo、トランジスターのベースに繋がれている抵抗をR、周波数f、リップルフィルターのコンデンサー容量C、トランジスターの電流増幅率hfeとすると

 Zo ≒ (R+1/2πfC)/hfe


この式より、Rは小さく、Cは大きく、hfeは大きくすれば電源インピーダンスは下がることになる。
今回の変更は
1、Rを小さな値の抵抗に変更
2、hfeの大きなトランジスターに変更

である。

この変更の影響はアンプのLRクロストーク(セパレーション)の特性に影響してくる。電源インピーダンスが下がったため、Lチャネル、Rチャネルの共通インピーダンスが下がり、お互いの影響が減った。特に低音域での効果が大きく、50Hz付近でのクロストークは20dB近い改善が見られた。これは音質的には左右の分離が良くなるとともに、大きな低域の音が他チャネルの小さな音をマスク(一種のノイズ)する影響を減らすことを表している。よりクリアーで響きなども違ってくる。
下記にLRクロストーク(セパレーション)の改善結果を示す。(図5)


 
 図5

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