手造り真空管アンプの店
6L6GCpp(UL)アンプ改造記
★目的
6L6GCpp(UL)アンプは2年前に設計し、お客様に使っていただいている。
しかし最近のスピーカーインピーダンスの変動について疑問を持ち、その特性からパワーアンプを改良することにした。
一般にスピーカー特性は公開されていないが、B&W ノーチラス805のインピーダンス特性を知る機会があり、それによると4Ωから25Ω位の変動があることが分かった。公称インピーダンスは8Ωであるがこの変動をカバーするにはこの真空管アンプのDF(ダンピングファクター)値(約6であった)ではドライブしきれてなくアンプを改造することにした。最近のスピーカーはDFの大きい半導体アンプの使用を前提としており、真空管アンプのようにDFが低いアンプを想定して設計されていないと思われる。特に低域である200Hz辺りで4Ω近くまでインピーダンスが下がり、出力インピーダンスが高いアンプでは低域がフラットに出力されない。この低域の改善を目的としてアンプの改善を行った。
このスピーカーインピーダンス特性とアンプのDFの関係については偶然であるが、最新のStereoSound誌に元テクニクスのエンジニアで現評論家の石井伸一郎氏が解説しているので興味のある方はそちらを参照されたい。私もこの記事と同じことを考えていた訳で氏の意見と同じであった。
アンプ改造点は次のとおり
1、出力インピーダンスを出来るだけ下げる。
2、初段にACバランス回路を追加して歪も下げる。
3、電源、配線も変更しS/Nも改善する。
4、出力段のバランス調整が出来るように自己バイアスから固定バイアスに変更。
主な目的は1項目であるが、ついでに2、3、4の項目についても改良を行った。
★改良アンプ仕様
回路構成 :2段差動、出力UL接続pp (全段pp構成)
使用真空管 :12AX7 x2、12BH7 x2、6L6GC x4
★特性測定結果
最大出力 :20W+20W
入力感度 :1V(Gain 22dB)
周波数特性 :−0.1dB(20Hz) −0.8dB(100kHz)
歪率(THD%) :0.023%(1kHz/100Hz,1W) 0.055%(10kHz,1W)
最小歪率 :0.0095%(1kHz/100Hz、0.2W )
残留ノイズ :0.08mV(フィルターなし)、0.02mV(Aフィルター)
Separation :90dB(1kHz) 、80dB(20kHz)
D.F :14以上(10Hz〜10kHz) ON/OFF法
★考察
第一の目的である出力インピーダンスの低減はある程度達成した。以前のDFが6であったことから出力インピーダンスは1/2以下に低減したことになる。10kHzまで14以上を確保している。
歪の低減は初段のゲインを上げ、かつACバランスを儲けたことで2次歪が大幅に削減できた。真空管のバラつきによる左右Chの歪の差も調整により少なくなり、以前の特性に比較し片Chは1/10まで下がった。(バラつきを吸収できるようになったため)
第3項のS/Nの改善は定電圧電源の改良と配線の変更を行いフィルター無しの残留ノイズが0.1mV以下まで下がり聴感上のノイズも良くなった。
★音の印象
これは設計者の印象では意味をなさないので、お客様の印象をお伝えします。
<お客様 T様の声>
「第一印象は音の明瞭度が上がったというか、各楽器の音がくっきりと聞こえ全体的に高解像度の音になったように感じます。
低域はより聴感上のフラットネスが向上した感じです。よりダンピングが効いた音になっていると思います。
今回の改造で今までの音に比べて、ワンランク上の音になったようです。ディナウディオのスピーカーはアンプを選ぶとよく聞きますが、以前にもまして相性が良くなった気がします。」
★特性グラフ
以下、主な特性のグラフを掲載します。
周波数特性、歪率、Separation、ダンピングファクターの特性です。すべての特性において真空管では上位の部類に入る結果が得られた。