
はじめに
MYプロダクツのサイトではすでにバランス型アンプ(プリメイン)を紹介した。今回はWE396バランス型ラインアンプを紹介する。前回のバランス型プリメインアンプは反転型のアンプだったが、今回は非反転型のアンプで設計した。
バランスアンプを非反転型アンプで設計すると帰還抵抗値を小さくすることができ、ラインアンプのような小信号を扱うアンプ回路ではノイズの点で有利になる。ただ入力端子が入力回路、負帰還回路合計で4つの入力端が必要になり工夫がいる。今回は真空管回路で非反転型のバランスアンプの設計方法を紹介する。
1、非反転型バランスアンプとは
通常オーディオアンプは入力、出力ともグランドを基準とした信号入力・出力(シングルエンド入力・出力)を持った形をしている。シングルエンド入力の場合、信号は+入力につながり、負帰還が−入力につながっている。これが一般的な非反転アンプでオーディオアンプでは多く使われる。(図1)この回路をバランスアンプに応用するには次のように考える。
バランスアンプにする場合、この非反転アンプをホット・コールド用に図2のように2つのアンプを使用すればよい。ここでそれぞれのアンプはグランド基準で信号が増幅された図になっているが、バランスアンプを考える場合グランド基準を考えなくても良いから、それぞれのアンプの共通になっているグランド基準を外してみると、RGHとRGCは一緒(RG)になり、もしアンプが共通で実現できれば図3のようにシンプルな回路となる。ここでは入力信号も出力信号もホット・コールド間の電位を考えればよく、グランド基準としなくても良い。
2、真空管アンプで実現する方法
ここで図3で示されるような回路を実現することを考えてみる。
バランスアンプに必要な回路条件は
・入力が差動入力になっていて、さらに負帰還用の入力も必要となる。(4入力)
・出力が差動出力になっていること
となる。
2−1 入力端
入力信号端は差動入力が必要なため、差動増幅器を使用する。そして負帰還用の入力端は差動増幅のカソード端子を使えば実現できる。
2−2 出力端
出力端は差動増幅器の出力かトランスの出力を使用すればよい。今回はライントランスを使用した。
3、実際ののバランス回路
図4が実際の真空管バランスアンプの回路を示す。
バランス入力は差動増幅器のグリッドに接続され、負帰還入力は差動増幅器のカソードに接続される。出力はライントランス出力を利用してホット・コールド出力を出す。負帰還回路はRFH、RFC、RGで構成されRFH=RFCとなっている。
入力用の差動アンプはそれぞれの真空管のカソードに定電流源を設けた。共通の定電流源とすることもできるが、今回は2段目のアンプの電流を安定に流すためにこの方法を取った。1段目と2段目は直結回路とし2段目も差動増幅回路となっている。
このときのゲインGは
G=VOUT/VIN=(2RFH+RG)/RG (ただしRFH=RFC)

図4 |
4、その他の機能
図4の回路のその他の機能を説明しよう。
真空管は1段2段ともWE396を使用した。アンプはXLR(バランス)とRCA(アンバランス)入力とも対応している。入力に接続されているVR1はアンプのマスターボリュームで4連ボリュームである。(東光製)
1段目と2段目は直結になっているので、1段目の差動のバラつきが2段目に影響するため、VR2を使って2段目の電流のバランスを取っている。
出力はライントランス(NP126)を使用した。
また出力にはミューティング回路を設けた。2SC2878を使用してミュートし、電源ON/OFFに作動するものである。
5、アンプの性能
今回設計したWE396バランスアンプの特性を示す。
測定用バランス信号はアンバランス―バランス変換回路 (AnalogDevice社のBalanced
Line Driver SSM2142)を使用した。
測定アンプ出力端はオーディオアナライザー VA-2230Aのバランス入力を使用して測定した。
データの説明
・周波数特性
高域はそれほど伸びてはいないが、これはライントランス(NP126)の特性が出ている。ただこのトランスのお陰で低インピーダンス出力が簡単に得られている。
・歪特性(アンバランス入力/アンバランス出力)
真空管ラインアンプとしては良い方だろう。100Hzの歪にライントランスの影響が少し表れている。
・歪特性(バランス入力/バランス出力)
低出力時の歪が悪いがこれは測定用に使用したアンバランスーバランス変換回路SSM2142のノイズの影響である。本体のノイズは実際はもっと良い。
・Separation特性
低域から高域までほとんど変わらないデータとなっている。外乱によるコモンモードのノイズを受けていないことを示している。音にも良い影響を与えると思われる。
・CMR特性(同相ノイズ除去特性)
オーディオアンプではめずらしいCMR特性を測定してみた。
CMRR(同相ノイズ除去比)=差動ゲイン/同相ゲイン
CMR=20log10CMRR
6、最後に
今回、2作目の真空管バランスアンプを設計した。真空管を使用したバランスアンプは少ない。あっても入力にバランス・アンバランス変換をしてからアンバランス増幅している。これではバランス入力の良さを活かしていない。一方半導体アンプではたくさんの素子、ICを使えるためフルバランス型も比較的簡単に実現できている。MYプロダクツとしては少ない素子数で真空管バランスアンプを実現できないかを考えこのような構成になった。
ただ今回の非反転型バランス回路はまったくのオリジナルではなく、下記の文献、サイトを参考にさせてもらった。
参考文献
・計装アンプの設計ガイド(第3版) :Analog Devices
・情熱の真空管(サイト)
音質について
音質を設計者が評価するのはばかげているが、私のあくまで主観での印象はすこぶる良い。音質はある回路やデバイスだけでは決まらず、いろいろな技術的要素が組み合わさって、最後に音として表現される。今回のアンプもこれまでのノウハウをすべて入れた上で更にバランス化をしたという前提で考えれば音質の向上があったと思われる。特に低域の出方がスムーズでこれまで経験した出方と感じている。小出力でも低音が軽く出てくる感じだ。特性上でもセパレーション特性などにも表れているが電源や高域の飛びつきなどの外乱に強く、これがアンプに好結果をもたらしていると考えられるが、まだ検証できず今後の課題であろう。でも楽しみなアンプ回路だ。
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