オーダーメイド手造り真空管アンプの店

 
<6CA7pp(UL)バランスアンプの設計> 
 2015年2月 

 


 はじめに
 MYプロダクツでは2008年に6CA7pp(UL)パワーアンプを設計した。これは当時真空管アンプでは高DFのDF=43の特性を持ったアンプであった。
 このアンプは入力端子がもともとXLR端子を使用していた(アンバランス入力で)こともあり、今回このパワーアンプのバランスアンプ化への変更を行ったので紹介する。
 バランス型パワーアンプは反転型と非反転型とあるが今回は非反転型で設計した。
非反転型バランスアンプは入力端と出力端さらに負帰還に工夫がいる。今回は真空管で非反転型のバランスパワーアンプへの改造をした。
 


 1、非反転型バランスアンプとは

 通常オーディオアンプは入力、出力ともグランドを基準とした信号入力・出力(シングルエンド入力・出力)を持った形をしている。シングルエンド入力の場合、信号は+入力につながり、負帰還が−入力につながっている。増幅はグランドを基準にして行われ、これが一般的な非反転アンプでオーディオアンプでは多く使われる。(図1)
このときゲインは
 G=1+RF/RG
改良前のアンプはこのようなシングルエンドの形をしたアンプになっていた。

 一方バランスアンプは入出力ともホット、コールド端子を持ち、この2端子間で増幅する機能を持つ。(図2)
ゲインは
 G=1+2RFH/RG(ただしRFH=RFC
今回の改造は図1の回路から図2の回路に改造したものである。


   


 2、真空管アンプで実現する方法

2−1 入力端
 入力は差動入力が必要だが、もともと差動増幅であったためそのまま使用した。入力が差動増幅器の場合、バランス入力信号はグリッドで受け、負帰還はカソードで受ければ実現できる。


2−2 出力端
 出力端は出力トランスの出力をそのまま使用すればよい。特別なトランスは必要ない。
出力トランスは2端子で両端子からは極性の異なる信号が出ているからこれを利用する。ただこのままだと負帰還をかけた時に不安定になるため両端子から100Ω程度の抵抗でグランドに接地してある。これにより出力信号はグランドを基準にしてホット・コールドの対称な信号が得られ安定になる。

 3、実際のバランス回路

 図3が実際の真空管バランスパワーアンプの回路を示す。
バランス入力は差動増幅器のグリッドに接続され、負帰還入力は差動増幅器のカソードに接続される。出力は出力トランスを利用してホット・コールド出力を出す。負帰還回路はRFH、RFC、RG
で構成されRFH=RFCとなっている。

1段目と2段目は直結回路とし2段とも差動増幅回路となっている。
出力端は出力トランス端子そのものがバランス出力となっているので特別なトランスは使用しない。ただし両端子ともコモン電圧としてグランドレベルに接続している。こうすることにより、安定にアンプが動作する。



図3



 4、その他の変更

MOS-FET定電圧電源
MOS-FETを使用した定電圧電源に変更した。(図3)
これは低域の電源インピーダンスの改善になる。



5、アンプの性能

 今回設計した6CA7pp(UL)バランスパワーアンプの特性を示す。

 測定用バランス信号はアンバランス―バランス変換回路 (AnalogDevice社のBalanced Line Driver SSM2142を使用した。
 

 測定アンプ出力端はオーディオアナライザー VA-2230Aのバランス入力を使用して測定した。

データの説明(すべてバランス入力/バランス出力で測定)
・周波数特性(図4)
 ゲインは14dBで設計してある。ゲインは前と変えていない。(1W/8Ω)

・歪特性(図5)8Ω負荷時
 歪特性はノイズを除いたTHDのみの値である。非反転型バランスアンプの歪性能をより正確に知るためTHDのみにした。特性的にはまったく問題ない。
 信号はグリッド入力、カソード負帰還の回路であるがホット・コールド間でのキャンセルが働くためかグリッド・カソード間の非直線は表れてなく低歪になっている。バランス回路におけるカソード負帰還が問題ないことを示している。

・Separation特性(図6)
 低域で90dB以上の特性を確保している。

・DF特性(図7)
 バランス増幅でも低域ではDF=43が得られている。回路変更前のデータに比べ5k〜10kHzでのDF値が下がっている。その原因はアンプの位相補正値が前と異なっているため、NF量の違いが表れたため。

  6、最後に

 今回、非反転型の真空管バランスパワーアンプへの変更を行った。非反転型バランスパワーアンプとしては2作目になる。このアンプはもともと低出力インピーダンスアンプ(DF=43)であったが、バランスアンプへの変更でもその特長は維持することができた。
またその他特性においても十分な特性値を得ることができ、アンバランスアンプと何ら性能の劣化がないことが確認できた。

元々のアンプと特性はこちら

音質について 
 音質の評価を設計者自身がするのは客観的な評価法とは言えないのでお客様の声を紹介すると、
・音がすっきりして細かいニュアンスが聞こえ、レンジを下に拡大された印象である。
とのことで、音質面での改善を感じていただけました。




 
図4
 
図5
 

図6
 
図7


 

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