手造り真空管アンプの店




<アンプのノイズ測定方法>
                                 2009年1月21日

反転型ラインアンプのノイズ測定方法について、その測定法と計算法を考察したので紹介する。

1)はじめに
 通常アンプのノイズ測定法は図1に示されるように入力をショートし、出力のノイズレベルをレベル測定器で測定する。この時オーディオでは測定器の入力に聴感補正のためIEC−651で定められたA特性のフィルターを挿入して測定する。ここで測定されたノイズレベルはアンプの抵抗(R1やR2)から発生する熱雑音とアンプの主に真空管から発生されるノイズが合わさったものとなるが、今回これらのノイズを分離して測定できないかを考察した。アンプを設計するときに初段に使用される真空管のノイズ特性を知る意味でもこれらの作業が必要と考えたが、しかし抵抗に発生する熱雑音の測定も簡単ではなく、また聴感補正用のAフィルターの特性も分からないなかで、測定法を工夫すればこれらのノイズを分離して測定できることが分かった。

2)
ノイズの性質 
 ノイズはいくつかの種類があるが、アンプの場合通常測定されるノイズは周波数に依存しないフラットな特性を持つ白色雑音(ホワイトノイズ)と呼ばれる。抵抗で発生する熱雑音は白色雑音で、またここで測定する真空管のノイズも白色雑音成分を考えることとする。
 白色雑音の性質として、複数のノイズ源が合わさったとき次のような式で合計される。
 =E+E+・・・・+E      @

 また抵抗Rに発生するノイズは熱雑音(ジョンソン雑音)と呼ばれ次の式で表わされる。
  E=4kTRΔf             A
 ここでkはボルツマン定数(1.38x10-23J/K)、Tは絶対温度(K)、Rは抵抗(Ω)、Δfは測定周波数帯域(Hz)である。

3)ノイズの解析モデル
 アンプのノイズ測定法は図1のように測定される。ここで測定されるノイズは抵抗で発生する熱雑音とアンプの真空管で発生する雑音に大別されるが、ここで測定されるノイズの解析モデルは図2のように表わされる。

En:真空管で発生する入力換算ノイズ
 R1=√(4KTRΔf)          B
 R2=√(4KTRΔf)          C
 Δf:IEC−651Aフィルターで決まる帯域幅。

 注)ここで使うΔfの帯域とはシステムで使うー3dB幅の帯域とは異なる。ノイズ測定においては、急峻なカットオフ特性を持つ理想フィルターの帯域であるから、ここではその帯域幅は分からない。もし求めるとするとAフィルター特性Av(f)から
 Δf= ∫|Av(f)|df/Avo     D
から求めなくてはならない。

図2から計算されるノイズの出力値は次のように表わされる。 


Eno2=(ER1*R2/R1)2+ER22+En2(1+R2/R1)2
    E

 ここで求めたい数値はEである。En0は測定値から求められるからもしER1やER2が分かればEが求められる。ところが抵抗に発生するノイズを測定器で直接測定しても、今度は測定器のノイズとの分離問題や、またレベルが小さいので外乱ノイズもあり正確に測ることができない。またB式やC式からノイズレベルが計算できそうだが、注)にも述べたようにΔf値が正確に分からずこの計算からも正確な数値を求めることは難しい。
 そこで測定を工夫して次のようにしてEを求める。

4)ノイズ測定、計算法
 アンプのノイズは2種類測定することにする。
 1つ目は設計したアンプ定数そのものでもノイズ測定である。
 R1=10kΩ、R2=46.4kΩ(50kボリュームの測定値)
 この時の出力ノイズレベル
 Eno=-101.3dBV=8.61x10-6 V

 よって 
 Eno2=7.41x10-11 V            F
 

 E式に代入すると
 7.41x10-11=(E10*46.4/10)2+E462+En2(1+46.4/10)2     G

 次にR1=1kΩ、R2=10kΩにして測定すると、
 この時の出力ノイズレベルは
 Eno=-99.5dBV=1.06x10-5 V

 よって
 Eno2=1.12x10-10 V            H
 

 E式に代入すると
 1.12x10-10=(E1*10/1)2+E102+En2(1+10/1)2         I

 ここでE1、E10、E46はそれぞれ1kΩ、10kΩ、46.4kΩの抵抗の熱雑音である。するとBあるいはC式からこれらのノイズは抵抗値の√に比例するから
 E462=46.4E12              J
 E102=10E12               K
 
 となり、J式、K式をそれぞれG式、I式に代入すると、

7.41x10-11=10E12(46.4/10)2+46.4E12+En2(1+46.4/10)2    L

1.12x10-10=E12(10/1)2+10E12+En2(1+10/1)2         M


 となり、未知数がE1とEnの2つになるので、これらの2式からEnを求めることができる。
 L式、M式からE1を消去すると
 En2=7.50x10-13             N
 
 よって
 En=8.66x10-7 V=-121.3dBVとなる。    O
 

5)結果
 図1で表わされるノイズの測定系において、抵抗による未知の熱雑音値Eや未知の帯域幅Δfであったとしても、測定法を工夫することにより計算でアンプの入力換算ノイズレベルEを求めることができることが分かった。この方法によれば抵抗による熱雑音と正味のアンプの入力換算ノイズを分離して測定できるので、アンプのノイズを理解する上で役立つ方法と考える。

今回反転アンプでノイズを計算したが、非反転アンプアンプでも雑音解析モデルは同じなので計算方法は同じになる。よって今回の計算方法は全てのアンプで応用可能である。


 また今回測定した反転型ラインアンプでつかった6DJ8の入力換算ノイズはー120dBV近くまであることが分かった。ローノイズのアンプを設計する上でたいへん参考になる結果となった。



参考文献(サイト)  EDN Japan 雑音の基礎