オーダーメイド手造り真空管アンプの店

 
<電源インピーダンスの測定> 
 2011年2月 


 普通真空管アンプの電源回路は整流回路にチョークコイルのπ型フィルターや電圧増幅段のデカップリングにはCRフィルターが用いられている。一方MYプロダクツの真空管アンプは電源回路には半導体を使用したリップルフィルターや定電圧電源回路が使われている。しかしこれまでこれらの電源回路の性能を測れてなかったので電源回路の特長を把握できていなかった。今回この電源回路のインピーダンス測定を行うことが出来、性能をさらに上げると共にリップルフィルターの特長を把握できたので報告する。

1、電源インピーダンス測定方法

 真空管アンプの電源インピーダンスを測定することは難しい。その大きな理由は高い(500V位)直流電圧に重畳された微小交流電圧を測らなければならないからだ。数百ボルトの電圧を直接測定器につなげることは出来ない。
 今回、測定治具は雑誌「無線と実験」に」載っていた回路を参考にして少し改良を加え測定した。この測定器は電源に並列に挿入され厳密な意味では電源インピーダンスに影響するが、その影響はごく僅かでありほとんど問題ない。また電源の高電圧問題は抵抗分割により直流電圧を下げて交流電圧計で測定した。被測定電源電圧が450V近くあり、直接交流電圧計を被測定電源に接続できない。そこで抵抗分割で直流電圧を1/10以下に落とし交流電圧計の入力耐圧範囲内に入るようにした。抵抗分割により周波数特性の劣化が心配されるが、微分回路(20pF)を挿入することにより100KHzで約-0.5dBの落ち込みであり、100KHzまでの帯域なら問題なかった。

参考文献:無線と実験 2002年6月号
  窪田登司 電源インピーダンス測定器


図1






















図1がインピーダンス測定回路図。
Sig:信号発生器に接続。信号周波数を変化させる
Ve:モニター出力
Vcc:測定したい電源に接続(被測定電源)
Vc:被測定電源を抵抗分割した出力。交流電圧計に接続。交流電圧計の入力インピーダンスが100KΩなので、この分割比は1/12(実測)になる。

測定方法
 発振器よりSigに正弦波を入力しそのときのモニター出力をVeとする。
 電源インピーダンスをRimpとすれば、電源ラインには Rimp*Ve/R5の電圧が発生し、Vcには抵抗分割された電圧が出力される。分割比を1/12とすれば

 Vc=Rimp*Ve/(12*R5)
 よって
 Rimp=12*R5*Vc/Ve      @
 Ve=3V、R5=1KΩとすれば@式は
 Rimp=4000*Vc       A
 となる。
 よって発信器よりVe=3Vとなるような信号をSigに入力し、周波数を変えながらVcを測定すればRimpが得られることとなる。


2、定電圧電源のインピーダンスの測定
 これまで使用してきた定電圧電源のインピーダンスを測定した。


図2

その定電圧回路を図2に示す。定電圧回路としてシンプルな回路で、これまで特性が測れてなかったが、CRのデカップリング回路よりは良い特性をしていると思って使用してきた。
 測定結果を図3に示す。図3には2つの定電圧電源回路が示されている。一つは370V他は150Vの定電圧回路である。回路は増幅段Trと定数が異なるだけで構成は同じなので図2は370V電源回路のみ示した。
 実際測定してみるとこの回路のインピーダンス特性は良くない。低域でインピーダンスが上がり、これでは負帰還の定電圧回路の性能がまったく出ていないことが分かった。直流分は安定しているが、交流分に関しては裸ゲインが足りないのが分かる。ここで使われている半導体は秋葉原で入手できる高耐圧Trを使用しているが、これではhfeが小さく電源回路の裸ゲインが小さいのがその理由だ。今回測定してみて初めて回路の実力が分かった。

定電圧電源回路の改善

 
図4

図4に改良した定電圧電源回路と図3にそのインピーダンス特性を示した。
  回路はシリーズレギュレーターのトランジスターを変更し、さらにダーリントン接続しHfeを上げた。また誤差増幅器の負荷も定電流負荷に変更した。
 370V、150V電源共に同じような変更を加えたので両特性の改善を示している。 

低域はかなり改善されている。定電圧電源として非常に優れた特性とは言えないかもしれないが以前に比べかなり良くなった。高域についてはむしろ悪くなっているが、これは位相補正変更の影響が出ていると考えられる。



 3、整流回路π型フィルターのインピーダンス測定

 
図5

図5にチョークコイルを使用したπ型フィルターの整流回路を示す。これは通常真空管アンプでは使われている整流回路である。この回路のインピーダンスを測定した。
 測定は2で示したような定電圧電源の測定のようには上手くいかない。それは電源に100Hzのリップル電圧が残っているので、図1のVcが上手く測れないのである。そこで誤差を承知でVcをモニターの目視で測定した。当然正確な値を読むことは出来ないがそれでも傾向を知ることはできる。実際測定結果をみると低域ではそれなりの値が出ていることが分かる。

図6がメイン電源のインピーダンス測定結果である。前述したように目視による値であるので誤差はあるが、特徴ある結果が出た。
 低域特性を見て欲しい。(20Hz〜100Hz)ここは-6dB/OCTで落ちていることが分かる。これは何を意味するかと言えば、この部分はπ型フィルターのコンデンサーの容量特性と同じである。実際ここではフィルター出力のコンデンサーは600μFのコンデンサーを使用したが、インピーダンス特性はずばり600μFのインピーダンスと一致している。すなわちチョークコイルを使用したπ型フィルターの出力インピーダンスは出力側のコンデンサーのインピーダンスそのものであることが今回の測定で確かめられた。
 今回のテストに使用したアンプの場合、試聴の結果このコンデンサーの容量が大きい方が低域の伸びがあると感じて、600μFに増やしていたのだが、その効果というが今回の測定で確かめられたことにもなる。雑誌やキットなどの真空管アンプではこのコンデンサーは100μF程度が多く、さらに低域のインピーダンスが高くなっていることが分かる。比較のため図6にそれも示した。
 結果によれば、π型フィルターの電源のインピーダンスはほぼこの出力側のコンデンサーの容量で決まっていることが分かる。電源トランスは直流分のみで交流分はアンプに貢献していない。


 4、リップルフィルターのインピーダンス測定

 
図7





























次にリップルフィルター型のメイン電源の回路を図7ーBに示す。MYプロダクツの製品は現在ほとんどこの回路方式が採用されている。チョークコイルを使用しないで、半導体とCRでフィルターを構成し、100Hzの整流リップルを除去している。この回路はリップルの除去率もチョークコイルのπ型フィルターより良く、インピーダンス測定でもリップルが見えないので、目視ではなく定電圧電源の測定と同じように交流電圧計による測定が行えた。

 インピーダンス測定結果を図6に示す。7KHz以下で0.6Ωを下回ってほぼ一定のインピーダンス特性を示している。リップルフィルターの大きな効果が示されている。
 測定によればリップルフィルターの特性を見ると、π型フィルターに比べリップル除去率が優れ、さらにインピーダンス特性も優れていることが分かる。理想の電源フィルターとなっている。ちなみに20Hzで0.6Ωのインピーダンスと等価なコンデンサーは13000μF以上に相当する。また真空管アンプでは出力トランスを使用している場合、実際のスピーカー負荷インピーダンスは数百〜数KΩとなり半導体アンプに比べ負荷インピーダンスは高く、負荷インピーダンスに対する電源インピーダンスの低さがより効果的になる。


 5、リップルフィルターの保護回路
 番外だが、今回このリップルフィルターの保護にソフトスタート回路がついているので紹介する。リップルフィルターは上記のように整流回路として優秀な特性を示している。しかし真空管アンプの場合500V近い高圧を扱うため、電源投入時にこのフィルター回路のトランジスターを破壊してしまうことがある。耐圧的には耐えられるトランジスターはあるが、設計を間違うと、電源投入時瞬間的にコレクター損失をオーバーしてしまい、電源のシリーズトランジシスターを破壊してしまう。今回この電源投入時でのトラブルを避けるためソフトスタート回路(突入防止回路)を付けた。

 図7−Aがその回路である。SCR(サイリスタ)を使用した。SCRはゲートにある電圧がかからないとONしないダイオードである。電源投入時にリップルフィルターには最初抵抗を介して電圧を与え、その後遅らせてダイオードをONさせて通常動作に入る。この動作により突入電流を下げるようにしている。


 6、結果、考察
 真空管アンプの電源回路のインピーダンスを測定した。これまで電源回路の実力を把握できてなかったが、今回の測定で特性が分かり性能を上げることができた。

 定電圧電源回路では高耐圧トランジスターのHfeは高くなく、回路でそれなりの工夫をしないと特性は得られない。
 整流回路に使われているチョークコイルを使用したπ型フィルターと半導体を使用したリップルフィルターでは後者の方が電源インピーダンスを圧倒的に下げることができる。
 ・π型フィルターのインピーダンスは出力側のコンデンサーの容量で決まり、電源トランスは直流分しか寄与しない。

 リップル除去率もリップルフィルターの方が優れている。
 SCRを使った突入防止回路を付加すれば高圧電源回路でもリップルフィルターは問題なく使用可能である。
 ・今回の電源インピーダンスの改善ではアンプのダンピングファクター改善への影響は数値的には見受けられなかった。(アンプがプッシュプル回路でもあり、もともとD.F=43という高数値であり改善効果が見つけにくいかもしれない。)

などが分かった。
今回タムラのチョークコイルA-4004を使用して測定したが、他メーカーのチョークコイルでも同じような結果になると思われる。

音質については私自身もともとリップルフィルター電源の低音の良さを感じていたが、今回の測定によりその理由を確かめられた。またアンプ回路を変えずに電源を変更することにより音質改善も確かめられた。
今回試聴した実験アンプは
6550ppでUL接続、カソードNFを施し
ダンピングファクター(D.F) ON/OFF法で43、8-4法で42のアンプを使用。
このD.F=43の低出力インピーダンスアンプと低インピーダンス電源の組み合わせは素晴らしい。真空管アンプの新しい世界にはいる。
・定電圧電源の変更により音の定位が良くなった。各楽器の位置が良く分かるようになった。
・リップルフィルターへの変更により低域の余韻が増え、また奥行き感も改善された。

 今回の電源インピーダンスの測定はアンプを設計する上で大きな収穫が得られた。これまで一般にアンプの電源の重要性については言及されているものの、データで示された例は少ない。今回の測定で真空管アンプに於けるリップルフィルターの性能の良さをデータと音と両方で確認できたことは大きい。

MYプロダクツの製品は基本技術、データを重視して今後も造っていきます。

 
図3
 
図6


 

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