手造り真空管アンプの店




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店主コラム 2009年1月分〜3月分





2009年3月21日

<ノイズ(雑音)の考察>
 以前ラインアンプのノイズについてその測定法と計算方法を述べた。この結果についてその値が適正なものかどうかは検証していなかったのだが、最近昔の真空管の雑誌を読んでいたら、真空管のノイズについての解説があり、それによるノイズの計算方法と私が実験で得られた値がほぼ一致し、結果が正しいことが分かったので説明してみたい。
 数年前友人からいただいた昔の真空管の雑誌<真空管自由自在>を読んでいたら、ノイズの関する記載があった。それによると次のことが書かれている。

一般に真空管に発生する雑音は(ショット雑音、分配雑音など)は、等価雑音抵抗Req(真空管自体は雑音を発生しないものとし、入力側グリッドに直列に挿入した真空管雑音と等しい雑音を発生する抵抗)で表わす。その時
 3極管の場合
 eq≒2.5/g
 :相互コンダクタンス

となるようです。すなわち実際動作上のgが分かればその時の等価雑音抵抗が分かるというものです。

 そこでこの計算法によって実際の動作上での6DJ8のノイズを計算してみた。
 前回設計したラインアンプの増幅は1段でここでは約60倍のゲインを持っている。ここでの6DJ8はトランジスターによってカスコード接続されていて、トランジスターの出力抵抗は高いのでゲインG、負荷抵抗RLとすると

=G/RLで表わされるから、

  ≒60/15KΩ=4m/Ωとなり
 よってこの時の6DJ8の等価雑音抵抗 Reqは
 eq≒2.5/(4m/Ω)=625Ωとなる。

次にこのラインアンプで測定し、また計算で求めたIEC−651A特性の帯域で制限された時の1KΩ抵抗のノイズは
 e1K≒1*10-6V=-120dBVとなる。

 次に6DJ8の等価雑音抵抗(625Ω)がIEC−651A特性の帯域制限された後のノイズレベルは、抵抗値の√に比例するから

 6DJ81*10-6*√(625/1000)=0.79*10-6V=-122dBVとなる。

前回ラインアンプの測定で求めた6DJ8の入力換算ノイズレベルはIEC−651A特性フィルター後で-121.3dBVであったので、今回真空管単体でもとめたノイズレベルとほぼ一致した。
 よって以前求めた実際のラインアンプにおける真空管の入力換算ノイズレベルの計算法は適正なものであることが分かった。



参考文献:真空管自由自在(誠文堂新光社発行)







2009年3月11日

<反転型ゲイン可変ラインアンプの内部>

今年の1月に完成したゲイン可変ラインアンプ1号機はお客さまにたいへん喜ばれている。このアンプの納入直前に別のお客様にたまたまお聴かせしたら、気に入っていただきすぐに2号機の製作と相成った。回路は前にこのコラムで解説した内容と同じなので、今回は製作途中の様子を皆様に公開しようと考えた。まだ配線途中だが実際の内部がどのように作られているかをお見せしようと思う。
 使用する真空管6DJ8は双三極管という2つの真空管がひとつのガラス管に入っているタイプのもので、アンプ回路は2段増幅だから片チャネルひとつの真空管から構成される。左右のチャネルで合計2個に真空管を使うことになる。パワーアンプだと片チャネル4個も使う回路だし、出力トランスなども必要だから大きいシャーシーが必要になるが、僅か片チャネル1個しか使わないプリ(ライン)アンプでは、内部は簡単でスペースが大きく空いていると想像したくなるが、実際には写真でご覧のように沢山の回路が詰まっている。シャーシーの大きさは横330mm縦160mmである。

 真空管アンプというと空中配線できれいに整理された配線を想像するが、私のアンプ内部は大小5枚の基板に回路がマウント(配線)されている。写真左側の黄色い基板の下に真空管が取り付けられている。だから2枚の黄色い基板が基本的な真空管の増幅回路を構成している。それでは他の少し大きめの基板は何かというと、1枚はリレー回路、他の2枚は電源回路である。リレー回路の役割はプリアンプ出力のミューティング回路で、電源ON・OFF時にノイズを出さないようにするための回路である。これがあるとパワーアンプを入れたままでこのプリをON・OFFできる。(ノイズが出ない。)電源ON時では約30秒経つと出力がONになる。これは真空管は温まって動作が安定するまで30秒程度の時間が必要からくるものである。電源OFF時にはコンマ何秒かですぐに出力はOFFするようになっている。定電圧電源は真空管の動作点を安定にさせる役割と、電源からのノイズ進入を防ぐために入れてある。私の造るプリ、パワーアンプはどれも電圧増幅段にはこの定電圧電源を入れてある。これは音にかなり影響し、MYプロダクツのアンプの音の特長となっている。一番右端はまだ配線が済んでいないがトランスと整流回路がつく予定のところである。

 面積比で言えば、実際の増幅回路は全体の2割くらいのスペースで後は電源回路と保護回路が8割のスペースを取っている。アンプ回路を製作していると言うより、電源回路を製作しているような感じだ。でもこれが私の流儀だ。何でこんな内部構成になってしまうかと言えば、実はこのアンプは12個のトランジスター11個のダイオードを使用している。これらの半導体の配線にはどうしても基板が必要になってしまうからだ。つまり私のアンプは増幅回路は真空管、その他電源回路などは半導体を使用したハイブリッド構成になっている。
 見た目はたった2つの真空管からなるラインアンプだが、内部は結構詰まっている。





左からリレー回路基板、定電圧電源基板、アンプ基板(左奥はボリューム)






2009年3月1日

<カラキョウを読む>
 カラキョウとはドストエフスキーの<カラマーゾフの兄弟>のことである。昨年夏に読み始め、読み終わったのが昨年暮れになってしまった。私の読書法は寝る前の数分だからなかなか進まない。数ページ読むと直ぐに眠ってしまう。また昼間に自宅で読書をすることはほとんどない。時折、電車や<アステカ>(コーヒーショップ)で読むと読書量が進む。昔は通勤電車で読めたが今はこの時間がないからなかなか進捗しない。それで昨年やっと全5巻のカラキョウを読み終えた。
 カラキョウを読むきっかけはこの本を最近の学生が読んでいるという記事を読んだことからだ。このカラキョウという言葉も面白いと思った。カラキョウは名作だからこれまでも翻訳された文庫本があるが、近年光文社から出た亀山郁夫訳のカラキョウが売れていると聞いた。実は光文社の会長さんは私のお客さまで、わたしの真空管アンプを使っていただいている。時には会社の帰りに運転手付きのお車で我が家に来ていただいたこともある。こんな関係から次回お会いするときの話の種にでも読んでみるか、という軽い気持ちで読み始めたのが昨年の夏であった。

読み終わった最初の感想はようやく読み終えたというのが感想。全5巻のうち最初の2巻がなかなか進まなかった。2巻の後半くらいから次第に調子が出てきて最後の3巻は一気に読んだ感じだ。
 読書感想を書くのは難しい。ストーリーが面白いかというとそうではない。面白い展開や結末になっているという感じではない。どうもこのカラキョウというのは後編があるということが解説してあった。まだ後編に山があるというのだ。ドストエフスキーはこの後半部分を書く前に死んでしまった。だからかもしれないがストーリーそのものはこれで終わり?という感じがしなくもない。では何で名作と言われるかはドストエフスキーの描写が非常に細かく、人間の内面、人のつながり、宗教、裁判の内容などがこと細かく書かれている。何でこんなに細かく沢山のことが書けるのと思う位描写している。全5巻のうち本編は4巻とちょっとまでなのだが、(残りは解説文)最初の3巻に書かれている時間はたったの3日間の出来事を書いているに過ぎない。1日の出来事を文庫本1巻(冊)費やしている。だから最初はなかなか話の展開が掴めず読者(私)も疲れてしまう。しかしこの中身の濃さがこの本の特長だ。この濃さが読書好きな人にはたまらない描写として受け入れられているのだろう。私にはその中身の濃さをここではうまく説明できない。
 例えば台詞がすごく長い。ひとつの台詞が3分から5分くらいの長さのものが沢山ある。その台詞の中にドストエフスキーの考えが代弁されている。その長さに慣れるのに最初は手間取るが、そこにこの本の本質が隠されている。本屋さんではカラキョウの漫画本が置いてあったが、漫画ではストーリーだけは表現できるかもしれないが、内容描写までは文章にはかなわない。だから漫画ではその良さは伝わらない本だ。

 今、再度読み返している。普通読書をするとどうしても話の展開を知りたくて先を読みたくなるものだが、この本はストーリーを楽しむと言うより、描写力の凄さを楽しむ本のようだからゆっくりまたのんびり復習してみたいと思っている。ちょっと私には重い本であるが、いつか光文社のお客さまにお会いしたときはちょっとだけ触れてみたいと思う。


以前紹介した真空管アンプでは世界最高のD.Fを誇るアンプの特性図を載せました。 
 商品とサービス>これまでの製作例>6CA7pp(UL)>特製図をご覧下さい。





2009年2月20日

<新しい住民>
 私は町内会の役員をしている。任期はこの4月で終わる。町内会の仕事というのは町内会の行事たとえば夏祭りや餅つき大会などの準備をすることなどがあるが、普段でもやらなければならない仕事がある。県、市、区、町内会からの配布、回覧物の届けや防犯パトロールの実施や電柱の電灯が切れた時の交換依頼とか僅かだが月々の仕事がある。また地区住民の移動の際も町内会会員の入会・退会届の説明もある。特に新住民に対してはゴミ出しについて地区ルールを守っていただくように説明する仕事もある。

 今月、近くに新しい方が引っ越してこられた。班長さんからこの新しい住民は外国人の方で日本語が話せないから私に町内会入会の手続きやゴミ出しルールの説明を手伝ってくれないかとの依頼であった。とは言っても私もそれほど英語は得意ではない。サラリーマン時代は海外出張や日本でも外国人のお客様と英語で話す機会はあったが、それは技術のことに関する話なので比較的通じ易い内容であったから何とが通じた程度の実力であるのだが、今回は横浜のゴミ出しルールを説明することなどどうしたらよいか分からない。皆さんはご存知ないと思うが横浜市のゴミ出しルール(G30)はかなり厳格なものだ。燃えるゴミ、プラスチックゴミ、金属、再生ゴミなど細かい。また粗大ゴミは別な回収となる。さらに我々の地区ではゴミ出しの時、カラスや猫の食い散らかしを避けるためにゴミの上にネットを掛けることになっている。このネットがけがまた当番制で、住民は順番でネットの準備・回収・掃除をしなければならない。新住民にはこれらを説明しまた町内会の説明をし、入会の勧誘もして町内会会費の徴収も説明しなければならない。
 このような話題の英語単語は使ったことがないから、女房に通訳をお願いしてそのお宅を訪ねたが、生憎留守でいない。そうするうちに日曜日が過ぎ、女房は仕事で今度は女房の都合が悪くなり、私が一人でしなければならないはめになってしまった。

 今回の説明にあたっては横浜市のサイトを調べた。そうしたら外国人向けのゴミ出しルール(G30)や町内会の説明の英語版があったので、それを予めコピーして用意した。私が説明するより、読んでもらったほうが正確に伝わるからだ。それに町内会は英語で何と言うかとか、ゴミ出しは英語で何というのかが分かり、かなり英単語の手助けになったからだ。そんな状況のなか意を決して一人で新しい住民を訪れた。最初呼び鈴を鳴らしたときはちょっと不審に思われたが、近くの者で町内会について話をしたいと話を始めたら次第に打ち解けていただけた。結果は協力的な方だったので、町内会にも入会していただけたし、またゴミ出しについても理解されゴミ当番も引き受けていただけた。これには横浜市の英語コピーがかなり役立った。この外国人の方も不動産屋さんから簡単な説明は受けていたらしいのだが、実際どのような分別方法かまでは分かっていなかったので逆に私からのコピーが役に立つと喜ばれた。その後、2度目の訪問では部屋まで案内され、約1時間近く話しをすることになってしまった。料理やキルトなどを教えられることなどを聞き、今後回りの住民とのおつきあいのきっかけとなりそうな話も聞けた。

 英語は少しは分かるといっても自分の専門分野での話しで、話題が違うとまったく分からなくなってしまう。専門分野では技術用語とデータの数値を並べれば勘が働きそれで何とか話は通じるものだが、むしろ一般の話題の方が話しが通じないものである。今回は聞き取りやすい発音で話していただけたので、何とか会話は続けられた。

 さて今回覚えた英単語を少し列挙します。皆さん知っていましたか。

 町内会:Neighborhood association
 ゴミ収集:Garbage collection
 燃えるゴミ:Burnable garbage
などです。(他にもいろいろありますが一部です。)
 こんなの知りませんよね。







2009年2月11日

<不況の時>
 この時期個人事業者にとっては確定申告の時期であるのでちょっと面倒な時である。別に不正をするからではなく、帳簿とお金が合わないと気持ちが悪いからである。私の場合青色申告だから青色決算報告書と確定申告書の作成が必要で、昨年1年間の商売の結果をまとめなくてはならない。それほど取引は多くなく、日ごろ伝票に書き込んであるので、この時期に迷うことなくまとめることができた。それにしても売り上げは少なく、お話するのも恥ずかしいくらいだが、それでも好きだから続けていられる。私には今の不況はあまり関係なく、もともと少ないのであまり変わらない。むしろ最近の方が以前よりは少し増えている。

 話は変わるが先月昔のサラリーマン時代の仲間と新年会をやった。ちょうどその前日に会社からリストラの発表があったばかりだったから、必然的にリストラの話になった。私がいた部署は全員福島県郡山市に引越しさせられることになったようだ。だから家族をどうするかとかこれから決めなくてはならないらしい。共稼ぎで働いている女性などはおそらく会社を辞めなくてはならないだろう。夫や子供も残して一人で地方に行くことはできない。またこちらに住まいを構えた人も簡単には引越しはできない。このような事業所の引越しは形を変えた人減らしの意味もあるようだ。
 私は5年前に早期に会社を辞めたが、今はその時とは状況が違う。当時はまだ再就職の機会があったが、今はその機会がほとんどない。だから簡単に辞める訳にはいかないようだ。他の製造業でもリストラを実施しているので、再就職口を捜すのも大変と思う。5年前は介護ビジネスが大きくなると騒がれていたのだが、現実は厳しい業務内容と安い給料で就職する人も多くない。今これから伸びそうな業種を捜すのは難しく、むしろ安定を求めて公務員に応募する人が大量にいたというニュースを先日していた。
 だからといって独立するのもそれなりの覚悟が必要だ。サラリーマンは与えられた仕事をこなすだけで給料が貰えるが、個人事業は仕事を自分でみつけてこなければ給料は出ない。当たれば大きくなるが、直ぐには当たらない。だからそれまで続ける覚悟が必要だ。

 私はすでに早期退社をし、独立して事業しているのでもうサラリーマンの感覚が少しずつ薄れてきている。だから今は他人事のように話ができるが、もしまだサラリーマンだったらきっと地方に行くかどうか悩んでいるだろう。仕事というのはもちろん生計を立てるためには絶対必要なことなのだが、仕事はお金のためだけに働いているのではないことも今は感じている。どんな仕事に就こうが、人様に何を言われようが、悪いことをしていない限り自分の納得することをした方が良いことだけは言える。これはサラリーマンを辞めてから特に感ずることである。

 私の同期も今年はおそらくどうしようか迷っていることと思う。どのような道に進むにせよ社会との接触だけは保っていれば、落ち込むこともなく何とかやっていけると思う。人は社会と交わっていれば道はまた開けてくると思っている。私が会社を辞めた時、すでに独立していた先輩から言われた言葉がある。「世間は厳しくもあり、やさしくもある。」私はこの言葉が印象に残っている。世間は厳しいと言う方は多いと思うが、真面目に社会に接していれば不思議に助けてもらうこともある。このことを信じて新しい社会に出てもらいたいものである。





2009年2月1日

<ライン(プリ)アンプの設計V>

前回設計中のラインアンプについて特にノイズを中心に話をしたが、今回はこのアンプの設計意図や特長について述べてみたい。アンプの写真を見ると何のことはないアンプに見えるが、内容はかなり凝っていていろいろな試みがあり、技術的には新しいアンプ構成になっている。いくつかの特長について述べてみたい。


1、回路構成
 回路は以前私のサイトで回路解析をした反転型のゲイン可変アンプになっている。初段はカソード接地、次段はカソードフォロアーというシンプルなアンプ構成。ただし初段のバイアスは出力からのNF回路を通してバイアスされる。理由はERの回路解析を見ていただきたい。このアンプに付きものの残留出力も打ち消す回路が入っている。簡単な回路構成でどの程度の性能、音質が得られるかを試みた。すでにゲイン可変アンプの聴感上のS/Nの良さは体験しているが、新しい回路でどの程度の音質アップができるかを試している。

2、使用真空管は6DJ8
 6DJ8は特に珍しい球ではないが、ローノイズアンプを目指すために使用した。ノイズの結果は前回のコラムのとおり。ここで新しいノイズ測定法を開発した。その結果このアンプの真の入力換算ノイズはー120dBV以下となり、目標のローノイズアンプが達成できた。

3、初段はカスコード接続
 初段はカスコード接続になっている。理由はミラー効果を打ち消すことと、見かけ上プレート抵抗が大きくなりゲインが多く稼げるためだ。実際初段だけで60倍のゲインが得られた。6DJ8のμは30程度だから倍の性能が得られたことになる。さらに周波数特性も良くなっている。アンプのf特は100KHzで-0.8dB程度。

4、低出力インピーダンス
 終段はカソードフォロアーになっていて更に負帰還がかかるので低い出力インピーダンスが得られた。アンプだけでは50Ω程度になっている。これは6DJ8の高Gmに負うところが大きい。実際には出力ラインに100Ωの抵抗を入れているので150Ω程度。f特に効果があり、これも音の立ち上がりに影響したようだ。

5、定電圧電源
 こんなシンプルなアンプでも左右独立の定電圧電源回路を入れている。その理由は電源からのノイズ混入を減らすことで聴感上のS/Nが上がることと楽器の分離が良くなるからである。雑誌などの真空管プリアンプの設計では簡単なCRのデカップリング回路で済ませている設計者がほとんどだが、私は電源回路を重要視している。


 6、出力にはリレー
 出力にはリレーを入れてある。電源ON/OFF時のノイズ消去のためである。電源ON時は約30秒くらいのディレーで信号がONする。電源OFF時は瞬時に切れる。当然この時まったくスピーカーからはノイズは出ない。

7、配線はEGW法
 アンプにおける配線は音に大きく影響する。パワーアンプで得られた配線法をラインアンプにも応用している。

以上のような試みがいろいろしてある。外観以上に中身は濃い。シンプルな構成で性能、音質を上げる工夫がしてある。
 では音はどうであろうか。設計者の音質評価ほど当てにならないものはないが、私自身はかなり気に入っている。音に無理が無い。音の立ち上がりが速く、低音も高音もスーと伸びている感じがする。S/Nの良さと音の立ち上がりスピードが速いので出てくる音に無理がないと感ずる。音の立ち上がりは初段のカスコード接続と低出力インピーダンスが寄与していると考えている。

 たまたま別のお客様にアダージョとの組み合わせで聴いていただいたら、「ベルリンフィルの各パートが浮かび上がってくるように聴こえ、弦に強く弓をあてる感じが出ている」とかなりの評価をいただいた。
 またこのコラムを書いていたら、ご依頼人ご本人から第一声が入ってきた。
「一言で表すと、「音に磨きがかかり鏡の様に美しい」と申し上げます。傑作品に満足し感謝しています。」とのこと。お客様も大変満足されているようだ。

 このアンプをきっかけにして今後も更にラインアンプの性能アップ、音質アップを試みてみたい。






2009年1月21日

<ライン(プリ)アンプの設計U>

正月の休みも明け、またラインアンプの製作に取り掛かっている。配線も終わり、アンプの動作もし始め次第にラインアンプの性能が見えてきた。これまで作ってきたラインアンプよりノイズ性能の良いラインアンプを設計するという意図で設計を始め、その結果がどう出たであろうか。真空管も初めて6DJ8という球を使い、その性能を確かめたいという楽しみもある。
 ラインアンプの性能も単にノイズだけでよいわけではなく、歪、出力インピーダンスなども性能が良くなければならない。

・ノイズ特性について
 今回設計したラインアンプは以前コラムでも紹介した反転アンプを利用したゲイン可変型アンプだ。反転アンプのノイズ特性の測り方については今回いろいろ考えた。反転アンプは入力に抵抗があり、負帰還にも当然抵抗がついている。実はアンプのノイズというのはこれらの抵抗による熱雑音とアンプの正味ノイズが合わさったものが出力に現れる。アンプの正味のノイズは主に真空管6DJ8から発生するもので、このノイズを切り離して測定できないと本当の意味での6DJ8のノイズ性能が評価できない。また測定にはIEC−651のA特性というフィルターを通して測定されるのだが、この周波数特性というのが問題になる。抵抗に発生する熱雑音にしてもアンプのノイズにしてもノイズは帯域幅のルート(√Δf)に比例する。ここで言う帯域幅Δfはシステムで使うー3dB、すなわちパワーが半分になるところの帯域幅ではなく、正に急峻に落ちる理想フィルターの帯域幅を表わしているので、このΔfの値も分からない状態で測定された結果から、熱雑音とアンプの入力換算ノイズを分離する測定方法と計算方法を見出した。測定、計算方法はE.Rを参照して下さい。
 その結果、アンプの入力換算ノイズはー121dBVと計算され、これまで作ってきた真空管アンプよりローノイズになった。これは6DJ8に負うところでこの真空管の良さが確認できた。さらにゲイン可変アンプであるのでボリュームを絞った通常使用状態ではさらにノイズレベルが下がるので、実使用状態でのSNは素晴らしいものになった。

・歪・出力インピーダンス
 回路は以前E.Rで発表したゲイン可変アンプの改良型だが、この回路での性能で歪は出力1Vで0.02%(1KHz)となり、また出力インピーダンスは150Ωにできた。出力インピーダンスの結果のうちアンプの正味の出力インピーダンスは50Ω程度で残り100Ωは回路に挿入された保護用抵抗分である。歪、出力インピーダンスとも満足できる結果になり、この性能でも6DJ8の良さが確認できた。


E.R
アンプのノイズ測定方法


続く




2009年1月11日

<年賀状>
 今年の年賀状のデザインを変えた。これまでは夫婦二人の名前で、簡単な挨拶や干支のイラストを年賀状ソフトを使って挿入し、簡単なコメントを手書きで入れたものだった。しかし今年は差出人を主にMYプロダクツにして、昨年製作したアンプの写真を挿入した年賀状をお送りした。そこには個人のコメントもあまり入れず、むしろMYプロダクツの宣伝を兼ねたような造りにした。その理由は女房に聞くと、女房の友達に私が真空管アンプを作っていると言っても、すぐには理解されないらしい。真空管そのものを作っているとか、あるいはステレオというとスピーカーをイメージするらしく、スピーカーを作っていると勘違いされる方もいるらしい。そこで、これまで年賀状を送っていた方々に、私の商売の内容が良く分かるように、アンプの写真と説明入りで簡単な商売の宣伝をさせていただいた訳である。友人の中には直ぐにメールで年賀状のコメントもいただいたりした。
 年賀状は最近虚礼廃止とかで年々少なくなっているらしい。女房も今年は年賀状を少なくすると言っていた。しかし普段ほとんど近況が伝わってこない(都合で伝えられない)ことも年賀状で初めて知ることもある。今年の年賀状にもいくつか差出人の人生を垣間見ることができた。うれしい話では昨年子供ができたとか、娘さんが二十歳を迎えられたとか、お子様の成長を記す内容が多い。不思議だがお子様の写真を入れてくる年賀状はほとんどが娘さんの写真が多い。男の子(男性)の写真は少ない。やはり写真に載せるには女性の方が良いのだろう。また私の年齢になると退職の連絡も多い。昨年定年を迎えた方が何人かいた。しかしつらい内容もある。昨年、大病で手術をしたとの連絡も2件あり、年賀状の一行にそっとそれが書かれていると、これもたいへんな人生を今送られていることが分かる。こんな内容を読むと年賀状にも人生が反映されていることが良く分かり、たった一行の内容にも重く感じられる内容がある。年賀状も虚礼だけではないと感ずる。もっとつらい内容もあった。昨年末、私の友人から奥様が無くなられた旨の喪中の連絡をもらった。すでに私は年賀状を投函済みだったので、そのまま年賀状を出してしまったがつらい話だった。
 それらに引き換え私の今年の年賀状は人生がまったく感じられない内容になってしまった。まあ、元気でこんなことをしているのかというのは分かるにしても、商売中心の内容ではちょっと味気ないかもしれない。しかし、個人的なコメントがないことが逆に元気で、細々とこんな商売をしているのが分かってもらえるかもしれないと思っている。また少しは宣伝にもなるし、仕事の内容も少しは分かってもらえるだろう。

 サラリーマンだと仕事上お世話になった方への礼状も兼ねて年賀状を出される方もいるだろう。しかし私のような年齢でしかも個人のお付き合いが増えると年賀状の意味合いも変化してくる。一枚の年賀状の重みが次第に増してくる。何もないのが良く、元気でいるのが伝わればそれが最高の内容なのだ。何も内容が無いのを出すのは虚礼ではなく、それが最高の挨拶なのだ。





2009年1月1日

明けましておめでとうございます。

今年も音の良いアンプ、面白いコラムの製作に努めてまいります。

本年もよろしくお願いいたします。







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