オーダーメイド手造り真空管アンプの店

 
<300Bアンプの周波数特性> 
 2012年10月 

 
300Bアンプの周波数特性について。

初めに
 MYプロダクツのお客さまから300Bシングル無帰還アンプをお借りすることができた。2006年に6BQ5シングルアンプ(メヌエット)を設計した時、このアンプの技術説明をこのサイトで発表した。(メヌエットの技術説明
その際、アンプの出力インピーダンスが実際のスピーカーを接続した時に周波数特性に影響することを書いた。計算による周波数特性であるけれど、DFの低いアンプでB&Wノーチラス805スピーカーをドライブすると、周波数特性がうねり特性に影響がでることを説明した。このときに巷で人気のある無帰還300Bアンプと比較的高いDFの6BQ5シングルの特性を比較し、高DFが必要であることを示した。
 それから6年が過ぎ、レポートそのものは間違いではないが、シミュレーションのみの説明だけでは十分ではないなと常々思っていた。低DFのアンプを仮に作り実際の特性を測って追加説明をすることも考えられたが、またそれもまだ言い訳がある説明となってしまい、いつか実際の無帰還300Bアンプの特性を測ってみたいと思っていた。そんな思いで数年が過ぎたのだが、今回思いもよらず300Bシングル無帰還アンプをお借りすることができ、やっと実際に300Bアンプと6BQ5アンプとの実際のスピーカーでの測定が実現し、比較するこができたので発表する。


1、300Bシングルアンプの周波数特性、ダンピングファクター(D.F)特性
 図1が300Bシングル無帰還アンプの8Ω負荷抵抗での周波数特性である。
低域、高域ともに延びている特性ではないが、中域ではフラットの特性を示してあり、8Ω固定負荷抵抗時では大きな問題はない。

 図2はこのアンプのD.F特性である。
無帰還アンプであるため、大きなD.F値とならずD.F=3くらいの値である。


2、B&Wノーチラス805スピーカー接続時の周波数特性
 図3がこの300Bアンプを実際にB&Wノーチラス805スピーカーに接続して測定した周波数特性である。
このときの出力は0.001W程度である。これでも少し小さい会話程度の音量である。

特性を見ると、200Hz付近で3dB近く落ち込み、2kHzで少し持ち上がり、その上の帯域でまた下がっている。
固定8Ω負荷ではフラットな周波数特性でも実際のスピーカーを接続してみると、うねった特性をしていることが分かる。これはスピーカーのインピーダンスが一定でないために、アンプのD.Fが小さい場合の影響が表れていることを示している。

またこのとき6BQ5シングル(メヌエット)の周波数特性も一緒にのせた。このアンプのD.F=20程度である。
6BQ5では300Bほど周波数特性のうねりは大きくなく、200Hz付近でも0.5dB程度の落ち込みになっている。


3、シミュレーション特性との比較
 図4は以前6BQ5シングルアンプ(メヌエット)の技術説明の時に使われたシミュレーションによる周波数特性である。このとき300BアンプのD.F=2で計算した。
図3の特性と比較すると特性がほぼ一致している。シミュレーションではD.F=2で計算したが、実際のアンプはD.F=3となっているので周波数特性の落ち込みは少し小さめになっているが、全体のグラフの形は良く一致していて、シミュレーションと実際が良く合っていることが分かる。


4、結論
 アンプのダンピングファクターが実際のスピーカー接続時の周波数特性に影響があることをは知られている。以前実際B&Wノーチラス805ではその影響がどの程度になるだろうという発想からシミュレーション(計算)により6BQ5と300B(無帰還)アンプで特性を示した。しかし、このときは計算だけの特性であり実際の測定での証明とはなっていなかった。今回実際の無帰還300Bアンプをお借りすることができ、実測定によるD.Fの影響による周波数特性のうねりを示すことができた。周波数特性の値についてもシミュレーションと良く一致し、実際との差は少ないことが分かった。

今回の実験からみると、やはりインピーダンスの変化が大きいスピーカーをドライブするにはある程度D.F値が高いアンプが必要であることが分かる。

200Hzから800Hzまでの帯域はどのような楽器や声域があるのかと調べてみると、たくさんの楽器の音域が重なるところで
・中低音域、金管・木管楽器の低音域にあたる周波数帯域
・もっとも情報密度が濃い帯域

歌声ではバリトン、バスなどの中心帯域

など音楽再生では非常に重要な帯域に当たっている。この帯域が落ち込んでいるのは問題となる。
300Bアンプといえども無帰還アンプでB&Wノーチラス805をドライブするのは高音質要求には無理があるように思える。




図1(固定8Ω負荷抵抗での周波数特性) 
 
図2(ダンピングファクター値)
 
図3(今回実測した特性)
 
図4(2006年に計算した値)
 

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