オーダーメイド手造り真空管アンプの店

 
<KT88pp(UL)バランス型パワーアンプの設計> 
 2012年9月 

 


 はじめに
 MYプロダクツのサイトではすでにバランス型プリメインアンプ及びWE396バランス型ラインアンプを紹介した。今回は非反転型のバランス型パワーアンプを紹介する。
 バランスアンプは反転型と非反転型とある。反転型は入力インピーダンスが入力抵抗で決まり、ノイズとの兼ね合いで大きくすることが出来ない。非反転型は入力インピーダンスを大きくでき、更にノイズも下げることが出来る。今回設計したアンプはバイアンプ用で使用されるため、入力インピーダンスやゲインが決められており、それらの仕様を満足させるために非反転型で設計した。前回のレポート「WE396バランス型真空管ラインアンプ」でも紹介したとおり、非反転型バランスアンプは入力端子が入力回路、負帰還回路合計で4つの入力端が必要になり工夫がいる。今回は真空管で非反転型のパワーアンプの設計したので紹介する。
 


 1、非反転型バランスアンプとは

 通常オーディオアンプは入力、出力ともグランドを基準とした信号入力・出力(シングルエンド入力・出力)を持った形をしている。シングルエンド入力の場合、信号は+入力につながり、負帰還が−入力につながっている。増幅はグランドを基準にして行われ、これが一般的な非反転アンプでオーディオアンプでは多く使われる。(図1)
このときゲインは
 G=1+RF/RG
 一方バランスアンプは入出力ともホット、コールド端子を持ち、この2端子間で増幅する機能を持つ。(図2)
ゲインは
 G=1+2RFH/RG(ただしRFH=RFC



   


 2、真空管アンプで実現する方法

 基本回路は前回のレポート<WE396バランス型真空管ラインアンプの設計>と同じ考え方である。
2−1 入力端
 入力信号端は差動入力が必要なため、差動増幅器を使用する。そして負帰還用の入力端は差動増幅のカソード端子を使えば実現できる。


2−2 出力端
 出力端は出力トランスの出力をそのまま使用すればよい。特別なトランスは必要ない。


 3、実際ののバランス回路

 図3が実際の真空管バランスパワーアンプの回路を示す。
バランス入力は差動増幅器のグリッドに接続され、負帰還入力は差動増幅器のカソードに接続される。出力は出力トランスを利用してホット・コールド出力を出す。負帰還回路はRFH、RFC、RG
で構成されRFH=RFCとなっている。

1段目と2段目は直結回路とし2段とも差動増幅回路となっている。今回は初段にカスコード接続のTr増幅器を設けたが、これはゲインと高域特性を改善するためで、バランス回路とは直接関係ない。またアンプ入力はアンバランス入力(RCA入力)にも対応しており、そのための切り替えスイッチも用意した。
出力端は出力トランス端子そのものがバランス出力となっているので特別なトランスは使用しない。ただし両端子ともコモン電圧としてグランドレベルに接続している。こうすることにより、より安定にアンプが動作する。



図3



 4、その他の機能

図3の回路のその他の機能を説明する。
アンプはXLR(バランス)とRCA(アンバランス)入力とも対応している。XLR端子の接続で2番がCOLDになっているが、これはプリアンプのXLR出力がこのようになっていたため、このように対応した。

回路図にはのっていないが、ソフトスタート回路付き低インピーダンスリップルフィルターや低インピーダンス定電圧電源が5つ搭載されている。
配線法はバランスアンプ用にさらにEGW法を進化させ、アンプの安定性と高音質とを両立させている。


5、アンプの性能

 今回設計したKT88pp(UL)バランスパワーアンプの特性を示す。

 測定用バランス信号はアンバランス―バランス変換回路 (AnalogDevice社のBalanced Line Driver SSM2142を使用した。
 

 測定アンプ出力端はオーディオアナライザー VA-2230Aのバランス入力を使用して測定した。

データの説明(CMR特性以外はすべてバランス入力/バランス出力で測定)
・周波数特性(図4)
 ゲインは28dBで設計してある。これはバイアンプとして使われるためにペアとなるアキュフェーズのパワーアンプと合わせた。

・歪特性(図5)
 アンバランス回路と変わりない特性が出ている。

・Separation特性(図6)
 低域で90dB以上の特性を確保している。

・DF特性(図7)
 バランス増幅でもDF=28が得られている。真空管アンプとしては大きい数値でMYプロダクツのアンプの特長が出ている。

・CMR特性(同相ノイズ除去特性)(図8)
 オーディオアンプではめずらしいCMR特性を測定してみた。
 CMRR(同相ノイズ除去比)=差動ゲイン/同相ゲイン
 CMR=20log10CMRR

 

  6、最後に

 今回、非反転型の真空管バランスパワーアンプを設計した。MYプロダクツとしては3作目のバランスアンプとなる。前作で非反転型のバランスラインアンプを設計し、その低域の良さを感じていたので更に発展させたパワーアンプを設計した。非反転型のパワーアンプでも十分な特性が得られことが分かった。
配線法はEGW法を更にバランス用に発展させ、安定性・特性・音質とも満足できる形になった。


音質について 
 音質の評価を設計者自身がするのは客観的な評価法とは言えないが、私の主観的な印象としてとらえてほしい。
 このバランスアンプ回路はこれまでのアンバランスアンプとほぼ同じであり、負帰還方法が異なるだけだが、音の印象は大分良くなる。オーケストラでの各楽器のパートが更に良く聴こえる。中低域の出方がまるで違ってきた。スピーカーの駆動力が上がって聞こえ、音が前にせまってくる。この現象はお客さまや友人の試聴でも感じられており、このアンプの大きな特長になっている。ただこれが何が原因になっているかはまだ分かっていない。グランドの影響がすくないからか、スピーカーの逆起電力に強いからか、いくつかの理由は考えられるがまだ分かっていない。この音質の特長はCMR特性に何か秘密が隠されているかもしれない。
 非反転型バランスパワーアンプは今後さらに面白いものになっていく予感がする。




 
図4
 
図5
 
図6
 
図7
 
図8


 

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