手造り真空管アンプの店




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店主コラム 2007年1月分〜3月分




2007年3月21日
<アドリブ的職業>
 3月3日に近所の自家焙煎珈琲の店<アステカ>さんでジャズのライブが開かれた。小じんまりした雰囲気で、直に演奏者の音を聴くのは気持ちが良い。ジャズと言えばアドリブと相場が決まっている。アドリブの出来が音楽の出来を表している。このアドリブ演奏はいつも感心して聴いている。よくあんなメロディーが即興で出てくるものだと感じている。今回演奏したあるジャズマンのサイトを読んだら、<アドリブは練習してはいけない。でも練習しなければならない。>のようなことが書いてあった。なかなか含みのある言葉だ。アドリブそのものを練習したらアドリブにならないし、かといって練習しなかったら技術的、音楽的に高度な演奏は出来ないであろう。
 さてこのようなアドリブを職業とする人は他にはないのだろうかと考えてみた。決められた手順でなく、その場その場で相手、環境に合わせて仕事をする職業のことだ。
 女房はアルゼンチンタンゴダンスを習っているが、アルゼンチンタンゴというのは決まったステップがある訳でなく、音楽、気分に合わせて男性がリードし女性がそれに合わせるものらしい。これらはまったくアドリブ的職業と言えよう。他にはと考えると、カリスマ美容師と言われる方などもこれに類するであろう。お客様に合わせて瞬時に髪を切る。これもアドリブであろう。他には洋服のコーディネーターなども同じかもしれない。
 スポーツに目を向ければ彼らも同じかも知れない。ゴルフなどは足場、距離、風などの環境を読み、それに合わせて狙った所に正確に打つことなど、私には神業にしかみえない。野球、サッカーも同じだと思うが、試合は練習とは環境がまったく異なる。瞬時的な判断で、その場面に合わせた動作が必要になる。これらもまったくアドリブの世界であろう。良いアドリブが出来る人が、優秀な選手といえるのではないか。
 このように考えてみるとかなりアドリブ的な仕事というのはあるようだ。芸術、スポーツ、サービスなどには多くありそうだ。また手造り工芸品なども職人の勘が冴えたとき素晴らしい作品ができるのかもしれない。
 工業製品にはアドリブはない。同じものを如何にたくさん作るかであって、アドリブは悪になる。私がしている手造りアンプはアドリブが多い。まったく同じものを作らない。その時の技術レベルと気分と人の顔を見て少し変えてしまう。使う環境も違う、音の好みも違う。なるべくお客様に合わせてアンプを作っていく。これが<MYプロダクツ>流工業製品だ。
 機械で刻んだリズムは面白くない。マニュアルどおりの応対はサービスではない。その場に合わせた対応が心に訴える。
 人の感覚から出来たアドリブ作品には、人間味が溢れ面白い。



地元・能見台 自家焙煎珈琲<アステカ>様にMYプロダクツの真空管アンプが入りました。
このお店はジャズ音楽を流すので、歯切れの良い低音が再生できるよう、電源を改良しました。
これもお客様のご使用に合わせたアドリブです。








2007年3月11日

<プッシュプル歪のシミュレーション>
 今回は前回求めたシングルとプッシュプルのEc-Ib特性から歪を計算してみた。
 実はこの計算すでに行っている方がいらしてそれを参考にして求めたものだ。やはり真空管アンプといえども、アカデミックに考えている方がおられるものだ。
 さて、非直線歪の計算方法は技術誌なのでは紹介されている。私が参考にしている武末数馬 著 <パワーアンプの設計と制作(上)>にも紹介されている。
 アンプに非直線歪がある時、入力xと出力yの関係を関数で表し、
 y = ax + bx2 + cx3 + dx4 +・・・・・(1)
として、ここに信号として三角関数(ここではx=cosωt)を代入し、(1)式を三角関数の倍角の公式を使って変換し、
 y = DC+ Acosωt + Bcos2ωt + Ccos3ωt + Dcos4ωt + ・・・・(2)
 の形に変換すれば、DCは直流成分、Aが基本波、B,C,D以降は高調波成分となりこれらが非直線歪となる理屈だ。
 なるほど理屈は分かるが、アンプの入出力の関係をどのようにして関数に表すことが出来るかが問題になる。ところがこの非直線を表す関数はエクセルで簡単に求めることが出来ることを知った。これは調べ物をしていたら偶然あるサイトで見つけた。世の中、こんなことをやっていた人がいた。

 前回求めたEc-Ib特性のグラフから、エクセルの機能<近似曲線の追加>を使うと、簡単に(1)のようなn次の関数が求められる。これが出来れば後は簡単。とは言ってもcosの倍角の公式が必要だが、そのサイトにはこれも出ていた。(すべて、参考にしてしまった。加法定理を使えば解くことは出来るようです。)
 結果は、前回述べた考察の裏づけが出来てしまった。すなわちシングル動作では2次歪が圧倒的に多く、プッシュプル動作では歪は1/10以下で、2次歪はキャンセルされて出ていない。特性が点対称だからむしろ奇数次(主に3次歪)が優勢であることも分かる。THD(全高調波歪)の値はかなり差が出ていることが分かる。
 前回と今回にわたり、プッシュプル動作についてコンピューターでその動作をシミュレーションしてみた。改めてエクセルのソフトの優秀さを知らしめてくれた。自宅にいながらこんなことが出来るのは、コンピューターの進歩のお陰か。


 詳しい説明はプッシュプル歪のシミュレーションをご覧下さい。

参考文献 :  武末数馬 著 <パワーアンプの設計と制作(上)>
 参考サイト:  
HARU@豊橋 真空管アンプのページ


前回と同じ梅林でのスナップ。
 ヒヨドリが白梅の蜜を吸っています。撮影距離は2m位。普段はもっと警戒心が強い鳥ですが、この時は蜜がおいしいらしく、この距離でも逃げませんでした。






2007年3月1日

<プッシュプル合成特性のシミュレーション>
 真空管アンプを設計するとき、先ず出力段に使用予定の真空管の特性を調べてから設計する。ここで最大出力が決まり、ゲイン、電源などが順次決まっていく。真空管アンプの設計は先ず出力段の静特性を調べることから始まる。通常この特性はEbIb特性と呼ばれるもので、グリッド電圧(Ec)をパラメーターにして、プレート電圧(Eb)に対しプレート電流(Ib)がどの位流れるかを示した特性である。ところがこの特性は真空管1本の特性を示し、シングルアンプの時は理解できるが、プッシュプルの時、実際は2本の真空管の合成された特性で動作しているので、直感的に理解するのは難しい。また、プッシュプルは2次歪がキャンセルされるということが雑誌などに書かれているが、実際この合成された特性図などはほとんど見かけたことがなく、実際どのような動作をしているかを知りたくなる。そこで今回、この一つの出力真空管の静特性からプッシュプルの合成特性を求めるシミュレーションをしたので報告する。数年前に計算したのを再度見直しして、まとめたものである。

 計算は表計算ソフト<エクセル>を使用した。モデルは私が実際使っている6550という真空管のUL接続時の特性を使った。これは真空管マニュアルに掲載されていたものを参照した。先ずをマニュアルからエクセルに特性を写すことから始める。次に負のサイクルを増幅するペアーの真空管特性は逆の特性となるのでそれを作る。そして動作点を決めて、その動作点で合成特性がゼロになるようにグラフを重ねる。ここでは400V、50mAEc=−50)を動作点として、両グラフの400Vの位置を一致させるようにする。後は各グリッド電圧(Ec)毎に合成(足し算)する。エクセルはこのような計算は得意であるから直ぐにできる。後はグラフにするだけだ。 

 プッシュプルの合成特性を見てもらいたい。これまで実際の特性を見せてくれた解説書は少ない。私も初めてこの計算でプッシュプル特性を知った。グラフの赤線がロードラインだが、シングル動作の時はグリッド曲線の間隔が等間隔でないのでこれは歪が多いことを表している。一方プッシュプル時はグリッド曲線の間隔がシングルに比べ等間隔に並んでいる。これはプッシュプルは歪が少ないことを表している。ちなみにEcIb特性をプロットしてみたが、シングル(UL接続)では2次曲線に近い形をしているが、プッシュプルでは直線に近い形をしている。これはプッシュプルが2次歪をキャンセルする効果を示している。

 今回、プッシュプルの合成特性を計算してみた。これを見ると直感的にプッシュプルの特性が優れていることが分かるだろう。次回はこのEc-Ib特性から歪率を計算して比較してみよう。

詳しくはプッシュプル合成特性のシミュレーションをご覧下さい。(次回も続きます。)

近くの丘陵にある梅林のスナップ。
写真では分かりませんが、蜜ののにおいが漂い、野鳥が蜜をすすっています。








2007年2月21日
<設立記念日>

2月21日はMYプロダクツの設立記念日に当たる。2年前の今日、事業の申請をした。3年目に当たる今日は話題を替え一人で真空管アンプ事業をすることになったきっかけをお話したい。
 10年近く前まだ私がサラリーマン時代の頃、北山創造研究所のセミナーに出席していた。北山氏は建築家の安藤忠雄氏の実弟で、彼がセミナーを主催し多彩なゲストスピーカーがいろいろな話題を講演してくれた。勿論安藤忠雄氏もその一人であった。その数あるゲストスピーカーの中で、その後の私の運命を変えてしまう人にそこで出会った。その人は丸山茂雄氏であった。彼はその時はソニーコンピューターエンターテイメントの会長職にあり、セミナーではプレイステイションの開発秘話をお話されたが、その話の中で彼が聴衆者に質問をした。「この中にご自分で事業をされている方はいらっしゃいますか。」数人の方が手をあげた。「自分は60歳だが、これから独立するかどうか迷っている。独立している方はうらやましい。私はまだ決断が出来ない。」
 私はこれには強い衝撃を受けた。当時私も同じソニーグループに所属していたので、丸山さんのことは社内報などでその立場を理解していた。CBSソニー(今のソニーレコード)、ソニーコンピューターエンターテイメントの社長、会長職を歴任され、私のような末端の人間にとってみれば雲上人のような人が、まだ独立を考えていることを知り、考えさせられた。そのセミナーでは名詞交換をし、ご挨拶してセミナーを後にした。
 そして数年後テレビで丸山さんが映っていた。新しいレコード会社を立ち上げたのだ。その映像では彼がスーパーでタオルを買っているシーンだった。彼曰く「今の若い者は不潔だからタオルを用意しているんだ。」私には信じられないシーンであった。会長職まで登りつめた人が、また若い音楽家を発掘するために準備をしているのだ。
 これが私が事業をしたいと思うきっかけになった。彼は若いころたくさんのミュージッシャンを発掘、育成していて、それがご自分の天職と思っておられ、それを実践していた。
 私の場合はその規模、影響度は比べ物にならない位小さいものだが、自分なりには満足している。ビジネスではまだ成功とはいえない。しかし私も若い頃に開発をしていたときに近い何か充実感が感じられる。知らないものに挑戦し、何かを得る楽しみみたいなものである。当然好きなオーディオをいじっていられることも大きな要因だ。
 人生、いろいろな方に出会う。私もいろいろな方に出会い影響されてきた。この丸山さんの場合はたった1度の2時間程度しかその場を一緒にしていない。しかしその影響は大きなものとなった。今の私はこの事業をなるべく長く続けられるようにしたいと願っている。長く営めばまた何か新しい発見があるのではと期待しながらである。
 



 室内から見る枝垂れの梅。
今年はどこも開花時期が例年より早いです。

今回のコラム、当初はアンプのことを書くつもりでいましたが、設立記念日だったことを思い出し、テーマを変えました。

丸山さんが営む会社は<247Music>という音楽会社です。


地元能見台、コーヒーとカレーの店<アステカ>でMYプロダクツの真空管アンプを使っていただいています。夕方にジャズCDを流しています。また3月3日にジャズライブが<アステカ>で開催されます。
ご興味のある方はリンクページの<アステカ>をご覧下さい。





2007年2月11日

<電源回路と音質>
 私は真空管アンプを設計するとき電圧増幅段の電源は必ず定電圧電源回路を使う。半導体の回路だがこれは性能・音質にかなり影響する。通常真空管アンプの製作記事を読むと通常この電圧増幅段の電源回路は抵抗とコンデンサーだけのデカップリング回路だけで済ませていることが多いが、私はここはきちっとした定電圧回路にしている。何故かというと信号増幅回路にこの電源からのノイズが混入し、S/N・歪に影響するからだ。また音質面においてもアンプの回路にもよるがこの電源回路の影響はかなり大きいと感じている。
 これまで発表してきた2台のアンプの電圧増幅段(出力段以外の真空管)は3極管を使用している。Adagioの場合は差動増幅回路を使用しているので、正・負信号の増幅を合わせるために双三極管を使用した。また三極管の特性から、歪は2次歪になるが差動増幅器のお陰でこれらの歪が相殺され、低歪が期待できるからだ。Minuetの場合は増幅ゲインの兼ね合いと真空管の数が減らせるため双三極管を使用した。この双三極管は作る上で大変都合の良い素子ではある。また三極管は五極管に比べ増幅度は劣るものの、プレート抵抗が低く高域を伸ばせることと歪が主に2次歪なので回路的にキャンセルが可能で低歪が期待できる。それでは三極管による増幅が万能かというとそうでもない。先ほど述べた電源からの影響が大きいことだ。プレート抵抗が低いことは高域を伸ばすには有利だが、逆に電源からの外乱には弱い。たとえばノイズレベルを測ってみると簡単なデカップリング回路の電源とノイズを減らした定電圧電源ではかなり値が違う。Adagioの場合はこの電源の影響を減らす為に差動増幅回路にしているほどだ。
 音質面で言えば、どこに定電圧回路を入れるかにもよるが、定電圧回路を入れると低音の伸びが格段に違う。左右それぞれに電源を強化すると左右の音の広がり、楽器の分離、余韻など測定では分からないが感覚的にはかなり変わってくる。だから私は真空管アンプの設計は、電圧増幅回路と電源回路が一緒になってアンプとして音質を決めていると考えている。信号は余分なノイズを含まないで正確にスピーカーに伝達しなければならないが、実際にはスピーカーの変動、電源の変動、振動などがあり、これらの外乱にも影響されずに増幅するのはかなり考慮が必要になる。一般にアンプにおける電源というとトランスの容量やコンデンサーの容量だけを議論されることが多いが、真空管アンプのような単純な抵抗負荷の増幅回路というのは電圧増幅段の電源もかなり重要であるということだ。


不思議な枝のようなものが出ている植物。
実はこれコチョウランの根。このうち一本だけ茎があるのですが、今年は花が咲いてくれるのでしょうか。水コケだけの土台で立派に生きています。
このところアンプの話ばかりで面白くないかしら。次回もアンプの話になりそうです。





2007年2月1日

<アンプの配線技術>
 皆さんはアンプの設計というと、いい部品でいい回路が出来ればアンプの性能が出て、音も良いのではと思われるかもしれないが、そうではない。実は回路というのは配線技術が良くないと性能が発揮されず、とんでもない性能のアンプ(装置)になってしまう。これは経験がないと分からないかもしれない。例えば、料理で言えば、例え良い材料、レシピなど用意しても、材料の切り方、火加減、順序など作業の良し悪しで味が決まるというのと同じである。電気回路の場合電流の流れ、電磁波の発生、振動などさまざまなことを考慮して配置、配線しなければならない。これはアナログ回路に限ったことではない。デジタル回路にしてもクロックが数十メガ以上になってくると、長い配線をすると、クロックにリンギングが発生し、クロックが正しく伝達されず状態遷移でミスすることもある。このように配線というのはただ繋げれば良いというものではない。
 私が若い頃アンプの設計をしていたとき、先輩からはこの配線についてかなり厳しく指導された。配線で性能が変わってしまうからだ。半導体アンプの場合出力段はBクラス動作をしており、これは半波波形の大電流が流れるため高調波が発生し、これが悪さをする。電源リップル電流も同様だ。そのため配線は製造工程でも細かく指示して作ってもらうほどだった。 真空管アンプでも考え方は同じである。雑誌に出ている真空管アンプの製作記事を見ると、配線については何も考えていないのではと思える配線が多く、私はまったく参考にしない。上水道と下水道が同じ管を通っているような感じだ。
 Adagioのような低歪、高SN、高セパレーション特性を得るには配線技術がないと実現できない。配線の数センチの違いで歪、ノイズレベルが変わってくる。回路と配線が両方良くて初めて出来る性能なのである。当然音質にも影響してくる。
 物を造るというのは、実際作って、使って(見て)もらい評価されるものだ。そこにはやはり職人(作る人)の技術というのが存在する。これが他との差別を生む。
 私はこの職人技術を重んじている。


 盆栽の梅が満開になりました。部屋のガラス戸のそばに置いておいたら、ヒヨドリがこの梅にめがけて飛んできて、ガラス戸に頭をぶつけていました。鳥も昼間は目がいいらしい。

料理2題
味噌ピーまた作りました。今回は過去最高の出来。要領を覚えたようで、美味しく作れました。
今年の味噌の仕込みを先週の日曜日にしました。今年はフードプロセッサーと大きなボールを購入。お陰で手際よく作業が出来ました。作業中の音楽は勿論モーツアルト。今年の音楽は「アイネクライネ」、「ディベルティメント」でした。どんな味になるのやら。





2007年1月21日

<位相補正と音質>
 
昨年、友人から昔の真空管アンプの雑誌を何冊か頂いた。昔私も所有していたものもあったが、私は処分してしまい手元になかったものがその友人のお陰でまた昔の真空管アンプの記事を楽しむことができるようになった。その中で上杉佳郎氏が書いた真空管アンプ製作雑誌が2冊含まれていて、楽しく読んでいる。氏は今でも真空管アンプを製作・発売しているし、ステレオサウンド誌にアンプ製作記事を書かれている大ベテランである。私は初めて読む雑誌なのだが、その中に興味ある記事があった。それはアンプの安定性に関することだ。氏が言うには「低域安定度が悪いアンプはドラムだかベースだか区別のつかないような音になり、高域安定度の悪いアンプは、何となくザラザラした音になる」と書かれている。この表現が正しいかどうかは別にしてこのアンプの安定度はかなり音に影響する。特に高域は増幅段だけ時定数があるので位相補正をしっかりしないと音に影響する。私の経験では高域安定度の悪いアンプは音が硬く、激しい時にはキンキンした音になってくる。良く雑誌なので負帰還(NFB)が少ないとゆったりした音になり、負帰還が多いと音が硬くなるという表現が使われるが、これはほとんど高域が不安定になっていると考えて良い。正しく位相補正された安定したアンプは高域も滑らかで低音も前に出てやわらかい音がする。
 私もアンプを設計するときこの位相補正にかなり神経を使う。NFBはアンプの性能を格段に上げる魔法の技術だが、一方ではNFBに反比例してアンプの安定度が下がってくる。だから、NFBにより歪が下がったからと言って喜んではいられない。安定度と最終的には音で確認しないと性能は良いが音が悪いアンプになってしまう。私の場合、アンプの安定度をどの程度考えているかと言うと、

 
1、容量負荷(0.1μF程度)のみで発振しないこと。抵抗負荷なしの場合裸ゲインが一番高く、また時定数も大きくなり一番不安定な状態なのでこの時にも発振しないようにする。
 2、周波数特性に僅かなピークも持たせないようにする。これは過渡特性を良くする為だが、これが音にかなり影響する。
 3、位相補正は微分型、積分型を併用するが、スピーカーのインピーダンスの変動を考えると、微分型の位相補正は適度に持たせ、主に積分型でなるべく安定させる。この方が実際スピーカー負荷時でも安定した補正ができるからである。
 4、位相補正を変えたら、容量負荷での発振、歪、周波数特性、音質を必ず確認する。最後はどこかの妥協点になるのだが。
 などなど、この位相補正というのは結構難しい。実際測定器が無いとこの調整は不可能だし、経験も必要だ。オーディオアンプを静特性だけで判断するとこの位相補正技術はとんでもない間違いを犯す。特性は良いが音が悪いということになる。
 少し難しい内容になったが、このように位相補正一つをとっても、オーディオアンプは奥が深い。それは人間の耳がかなり優秀な音質判断測定器だからなのだが。


盆栽の梅が二輪咲きました。春が待ち遠しくなります。

ある雑誌のコラムを読んでいたら「四季を楽しむのは日本人だけではない」ということを外国人の方が書いていました。






2007年1月11日

<ダイエット>
 昨年はメタボリック症候群という言葉が世間で騒がれた。私はこれには属していないと自覚はしていたが、昨年久しぶりに人間ドックを受けた。サラリーマン時代は半ば強制的に人間ドックを受けさせられたが、独立してからは初めての人間ドックとなった。家での仕事が主になり通勤による運動が無くなり、運動不足による健康への影響が心配な面もあった。特にサラリーマン時代からコレステロールの値が高く、今回の診察でもどの程度になっているのかを注目していた。
 ところが結果は最悪だった。これまでになく高い総コレステロール値と中性脂肪値であった。他に特に悪いところは無かったが、コレステロールが過去最悪となった次第である。ストレスも無くなり健康に過ごしているので期待していたが、見事に裏切られた形になった。早速、健康雑誌を読み、また近所の医者に相談に行った。そうしたらまずは食事療法から始めましょうということになったのだが、その時の療法は食習慣を変えるというものだった。我々は知らず知らずに食べている物が悪さをしている。それをまずは断ち切ることになった。私の場合中性脂肪が多いのが総コレステロールに影響しているということで、中性脂肪に影響するものを止めることにした。中性脂肪は主に糖分からきているらしい。そこで糖分と控えることにした。まずは朝のジュースを止めた。果糖は結構影響するらしい。それから夜のデザートを止めた。食後に甘いものを食べていたのだがそれを止めた。私はそれ程太ってなくほぼ標準体重であるので、甘いものを取っても関係ないと思っていたが、今回止めてみた。それから毎日飲むビールも止めてみた。飲む量はせいぜいコップ1杯半程度だったがこれも止めてみた。(後で知ったことだがビールは糖分がかなり多い。)追加したものもある。食事前に豆乳を少しだけ飲むようにした。以前TVで効果があると放映していたからだ。これらの食事療法を1ヶ月続けた。食事量は減らさず糖分だけを減らした。(結構これがつらかった。)
 こうして私のダイエットが11月半ばに始まり1ヶ月後、体重は1.5kg程度減少、そして再検査。
 結果は大変優秀な結果となった。総コレステロール値が317mldlから235mldlへ、中性脂肪値は232mldlから88mldlへと急激に下がった。総コレステロール値はまだ安全圏とはいかないまでも近いところになった。これには医者も驚いた。たった1ヶ月でこれまで下がるのは驚異的なことらしい。うれしいことにこのように体が反応するのはまだ体が若いせいと言ってくれた。私にとっても貴重な経験となった。サラリーマン時代、コレステロールを下げる薬を服用していた時期もあったが長く続かず、かといって数値が自然に良くなることもなく諦めていた持病だが、これが自力で改善できることが分かったからだ。
 今も糖分の摂取は余り取らないようにしている。糖分がこれ程コレステロールに影響するとは初めて実感した。また食習慣というのは恐ろしい。自分では気が付かないまでも、体は反応してしまう。これは良い経験になった。皆さんコレステロールで悩んでいる方は、参考にして下さい。やれば出来ます。


Minuetの電源スイッチの位置を全面パネルに移動しました。この試作アンプは元のスイッチのところに<Minuet>というシールが貼ってありますが、製品にはこのシールは付きません。
Adagioも現在、アップバージョン中。より聴き心地の良いアンプを目指しています。






2007年1月1日
<2007年新年を迎えて>

新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い申し上げます。

 早いものでもう一年が過ぎてしまった。私にはアッと言う間の2006年だったように感ずる。昨年はパワーアンプのスピーカードライブについていろいろ考えてきた一年だったように思う。出力インピーダンス、電源供給能力、定電圧電源などの改善を行なってきて、それなりの効果も上がり音質の向上にもかなりの進歩が見られたと思っていた。
 
こんなことを考えながら昨年末、お客様のアンプのメンテナンスとアップグレードをすることになった。勿論このアンプは私が設計したアンプで、真空管プリアンプとパワーアンプであるが、これまでの私のノウハウをすべて注ぎ込んでアップグレードしようと細かい改善を実施した。そして音を聴いた瞬間、これまでと次元が違う音だと感じた。低音、高音が出ているというのは当然としてその次元を超えて、一つ一つの楽器の分離・定位が素晴らしく、また聴感上のノイズレベルが低く演奏者の息継ぎが良く聴こえ、演奏の雰囲気が良く再現されていた。演奏が自然で違和感がない。自分で設計しておきながら自画自賛しているのは問題だが、この音は私が現在使っている自宅のシステムより良い音だった。お客様の製品というのは念入りに設計する。このアンプも電源回路などが贅沢な作りになっており、それが功を奏したかもしれないが、これまで経験したことのない音に感じられた。
 私にとってはこれが2007年度の新しい目標になった。自分が設計したアンプなので、そのまま同じアンプを造れば再現できるのは分かっているが、それでは本質が見えてこない。どこの違いが音にどれだけ影響してくるかをもっと突き止めてみたい。すでにプリアンプの検討は始めており、進歩は見られるが、あの楽器の分離・定位はまだ表現出来ていない。

今年は昨年より更に演奏の雰囲気が表現出来るようなアンプにしていきたいと思っている。ノイズ、振動、動作点、電源などまだまだ考えることがある。真空管アンプでもかなりのレベルの音が再生できそうだ。今年もこの見えない敵(問題)に挑む楽しみができた。またドーパミンが出てきたように感ずる。
今年はもっといい職人になりたいと思う。

今年も宜しくお願いいたします。 


シャコバサボテンの花です。手入れが良かったのか昨年は良く咲いてくれました。


前々回のコラムで紹介したシャネル社長のコラスさんが現在発売中の<家庭画報>2月号に紹介されています。その記事のなかで、私が設計した真空管アンプのことも載っていますので、ご興味がありましたら読んでみて下さい。







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