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 <とりあえず休止>
 2020年12月16日 

今回でこれまでほぼ定期的に書いてきたこのコラムはいったん休止します。
 永い間読んで下さりありがとうございました。

 2005年に始まったこのコラム、最初は月3回のペースで、2019年からは月2回のペースで発信してきました。ざっと計算しても500回以上コラムを書いてきたことになります。自分ながらこんなに書いたんだと驚いています。

 コラムを書くきっかけはもちろん商売のため、僕自身を知ってもらうことで始めてみました。やはりこのコラムを読んでアンプの注文をしていただいて良かったと思っていますが、途中からは商売を無視して好きなことを書くようになっていました。あまり読者のことを考慮しないで、自分の備忘録的なメモになっていったように思います。だからときには難しいと言われたこともありましたが、まったく気にせず好き勝手に書いていました。
 今はもうそろそろ定期的に書くのを卒業して、さらに身勝手に好きな時に好きなことを書く心境なので、ここでいったんコラムを休止したいと考えた次第です。

 今後のことは何も決めていません。ただまだオーディオを止めた訳ではないので、今も新しいアンプをあれやこれやと頭のなかでは考えています。ただこれを作るかどうかはまったく決めていない状態です。ですからまた新しいアンプの構想が決まったら適当な時期にまた何かを書くかもしれません。内容もオーディオに限らず別なジャンルを気ままに書くのも楽しいかもしれません。これからは商売抜きの自由気ままな身勝手コラムでもしようと考えています。

話は急にかわりますが、前回のコラムでお伝えした近所の喫茶店<アステカ>が急に閉店(9月)したとお伝えしましたが、12月にまた新規のお店(デイジー)を開店しました。詳しい事情はわからないけれど、また元気で前と変わらず忙しくお店をきりもりしていました。今年は暗いニュースが多い中、僕的には明るいニュースで勇気づけられました。

最後にこれまでどれだけの方が読んで下さったかはわかりませんが、拙い文章を読んでいただきありがとうございました。
 今回でとりあえずこのコラムはいったん休止とさせていただきます。

今後はマスターみたいに不死鳥のように過ごしたいと思います。


 
 <突然>
 2020年12月1日 

前回サイトのURLの変更をお知らせした。急なお知らせになってしまったが、元はso-netからの急な連絡だったからご容赦願いたい。どれだけの人がこのサイトを読んでいるかは分からないので影響があるかはわからないけれど、例え読み手が小人数でもきちんと前もってお知らせしなければと思い、急遽新しい無料サーバーのアカウントをとり手続きした。僕としては無事新しいURLが出来たことを素直に喜んでいる。今後サイトの運営もこれまでとは違ってくるけれど、何か発信できるときはまたしてみたいと思う。

今年も師走になった。やはり今年はコロナの一年であったように思う。その影響は僕の身近なことでもいくつも起こっている。それも急に起こるのが今回のコロナ禍の特徴である。
  僕の街でもお店が閉店している。ちょっとショックは僕の真空管アンプを使用して下さった喫茶店「アステカ」が急に閉店してしまった。毎日のブログを見ていても前触れもなく急に閉店してしまった。マスターは今どうしているのか気がかりなところだ。その他時々利用していた中華屋さんや利用したことがないけれど数件の飲み屋さんなど近所のお店が閉店してしまった。
 最近では僕が35年以上通っていたテニススクールも来年3月で閉鎖されるとアナウンスされた。親会社の経営が悪化して土地を売却することになったと言う。これも僕の生活への影響ははかりしれない。毎週土曜日はテニスをするという生活をずっと続けてきたのが無くなってしまう。今後どうするか考えているところだ。
 このサイトの閉鎖も突然の連絡から始まった。その後連絡はまったくない。利用者は対応できているのかしらと思う。僕としては突然止めにしないでこれまでのは残しておくという選択をした。急な停止はいろいろな憶測を言われそうで、僕の好むところではない。静かにフェイドアウトしたい気持ちだ。

今年の言葉はあえて言えば「突然・・・」だ。良い意味ではない。これまで普通に続くものと思っていたものが突然止まってしまうということを痛切に感じている。

 この先このコロナとどう付き合っていくのか分からない。ワクチンが出来て昔のように戻るのか、常にマスクをしなければいけないのか、宴会はもうできないのか。
 医療的なコロナの影響も怖いけれど、経済的な理由で急な変化が起こりそれの対応もしなければならないのも影響大である。これまでどおりすべてが普通に継続してくれるのを望んでいる。


 
 <重要なおしらせ>
 2020年11月16日 

9月の半ばこのサイトを管理しているso-netから突然メールが届いた。僕が使用している無料サーバーのサービスは2021128日をもって終了するということだった。
 僕は「どういうこと?」とよくよく読んでみると、終了日以降webコンテンツの表示もできなくなり、またそれに代わるサーバーも用意していないということ。すなわち来年1月をもってこのサイトへのアクセスができなるということだった。

 それから僕はひと月ぐらいいろいろ考えた。今後の方針は次のように集約された。 

 1、このまま何もせず128日を迎える。
 このサイトは自動消滅して終わりにする。そろそろこのコラムもいつ止めようかと思っていたところ。そのキッカケにはちょうどよい。しかし僕もこのサイトを見られなくなるのもちょっと寂しい。内容は忘れているから自分でも読み返したい時がある。これは僕の日記みたいなものだから。
 2、新しいサーバーを探し、そちらに移動して続ける。
 今更新しい無料サーバーを探し、アカウントを取りサイトデータを送る設定をしなおさなければならない。どうも面倒だ。それに今後コラムを続けるかの問題もあるし。
 3、1と2の中間案。

 こんな悩みがひと月ほど続き、結論は。

 「新しいサーバーを見つけ、そこにこれまでのサイトデータを移す。しかしこのコラムのアップデートは止め、これまでのサイトデータだけを残しておくだけにする。(気が向いたら何か書くかもしれませんが。)」

 という結論になりました。

URLと旧URL128日まで両方表示されます。それ以降は旧URLにはアクセスできず、新URLだけの表示になります。新URLのサイトではコラム等は新規更新はなく、過去のアーカイブとなります。
 まことに勝手ながらそのような結論にさせていただきました。

URL
 http://myproducts.html.xdomain.jp

 今後の閲覧にはこちらのURLをご使用下さい。


 
 <EQ改造2>
2020年11月1日  

2回に渡りEQのノイズ計算について述べてきたが、では実際どうであったかが重要だ。今回はその顛末を述べてみたい。EQ改造1で述べたとおり最初は予定通りの特性が得られなかった。計算では-135dBV近くのノイズレベルが出てもよいはずなのに、最初の測定では-115dBV近い値で予定よりまったく違う特性だった。最初は自分の計算を疑ったが、それにしても値が離れすぎて別の問題があると推測し回路を当たっていった。最終的に問題があったところが差動増幅の共通エミッター抵抗用定電流源が諸悪の根源だった。使用した回路はシャント型定電圧電源に使われるTL431を応用した定電流源だ。このICはパワーアンプで使用し性能がよさそうだったから今回初めてEQに応用してみた。ところがこのICはかなりのノイズを出していた。入力FETより定電流源が問題だったわけだ。そこで定電流源をもとのツエナーを使った定電流源にもどしたところノイズは劇的に下がり、ほぼ計算通りの-134-135dBVまで下がってくれた。計算では-136dBVだったからほぼ計算どおりの結果が得らえたことになる。これでノイズ問題は解決した。
 次が歪特性だ。こちらも最初測定したら1KHz、1V出力で0.01%を切らず、6922の場合より20dBも値が悪い。こちらもいろいろ動作点を変えても大きな変化がない。基本にもどりオープンループ特性が取り直してみて気が付いた。位相補正の値が悪く超高域でのNFB量が大分多いことに気づいた。すなわち歪が悪かったの超高域でアンプは発振していたのだ。位相補正を変えたらあら不思議20dBも値が減少し歪は0.005%以下まで下がった。
 これで基本特性は6922以上の性能が確保でき、初段JFETへの改造は成功に至った。今回使用したJFET2SK2881という物で秋葉原で¥40で購入できる。こんな安い部品でも高級アンプ並みの性能が得られた。また6922で気になってきたフリッカーノイズも少なく実測値で15dB位の改善が得られた。
 EQの改造がうまくいったのに気を良くしてヘッドアンプの改造も試みた。ゲインを少し上げ、ノイズをさらに改善することだ。内容は省略するがこちらもうまくいった。こちらは半導体は変更せず、回路定数のみの変更だ。
 MCの入力換算ノイズ-145dBVEQ出力1KHz1V出力で0.005%とこちらも素晴らしい特性を示してくれた。
 音質はもちろん良くなった。ノイズが少ないのがすぐわかる。以前はボリュームを上げるとフリッカーノイズが聞こえたが今回はかなり少ない。音質も細部が再生されるため、表現力も上がって、艶や響きなどが出てきた。またLPを聴くのが楽しみになってきた。
 今回の改造で分かったことは真空管をEQの初段に使うのには限度がある。もちろんどの程度まで性能を要求するかにもよるが、-130dBV以下のノイズ特性を要求するのには経年変化やバラツキを考えると無理があるように思える。JFETについては秋葉原でも安くて高性能のものが得られることだ。これは技術の進歩がすごい。
 秋葉原でもうまくデバイスを選べば高級EQに匹敵するアンプが作れることが分った。


 
 <JFETのノイズ計算2>
 2020年10月16日 

前回Δfneの算出方法を述べたが、式で書くと次のようになる。
 Δfne(1/A1KHz2)∫|Aeq2df
 微小範囲dfではノイズはゲインに比例するからゲインで計算している。
 AeqRIAAIHF-Aフィルタを合わせたゲイン。
 実際の値は先人たちが算出してくれている。

RIAA)+(IHF-A)のノイズ帯域幅
 Δfne3.48KHz
 大変重要な値でこれがないとEQのノイズが計算できない。先輩たちに感謝しよう。

 理論がだいたい分かったところで実際の回路を考えていく。式によればJFETのノイズを小さくしたいならばgmを大きいものを選べばよいことが分る。またJFETの入出力(IdVg)特性は2次関数と考えればgmはその微分値だから(Id=kVg2)
 gmVg∝√Id
 となりgmは√Idに比例する。しかしJFETを並列にすればgmは並列JFET倍だけ増えるから、トータル同じ電流を流すなら並列接続したほうがgmは稼げることになる。

 それでは実際に回路を考えていく。
 JFETはまた秋葉原の部品屋さんで探す。そうしたら面白いJFETに当たった。秋月電子のネットに出ていた2SK2881という物。資料を見たらいい特性をしている。
 Yfs=8mS(標準)(Vds=10V,Id=1mA
 となる。どのランクのJFETかは分からないが静特性を見ても1mA8mS位のgmは得られそうな物だった。これをパラ使いの差動増幅器(合計4個使い)を構成したらいけるのではと推測し、さっそく計算してみる。ノイズ等価抵抗は
 R2/3gm2/3(8*10-3)83Ω
 2パラの差動だとR83*(1/2)*283Ω
 ソース抵抗は前のままで330ΩにするとR83+330413Ω
 この抵抗値をジョンソンの式に当てはめると
 1.54x10-7 Vのノイズ値が得られる。これをdBV0dBV=1V)であらわすと-136dBVとなる。

 計算結果からみるとJFET 2SK2881のパラ使いの差動入力にしてみても目標の-130dBV以下に収まりそうだ。これでおおよそのノイズの目安は計算できる。ただこれはランダムノイズだけの計算だから6922で悩んでいたフリッカーノイズ(1/fノイズ)については分からず作ってみないと分からない。
 このノイズ値はEQアンプの入力換算ノイズに相当するものだから、アンプ動作後ノイズを測定し(Aフィルタ付き)1KHzのゲインで割れば確かめられる。

 このようにしてEQのノイズは計算していく。


 
 <JFETのノイズ計算1>
 2020年10月1日 

今回EQのノイズ改善をするため真空管6922からJFETに変更しているが、ただやみくもに変更している訳ではない。そこには当然ノイズの改善が見込める理由を予め用意してから実験をしていくことになる。今回のJFETへの変更に至る過程を書いてみたいと思う。
 まずはJFET入力回路のノイズがどの程度発生するかを知らなければいけないから、おおよそでいいから計算でノイズ量を推測していく。その前にノイズの理論を少し知っている必要がある。
 ノイズと言ってもいろいろな種類があるが、僕がEQで計算しているのは主に電圧性のランダムノイズについてである。白色雑音と呼ばれる周波数に依存しないフラットな雑音で回路では抵抗、半導体、真空管などで発生している。有名な理論はジョンソン雑音と呼ばれるもので次式で与えられる。抵抗があると熱雑音として発生している。

 E=√(4KTRΔf
 En:熱雑音電圧 K:ボルツマン定数 T:絶対温度(K) R:抵抗(Ω) Δf:周波数帯域幅
 詳しい説明はよそにゆずり、抵抗があるとノイズが発生しているということを表している。逆にみるとノイズは抵抗で表すこともできることを意味している。だから真空管、FETなどの電圧性ノイズ量は抵抗値(等価抵抗)であらわすことができる。またここで注意することはΔfという帯域幅はアンプで使われる-3dB帯域幅(パワーが半分)ではない。アンプの場合、帯域幅以外でも信号が存在しているが、ノイズの帯域幅というときにはそれ以上にはノイズが存在してない理想の帯域幅を想定したものである。
 このような理論の上でFETのノイズを考えてみると、すでに専門家がJFETのチャンネルで発生するノイズを理論的に算出してくれている。資料によるとノイズ等価抵抗R

 Rn=2/3gm (Rngm に反比例)
 これはジョンソンの式のRに相当する抵抗であり、ノイズ量を計算するには上記ジョンソンの式に代入して計算すればノイズ量が計算できることになる。
 さらにEQにおけるノイズはこのJFETと帰還回路に繋がれるソース抵抗からも発生し、これらは抵抗値を合計すればすべてのノイズ源となる抵抗が算出できることになる。
 それではEQにおけるノイズ帯域幅はどう考えればよいのか。これは僕も計算できなかったが、考え方は次のようになる。問題なのはEQ回路というのはRIAAの周波数特性を持っており、フラットな周波数特性でないこと。さらに通常ノイズ測定にはAフィルタというノイズ測定に使用するフィルタを使用するから、ますます周波数特性が複雑で計算で使用するΔfはどんな値になるかが分かりにくい。実はこれも先人たちが計算してくれている。
 考え方はこう考える。EQAフィルタ付き)のノイズ量を積分し、次に1KHzのゲインと同じで周波数特性がフラットなアンプを想定し、EQと同じトータルノイズ量になる帯域幅を算出する。この時得られたΔfneを計算上のΔfとして使用する。(1KHzのゲインで正規化)

 続きは次回。


 
 <EQ改造1>
 2020年9月16日 

以前からEQのノイズ改善のため改造を考えていたが、このコロナ禍で秋葉原に出かけるのも躊躇するなか、やっとネットで2つの店舗から部品を購入することにした。意外と簡単で(当然か)間違いなく、また素早い対応ですぐに部品が届き、ネットで買うのも悪くない。
 ところで秋葉原にある「キッチンジロー」がこの9月で店じまいするのを記事で読んだ。僕が若いころ秋葉原での販売研修や個人的な用事でも何度も足を運んだ店だ。安くてボリュームがあり、若かった僕には美味しい店の一つであった。今はその当時程の食欲がないから訪れていなかったのだが、いざ店じまいと聞くと大変寂しい。秋葉原も大分変わってきて、また昔の思い出が消えていく。
 話をEQにもどす。僕のバランス型EQのノイズ特に初段真空管6922から出るフリッカーノイズ(1/fノイズ)を減らすために改造を計画した。初段を真空管からFETに変更する計画だ。原理的には電圧の変更は必要だけど基本的な回路構成は大きく変更することなくできそうで、2段目以降はそのままで使えそうだった。
 部品を発注し、初段回路を再配線し通電してみた。まずは発振した。これはNFなしでも発振している現象で、カスコードに使われるベース接地回路が発振している現象だ。これはこれまで何度も経験しているので対策はすぐにとれた。無事回路が動作し簡単に特性を測ってみた。まずはノイズを測る。さすがFETでフリッカーノイズはない。きれいなランダムノイズ(白色ノイズ)だ。しめしめ思ったとおりだ。そしてノイズ値の測定。入力換算ノイズを計算すると、なんと予想より15dBから20dBも悪い。何度も測定しても同じ。フリッカーノイズは出てないけど、白色ノイズが理論通りに下がっていない。6922のときより悪い。何故?とりあえず次に歪を測定する。これも6922より一桁歪が多い。改良の予定で始めた変更が改悪になってしまった。すでに6922のソケットも取り外してしまいもう改造前には簡単にもどれない。ああどうしよう。これが今回のバランス型EQの改造のスタートだった。
 今もまだEQの回路検討が続いている。意地でも6922の時より特性を改善したい一心で続けている。白色ノイズの悪化についてはその原因は分かってきた。以外なところに原因があって回路を変更した。今は歪の改善に取り掛かっているがまだ良い結果が得られていない。失礼な言い方かもしれないが今回の悩みはかなりハイスペックなところでの悩みなのだ。ノイズは入力換算-130dBV以下だし、歪も0.01%以下での話だからかなり回路的には追い込まないと実現できない話だ。最初は簡単な変更でEQを改良できると踏んでいたが、今となっては本格的に腰を据えて検討しないといけないと思っている。
 これではどうしても秋葉原に行かないといけないかなあ。
 この顛末今後も報告しますね。



右上の基板上の回路が今回改造した回路。その下の基板は以前の回路。

 
 <RIAA偏差>
 2020年9月1日 

今回の話はEQアンプのRIAA偏差について。最近EQもバランス型が発売されてきてそれに反応したくなる。TEACからPE-505というバランス型のEQアンプが発売された。僕としてはバランス型EQの推奨者であるからすぐに反応した。内容を読んでみると、MCにはバランス入力対応でMMはアンバランス入力対応となり、以前に紹介したアキュフェーズのC-47と同じ仕様になっている。なぜMMはバランス対応にしないのかがこれも不明で、何か理由があるのかしら。それはさておき今回注目したのがRIAA偏差の項目だ。この仕様がすごい。RIAA偏差が±0.05dB20Hz20KHz)となっていて僕がこれまでみたRIAA偏差のなかでは最上位に属するものだ。そこでまたお節介にもこの仕様がどうすれば実現できるか考えてみた。
 部品を組み合わせて製品を組み立てるとき累積公差の計算というものがある。
 組み立て後の公差σ、部品の公差σ1、σ、σ・・・・とすると(σ:シグマ)
 σ=σ+σ+σ・・・・となり、累積公差は分散値で計算する。
 ただしこれらの部品のバラツキは正規分布している条件で、この時得られたσも正規分布となり標準偏差(±1σ)では68%の歩留まりを占めていて、通常、工業製品ではスペックをこれの3倍にして±3σ(歩留まり99.7%)とするのが普通である。
 このような考え方で±0.05dBを実現するにはどの程度の部品の精度が必要なのかを考えてみる。0.05dB10進数に直すと1.00577となり、誤差は±0.58%となる。
 RIAA偏差に影響する部品はRIAAカーブを構成する4つのCR部品があるが、20Hz20KHzの帯域を考えた時、変化する周波数ではだいたい2つの部品の組み合わせでゲインが決まっている。またこの回路はバランス型であるからホット・コールドそれぞれNF素子を持っているから合計4つのCR部品がRIAA偏差に影響すると考えられる。この条件で±0.58%の誤差の製品を作る時にどの程度の部品精度が必要かを逆算してみる。4つのCR部品の精度が全て等しいと仮定して計算すると、
 0.005824σ2 よって、σ10.0029となる。すなわちCR部品の精度は約0.3%が必要と計算できる。もしこの部品が3σの歩留まりで製造されていれば、EQアンプも3σの精度で製造できる。しかしこの部品がトリミングとか選別して作られていたら、EQアンプはσ分68%の歩留まりになり、部品の精度をさらに上げるか、または回路の選別、調整をしなければならなくなる。この±0.3%の部品はおそらく高いものになり、どのような方法でRIAA偏差の精度を保っているのかが興味あるところだ。
 ちなみにアキュフェーズのC-47 も計算してみた。こちらの偏差は±0.3dBである。同じように計算してみたら部品精度は±1.76%と計算された。こちらもどんな対策をとっているのだろうか。
 僕が普段入手できる部品精度は抵抗でF(±1%)程度、フィルムコンデンサでG(±2%)程度である。±0.05dBの偏差は如何に大変なスペックであることが分る。
 余計なお世話で製品スペックの実現性を考えてみた。これもコロナ禍のステイホームからくる時間の過ごし方でした。


 
 <修理終了>
 2020年8月16日 

前回紹介したパワーアンプの修理は無事終了した。こちらが勝手にアップグレードしてお返ししたアンプはお客様のお部屋でもすばらしい音を出してくれた。全体的に無駄な音がなくなり、音の伸びも良くなったと感じた。その後の使用でも気に入ってもらえ安心したところ。アップグレードして良かった。
 ところで今回の修理では出力管EL-34をネットで注文した。まだ秋葉原に出かけるのを怖がっているからだ。今回は秋葉原の真空管専門店にこのEL-34のペアを2組ネット注文した。僕の性格からすると実際に物を見ないと信用しないから、どんな真空管が送られてくるか心配だった。いく種かのEL-34が発売されていたので比較的高いものを選び、あとで後悔しないように慎重に選んだ。注文したのはEL-34TUNGSOL)というものだ。
 送られてきた真空管でアンプを測定してみたら、それが素晴らしいものだった。プッシュプルアンプでは2つの出力管の特性の揃いが歪特性に影響する。慎重に動作確認しながら最後に歪特性を測定してみたら、きれいな歪波形で値も1W、1KHzで0.01%を切る素晴らしい特性を両CHとも示してくれた。これはもちろんアンプ回路も重要だが、ここまで下げるにはペア出力管の特性がそろっていないと難しい。今回はお店の方が特性の良く揃ったEL-34 を選んでくれたお陰だった。最初は心配したがそれは杞憂だった。お店の選別がよいのかTUNGSOLの選別が良いのか分からないが、ここまで揃ってくれれば文句はなく、これまでの経験のなかでもすばらしく特性のそろった出力管であると思う。

 これなら秋葉原にいかなくてもアンプ作業はできるかもしれないと思いはじめた。
 今は6922バランス型EQアンプを改造しようと計画している。以前このコラムで6922のフリッカーノイズについて書いたが、真空管を交換してノイズは良くなったが、これはまだ完全ではなくボリュームを上げていくと幾分聞こえてしまう。やはりこんな特性で音を聞き続けるのは納得できないから、この際6922FETに変更しようと思っている、もうすでに回路や配線図が出来ていてあとは部品を集めて作業を始めるところまできている。しかしここにはコロナ禍が立ちはだかっていて秋葉原に買い物に行けないものだから、これは個人的考え方ではあるけれど作業が止まっていた。
 今回EL-34 の経験からして別に物をみないで部品を発注しても問題ないじゃないということが分ったので、ネット注文で部品を集めてみようと思う。
 これができたらまた報告しますね。
 ところでこれを書いているのは15日4時なのだが、ちょうど「村上RADIO」が流れている。

どんな曲を流してくれるか楽しみだ。


 
 <15年ぶりのアンプ修理>
 2020年8月1日 

コロナ禍のなか、アンプ修理の依頼が飛び込んできた。1516年前に設計したパワーアンプだ。お客様とメールでやり取りするのも久しぶりのことでちょっと懐かしさもあった。故障症状はフューズが切れ、音が出なくなってしまったということだった。懐かしさもあり取りあえず僕の方から出かけてアンプを見ることにした。久しぶりにご本人と私が設計したアンプとご対面となった。ご挨拶と近況報告を済ませたあと、早速アンプの症状を見させてもらった。用意したフューズを付け替えアンプのスイッチを入れたら、すんなり電源は入ったものの、そのうちバリという大きなノイズが出てきた。これはもう出力管の不良と直感しすぐに不良確認はやめた。これは持ち帰って本格的に修理するしかない。このあとは僕があらかじめ用意しておいた代わりのアンプを接続しとりあえずの装置として使用してもらうことにした。その後はもう修理の用件はないので、近くのイタリアンレストランでおいしいランチを食べ久しぶりの再会を楽しんだ。
 家に持ち帰ったアンプは予想どおり出力管(EL-34)の故障だった。15年も使っていれば何等かの症状は出てくる。アンプ内部の配線を見ると意外ときれいに配線してあって、自分でも覚えていない。ただ回路や配線やレイアウトを確認してくるにしたがってその当時の考え方がわかってきた。自分が設計しているのに、内部を見て他人の設計を評価するような感じだ。次第に回路、配線を直したくなってきた。修理は出力管の交換で済むのに、現在正常に動作している回路までも変更しアップグレードしたくなってきた。15年前の設計より今の方が進んでいるからと自分では思っている。お客さまは今のアンプを気に入ってもらっているが、一方修理は任せると言ってくれているので、だまって変更してしまおうと決心した。そのままお返しするのは僕が気に入らない。絶対音は良くなっていると信じていて、これでまた新しいアンプに生まれ変わる。これがオーダーメイドのアンプの良さと信じているからだ。
 定電圧回路を変更し電源インピーダンスを下げ、配線も音の良い配線法に変更した。真空管はネットで注文した。秋葉原に行くのが怖いのだ。横浜から電車に乗って人通りの多い秋葉原に行くのを躊躇している。年寄りの心配性かもしれない。
 変更はすべて終わり、今は最後の調整にかかっている。出力管のバイアス電流の動きをしばらく確認し、さらに音を確認してお客様にお渡しする予定だ。
 今回の修理は久しぶりにお客様との再会のきっかけを作ってくれた。向こうもこちらのことが気になっていたらしく、アンプの故障が久しぶりの再会のきっかけを作ってくれたと言ってくれた。
 アンプの故障も悪いものでない。


 
 <中古レコード再生>
 2020年7月16日 

「村上RADIO」を聴いて以来、昔の音楽特に若かったころの音楽を聴くのもいいものだなあと思い始めた。それも歌謡曲でなく洋楽と言われるもので小学、中学の時代にそれとはなしに聴いていた洋楽になつかしさが感じられ、純粋に音楽を楽しめる気分になる。その音源もCDでなくアナログレコードで聴くのがさらに雰囲気が出る。もうノスタルジーで音楽を楽しむ気分だ。そんな気分のなか、いただいたレコードを聴いたり、中古レコードを購入したりしている。「ペレスプラード」のラテン音楽などははまってしまった。まともにオーディオ装置で聴くのは初めてなのだが、いつ聞き覚えたのか定かではないけれど、ほとんど知っていて聴いていて楽しい。

これからちょっとオーディオの話に移る。中古レコードを買うとその保存状態が悪いのがある。一応買う時に状態をチェックするのだが、(店員さんは検盤と言っていた)大きな傷がなければと思い購入してみた。(MJQの古い録音)とりあえずレコードクリーナーで拭いて針を落としてみたのだが、途中で大きなブツというノイズは発生するし、針飛びは頻繁に起こるしまともにトレースできない。まずはレコードの掃除から始めた。ネットで調べたら水洗いする人もいるし、機械を使って洗浄する人もいるようでその中で安上がりな方法を選んでみた。それはアルコールを精製水で薄めて霧吹きで吹き付けガーゼで拭きとるというものだ。これは結構効果ありそれに材料費は安い。ただ今はコロナ騒ぎでアルコールが入手困難なようだ。ところがこれで問題は完全に解決しなかった。
 特に汚れの悪いMJQのレコードはきれいにトレースできる時もあるし、ときどきブツ音が出るときがある。特定場所によらず雑音が出ている感じだった。そこでカートリッジの動きをしばらく見ていたら、驚くことにカートリッジ(アーム)が共振していて左右に揺れている時があることを発見した。何故?常に起こるのではなくスムーズなトレースをしているが時々左右に急に揺れだす。これは別の原因だと調査した。
 結論から言うと次のことが推測された。使用していたカートリッジはGRADO Prestige BLUE1というもの。このカートリッジの特長は周波数特性が伸びている。スペック上55kHzまで伸びている。だからハイコンプライアンスでスペック上20x10-6cm/dynedynecgs系の力の単位)ちなみにDENON DL-1035x10-6cm/dyneだからそれに比べGRADO4倍の柔らかさを持っている。多分ダンパー効果も小さいと思われる。
 レコード再生を見ていると、カートリッジの動きは針先を支点に片方に重りをつけた「片持ち梁」の構造をしている。この「片持ち梁」の共振現象が起きていると考えられた。では何故起きていたのか。調べてみるとアームの共振は10Hz位にしてあるそうだ。オーディオ帯域に入らず、かつ回転周期からの影響を少なくするためだ。ところが今回僕がこのGRADOのカートリッジではアームの質量は昔のアーム(DA-305)に取り付けた場合、共振周波数が半分に落ちてしまってちょっとしたレコードの傷の影響でアームが共振してしまったと思われた。たぶんQも大きくなっているのだろう。せっかく素晴らしい特性を持つGRADOではあるけれど、僕のアームではその実力が発揮されていないということだった。おそらくこのカートリッジの実力を発揮させるためには炭素繊維で出来て、ヘッドシェルと一体になった軽量アームが良いと思われる。最新のカートリッジには最新のアームの組み合わせということだ。案の定カートリッジを昔のもの(Pickering MODEL381)に取り換えると問題なくトレースしてくれた。
 今回の共振現象を理解するためにまた昔の物理が必要になった。オーディオにも最後は数学、物理が必要になり苦労する。機械振動を調べるとその要素のなかに質量、バネ定数が出てくる。今回の調査でコンプライアンスがこのバネ定数の逆数であることを初めて知って内容が理解できた。この歳になっても知らないことが多すぎる。(当たり前か)

 はじめは古いレコードの再生から始まったがレコードクリーナーとか共振とか新しい知見が得られたのは面白かった。


 
 <アナログの話題>
 2020年7月1日 

アナログと言ってもEQ、レコードプレーヤーの話。前々回のこのコラムでカートリッジの調整の話をしたが、このところこのアナログレコード周りをいじっている。今回はその話題3つを紹介する。

これも以前このコラムで書いたことだがEQから異音のノイズが出て調べてみたら半田不良だったという大変お粗末な結論だったが、中身ももう一度メンテしてみようとEQの電源回路をバージョンアップした。定電圧回路の誤差増幅部をカスコードにして高域の特性を良くした。ところがEQの特性を確認してみたらノイズが以前より悪くなっていた。これは電源の変更からくるものでなく、初段真空管のフリッカーノイズ(1/fノイズ)が設計当初に比べ大分増えていた。このEQはバランス型のEQ2013年に完成していて7年経過していた。どうもこの経年で初段6922が劣化してしまったらしい。特に片チャンネルの劣化がひどくなっていた。秋葉原に行くこともできず、そこでネットで違うメーカーの6922を取り寄せた。しかしながら新規真空管でもフリッカーノイズの特性はそれほど良くなく、またバラついていた。取り換え前よりは特性は良くなっているものの、フッリカーのため値がふらつき理論値まではいかない特性だった。どうも真空管のフリッカーノイズは特性的に新規でもバラつくし、経年劣化も起こるようだ。今の半導体を考えると真空管のノイズ特性はどうかなと思い改造を検討し始めた。

今月のMJ誌にはアキュフェーズの新しいEQアンプC-47が紹介されている。そこに載っている回路図をみると、これがバランス型のEQで、その回路は僕が設計したバランス型EQと同じ入力、負帰還方法をとっていた。非反転型の差動入力アンプだ。これがシンプルでノイズもよく特性も取れる。これまでのメーカー製のバランス回路はアンバランスアンプを2つ使っているものが多く、完全にバランス回路を採用しているところは少なかったし、非反転バランスアンプはさらに少ないように思う。今回アキュフェーズが僕と同じアイデアで新しいアンプを発売され、仲間できたと喜んでいる。しかしながらこの製品MCはバランス対応なのに、MMはアンバランスのみという。回路はMMもバランス回路でできているのに、何故アンバランス仕様なの?これは企画がアンバランス。

カートリッジをいじっていたら、今度はレコードプレーヤーも変えてみたくなった。そして中古製品を調べてみると、どうもオークションが安いみたい。ところが僕はこれまでオークションで物を買ったことがない。もちろん入札などしたこともない。
 どんなものかとレコードプレーヤーのオークションの様子を見ていると、終了時間の間際に急に値上がりし、最後は時間延長して競り合うようだった。もちろん僕は怖くて入札などできなかったが。それが適正な価格なのか、中古でも大丈夫なのかと気持ちの弱さが先に出てしまった。皆さん度胸あるなあと、プレーヤー問題もどうしようかと悩んでいるところ。誰か安く譲ってくれる人ありませんかね。


 
 <村上RADIO>
 2020年6月16日 

コロナウイルスの影響で僕もこもり生活を続けている。以前より緩和されたがまだ人込みの中に行く勇気はない。家ですることは限られているから村上春樹の本を読んでいる。「騎士団長殺し」は読み終え、今は「1Q84」だ。特に春樹ファンではないが、女房が文庫本を買ったのでおこぼれを読んでいる。全部で10巻あるからまだ楽しんでいる。そうしたら今度は女房がFM放送で「村上RADIO」という音楽番組があるからそれを聴けるようにしてほしいとせがまれた。普段僕は作業しているときには小さな古いラジオでNHK FM放送を聴いている。しかしそれは音質的にはかなりひどいものでただのラジオの音質だ。今回は村上春樹の番組だからきちんとした音で聴こうとFMチューナーをセッティングし直した。FMチューナーは40年位前の設計のソニーST-JX8というもの。これは僕の同期入社のK君が設計したものだ。当時出始めたばかりのシンセサイザー式で使い易さも良いが、SN90dBもあり素晴らしい特性をしていたチューナーだった。当時FMチューナーのSN75dB程度だったのがこのモデルの一つ前のST-J75というモデルで90dBまで性能を上げた。この15dBの違いは音質に非常に影響し、僕の記憶の中で鮮明に残っていた。そんな素晴らしい製品も40年も経てば劣化や故障は出てくる。さてきちんと動くのだろうか。
 最初スイッチを入れ音を出してみた。受信は出来るがステレオにならない。ステレオモードにするとミューティングがかかりまともな動作が出来ていなかった。いくつかの放送局も同じ症状だった。いろいろいじっていたら次第にその原因が分かってきた。一番の原因はチューニングがずれていたことだ。僕の家ではTV,FM放送はケーブルテレビのJCOMを使っている。FM放送の周波数割り当ては通常の放送周波数と異なった周波数が割り当てられている。この周波数割り当てが実は2回も変わっていた。以前に割り当てられた周波数にチューニングすると100KHzずれていることが分ってきた。すべての放送局をチューニングし直し、それらの放送局をメモリーに再設定し直したら無事ステレオ放送が聴けるようになった。ただNHK FMだけは過変調気味で音がすぐに割れてしまう。しかし別の周波数に同じNHK FMが割り当てられていたのでこちらは過変調もなくきれいに聞こえるようになった。
 40年近い古いFMチューナーは基本動作では何一つ問題なく動作してくれた。

 「村上RADIO ステイホームスペシャル」(5/22 TOKYO FM)は久しぶりにFM放送を大きな音で聴いた。良かった。今回はコロナ禍の影響で村上氏のご自宅の装置を使って配信し、それにソースはアナログレコードも使っていたようだった。それでも90dBSNに十分満足できる音質で届けられたし、また内容も良かった。古い洋楽だがその多くはオリジナルではなくカバー曲なのだが、その選曲がすばらしくこじゃれた編曲が多くて僕の好みにも合っていたし、彼のDJも原稿読みでなく、彼の経験からくる知識で説明してくれるので楽しい話が満載で久しぶりに楽しい音楽番組だった。

 村上春樹の音楽知識は半端なく以前読んだ小澤征爾との対談では、小澤の知らない演奏者の話をしていたのを覚えている。ジャズも詳しいし今回の選曲のセンスもすばらしく、たぶんそれはすべてご自分のコレクションからの選曲だろうから、その知識の膨大さはまさに半端ないと思われた。


 
 <カートリッジ調整>
 2020年6月1日 

今回はアナログレコードの話。先日LPを聴いていたら右チャネルからボソボソというノイズが聞こえてきた。これは真空管の初速度ノイズ(グリッド電流のノイズ)かと思い、久しぶりに自作バランス型EQの中身を空けてみた。恥ずかしい話結果は半田不良でこのノイズは直った。そしてまた試聴をしていたら今度はどうもレコードの外周と内周では音の定位(位置)が違っているように感じた。内周になるほど定位が左によってくる。これはおかしいと思いカードリッジを調べてみることにした。針圧は合っているし、外周と内周で変わるものといえば・・・・・。トラッキングエラーかな?
 トラッキングエラーとはカートリッジの針がレコード溝の接線に正しく乗っていないこと。エラーがあるとL,Rの信号が正しく出ない、歪むのではないか。
 早速調べてみた。やはりトラッキングエラーは歪などの問題を起こすとか書かれている。また調整の仕方も参考になった。そこで自分なりにトラッキングエラーの調整をしてみた。
 写真にあるようにトーンアームの取り付けテンプレートがあったのでそれを利用した。これにはレコード穴から直線が描かれている。この半径方向の直線に合わせてカートリッジを並行に取り付ける。注意することはヘッドシェルを合わせるのではなく(ヘッドシェルは動かない)その下に取り付けてあるカートリッジの向きを正しく接線に平行に取り付けることだ。ヘッドシェルとカートリッジの取り付けはかなり問題がある。だいたい2つのねじで取り付けるが、この時カートリッジが並行に取りつかない。どうしてもねじ締めモーメントで少し右に回転してしまう。僕が使っていたカートリッジも右に回転していた。この取り付け向きをレコードの外周と内周でほぼ平行になるように調整してネジ締めをしていく。この時いきなり強く締めるとまた回転してしまうから少しずつ2つのねじを締めていくのが良い。ここでもまた別問題もある。カートリッジとアームを結ぶリード線が邪魔してわずかな調整を妨げている場合もあるから注意。
 トラッキングエラー調整後の効果は抜群だった。カートリッジが別物に変わってしまった。定位問題は全くなくなり音が左右に広がり、奥行きも出る。音も柔らかくなりLPのすばらしさを再認識させてくれた。
 アナログレコード愛用者は通常針圧までは調整するとしてもトラッキングエラーの調整までする人は少ないと思う。ところがこのトラッキングエラーの調整が音を大きく左右する。是非アナログ愛好者はトラッキングエラーの調整をすることを強くお勧めする。僕の場合テンプレートを使用したが、方眼紙か何かにご自分で直線を引き、円の中心が線上にくるように穴を開けてプラッターの上に置き、それに合わせてカートリッジの取り付け向きを調整すれば良い。調整は内周(60mm)外周(120mm)位の位置で両方ともほぼ平行になるようにすればよい。僕はカートリッジの針カバーの縁を半径方向に合うように調整した。できたらその前にオーバーハングの調整もした方が良い。
 今回の調整は正しくアナログそのもので、取り付けによって音が大きく変わる面白い経験だった。皆さんも試してみて下さい。

写真左:レコードの中心から1本線を引いたボール紙(方眼紙)を用意する。
写真右:カートリッジに付けた針カバーの縁をその直線に並行になるように合わせる。内周、外周とも合わせるようにして取り付けネジを締める。。
こうすると音が抜群に良くなる。

    


 
 <電子ボリューム番外編2>
 2020年5月16日 

今回はアキュフェーズのAAVAについて考えてみる。すでに高級機に採用され評判も十分あるので今更僕が述べる事柄ではないかもしれないけれど、今回の僕の考察で分かったことを述べてみたい。
 基本回路は電圧・電流(VI)変換アンプに16種のゲインの重み付けを変えたアンプで構成されている。その16種のVI変換アンプは1/21/41/8・・・・・1/216の重み付けになっていて、それらの電流アンプ出力をボリューム値によって加算する回路になっている。(詳しいことはアキュフェーズの資料をご覧下さい。)
 この電子ボリュームは直線性、ノイズ性能が良い。ただし回路的には大掛かりになっている。今回はノイズについて検討すべく、16種のアンプが動作したときどの程度のSNになるのかを計算してみた。
 この回路でボリューム最大の時の動作は、入力Vi,出力Voとすると
 Vo=Vi1/21/41/8+・・・・+1/216-----
 入力ノイズVni、出力ノイズVnoとすると
 Vno2(Vni)2{(1/2)2(1/4)2(1/8)2+・・・・+(1/216)2} 
      =(Vni)2{1/4(1/4)2(1/4)3+・・・・+(1/4)16}------

   式、②式は等比級数の和の公式を使うと計算できる。
 VoVi{1-(1/2)16}/2(1-1/2)1/1=1   ゲインは1となる
 (Vno)2/(Vni)2{1-(1/4)16}/4(1-1/4)1/(4-1)=1/3
 Vno/Vni1/3

 この計算によると16個のVI変換アンプが全部動作している状態だとゲインは1、ノイズゲインは√3分の1になるから、ノイズとして4.8Bの改善がなされている。

 しかし、ボリュームの位置によってはVIアンプは1個しか動作してない場合もあり、この時はアンプの並列動作によるノイズ改善は見られないから、多分ボリュームの位置によってS/Nは変化(0dB4.8dB)しているのではと想像している。しかしこのゲイン可変型ボリュームコントロールは本質的に信号ゲインとノイズゲインが同じだから、ボリュームを絞った時にも一般的な減衰型ボリュームに比べ信号を絞ったときのS/Nがすぐれていて、例えVIアンプが1個動作のときでも実用状態でのS/Nは減衰型より良くなっている。
 まとめると、AAVAはボリュームの位置によりS/Nの量が変化している。しかし原理的に信号を絞ったときにもS/Nが悪化しない良い特性を持っていると言える。
 これが僕のこの回路に対する評価だ。ただたくさんのアンプ回路が必要だしどうしても高級機になってしまう。これも実際の回路をみるとボリューム回路に大きな容積を占めている。

AAVAの解析にあたり久しぶりの数学の公式を使用した。高校1年生で習う公式だったように思う。まさかオーディオ回路の解析でこんな公式が使われるとは思いもよらなかった。「等比級数の和」の公式についての詳しい説明は別のサイトで調べて下さい。
 また僕のサイトにも
「減衰型とゲイン可変型プリアンプのS/N比較」も参考にして下さい。


 
 <電子ボリューム番外編1>
2020年5月1日  

今回は電子ボリューム番外編1をお伝えする。新しい回路を考えるとき、これまでどんな回路があったのかをネットで調べ、その特徴、特性などを考察して自分の要求にあったものを考えていく。今回、このような手順のなかで知ったオーディオ界ではすでに商品化されている二つの電子ボリュームについて述べてみたい。サイトの中では詳しい説明はないので、僕の推測領域だけの話となり、誤解や誤認識もあるかもしれないけれどそこはご容赦願いたい。
 その二つの電子ボリュームとはラックスマンの「LECUA」とアキュフェーズの「AAVA」である。このふたつの回路を考察してみた。

LECUA」について
 この電子ボリュームは2つの抵抗からなる抵抗減衰器(LパッドATTと呼ばれることもある)を減衰量に応じて半導体スイッチで切り替える方式である。アマチュアでも多接点のロータリスイッチに抵抗を半田付けし最小2dB位のステップで減衰量を可変できるものと原理的には同じである。それを電子的に切り替えるような回路になっている。
 初期のころの「LECUA」をみるとこのLATTが粗い(12dBATTと細かい(1dBATTに別れ、それらが直列につながれている。すなわち減衰量=粗いATT値+細かいATT値となるような回路である。ところが抵抗2つで構成するLパッドATTの直列回路は原理的に直線性を保つことはできない。直列に繋がれた回路がお互いに影響しあい繋がれるATTの種類(値)によってATT量がずれてしまう。もしこれを避けるためには2つのLパッドの間にバッファ回路を設けるか、T型(あるいはπ型)ATTを用いなければ直線性は保証されない。多分それを避けるために、細かなLパッド減衰器の抵抗値を大きくして直列の影響を少なくすることをしているのではないかと想像している。ところがこの減衰器を高抵抗で構成すると使用時のノイズが大きくなり音質的にも良い方法とは言えないのではと考えている。(ただしラックスマンがこの方法をとっているかは知らない)この初期の「LECUA」は直線性とノイズのバランスをとる必要があったのではと思っている。
 ところが最近の「LECUA」は回路が変更された。直列回路がなくなり全並列Lパッド減衰器を半導体スイッチで切り替える方式に変更された。機械式と同じ形になり、接点数は72ステップになっていて半導体スイッチが大幅に増えている。この回路の特長は初代の欠点がなくなり直線性は保たれ、抵抗の制限が緩和されノイズも良くなっていると思われる。大幅な半導体スイッチの増加が必要となるものの減衰器としての基本性能は上がっている。
 内部写真をみるとこの電子ボリューム回路が多くの体積を占めていてプリアンプだか電子ボリュームアンプだか分からないくらいだ。
 次回、アキュフェーズの回路の話をしよう。


 
 <電子ボリューム2>
 2020年4月16日 

最初電子ボリュームの構成を考えたとき、抵抗値を切り替えて作れないかと考えた。どういうことかといえば回路で必要な抵抗を最小値から最大値まで切り替える方法のことだ。これは直ぐに無謀であることが分った。あまりにも選択する抵抗値の種類が多すぎてスイッチの数が多くなり良い方法ではないことが分ってきた。
 次に考えたことは、信号の減衰量で切り替える方法だった。たとえば減衰量をdBで表しているように1dBごとに制御できる回路にすることだ。直線(リニア)値ではなく対数値で制御したほうが少なくなるのは当然のことだが、最初これに気付かなかった。実際世の中の抵抗型の電子ボリュームはほとんどが減衰量で制御しているのは当たり前のことだとやっと気が付いた。
 この先電子ボリュームの経過報告を続けるのには紙面が少なすぎるから途中を割愛するが、最終的には下図で示されるような回路になった。
 T型抵抗減衰器をホット・コールド間で接合させたH型抵抗減衰器になっている。この抵抗減衰器の特長は入力インピーダンスと出力インピーダンスが同じ値になっていて、さらに左右対称で上下は平衡になっている。回路はR1R2の抵抗とアナログスイッチで構成され、それぞれのユニットは0dB-1dB-2dB・・・-7dB8種類と0dB-8dB-16dB・・・---64dB9種類の減衰器を用意する。この対称型抵抗減衰器は直列につなげても互いに影響せず直列減衰量の足し算ができる回路となっている。例えば-20dBをつくるには-16dB-4dBの減衰器を直列につなげればよい。よってこのユニットを組み合わせれば0dBから-71dBまで1dB毎に可変できる抵抗減衰器がつくれることになる。
 この回路にすれば直線性は保たれる。ノイズに関しては入出力インピーダンスの選定による。ホット・コールドそれぞれ4.7KΩにすれば計算によれば-119dBV程度になると予想されるからまあクリアできる。また回路はホット。コールドの平衡性は最初から保たれているので平衡のエラーは生じない。またグランド基準でないので理想的。唯一の欠点は電圧ロスがあることだ。最小でも6dBの電圧ロスが生じてしまう。しかしもともと減衰器を設計していて、実際にはもっと減衰して使用されるので実害はない。スイッチの数はいろいろな回路を考えてみたがどれも百個以上のスイッチは必要となるので大きなデメリットにはなっていない。アナログスイッチのON抵抗はもちろん小さいほうが良いのだが、減衰器のT1の値にRonの値を考慮して決定すれば誤差は少なくなる。

 今は回路図やエクセルでの抵抗値の計算もすみ大体の回路が出来あがった。
 このスイッチ群を制御するマイコンについては秋葉原で入手できるArduinoあたりを考えてみた。ハード、エディタ、コンパイラ、log計算のライブラリも用意されていて使い易そうだ。周辺回路にはシフトレジスタが他に必要となる。

 新型コロナウイルス騒ぎのなか、暇つぶしにバランス型に相応しい電子ボリュームを考えてみた。しかしながらこれらを作る工数、費用、効果などを考えてみるとまだトライする気にはなっていない。




 
 <電子ボリューム>
 2020年4月1日 

このところ新型コロナウイルスの影響で外出を控えている。そのため家で時間をつぶすことをしなければならなくなっている。そこでいくつかの家の用事をした。去年の台風で傾いた塀は工務店さんに修理してもらったのだが、修理した木材部分がそのままになっているので木材保護のため塗装をした。さらに庭に苔の種をまいてみたり、また猫侵入防止のためのバリア機の修理をしてみたり家の用事をしている。それでもバリア機などは部品がないのでまだ完全には直っていない。
 今しているのは電子ボリュームの設計構想である。紙と鉛筆とパソコンがあればできるのでお金がかからず時間も費やすことができる。数年前に設計したバランス型のラインアンプは良い音なのだが、音量を絞った時左右のバランスが少しずれている。ボリュームの位置が8時くらいのときだ。それより音量を上げれば問題ないのだが小さい音で聴いている時ちょっとずれる。原因は使用している可変抵抗器のギャングエラーと言われるLchRchのボリュームの抵抗値のバラツキによるものである。これを直すにはLR特性の揃った可変抵抗器が必要だが、通常のボリュームでは20%位の印刷抵抗の誤差があるから揃えるのは難しい。そこでこの部分を自作てきないかと構想したみた次第。

 電子ボリュームを作る上でいくつかの条件がある。
 1、能動素子を使用しない。抵抗とスイッチだけで構成する
 2、回路はバランス型に対応する
 3、直線性は1dBステップ程度
 4、歪、ノイズ(熱雑音)を考慮
 5、できたら電圧ロスのない回路にしたい
 6、できるだけ回路規模(スイッチの数)は小さくする
 7、スイッチは秋葉原で入手できるアナログスイッチかフォトリレーを使用

 回路制御にはマイコンを使用するがここにも制約がある
 1、秋葉原で入手できること
 2、エディタ、コンパイラ、ライターなどが容易に入手できること
 3、ライブラリソフトが豊富にあること
 4、AD変換機能が付いていて小型であることなど

考察してみたらいろいろ条件が付きすぎて自縄自縛の状態になってしまった。それでも暇だしまた考えるのはタダだからいろいろ考察してみた。
 これが意外と難しく未だまだできていない。
 次回にまたこの続きを。

そういえばこのコラムも2019年分はやっと一つにまとめました。


 
 <新型コロナウイルス>
2020年3月16日 

このところニュースの話題はもっぱら新型コロナウイルスでもちきりだ。これまで経験したことのないパンデミックという世界的な流行まで広がってしまい、今後世界はどうこれに対処していくのか不安もある。またこれによる経済的な影響も計り知れない状況にある。
 僕の人生のなかで10年くらい前までは、世の中が不安になったということはほとんどなかった。ひと昔前、経済は右肩上がりで自分の生活レベルが上がることも実感でき、仕事も新しい製品をどんどん開発できる状況であった。それに世の中が今のような不安になるようなことはなかったと思う。もちろんベトナム戦争とか東西冷戦とか全く安心できる世の中ではなかったけれど、それでも少なくとも自分自身にそれが直接及ぼすことはなかった。

しかし9年まえの東日本大震災あたりから状況は変わってきた。それまで経済発展は良いことだと全国民頑張ってきたのに、最近は行き過ぎた経済発展の影響でそこらじゅうに歪が生じている。

東日本大震災では原発事故による放射線漏れの恐怖を味わった。原発は安全だという神話はこれで完全に壊れてしまった。経済中心に政策を進めた結果、GAFAなどの巨大企業が生まれ大きな格差が生じている。人とモノの移動を自由にして経済を大きくしようとしたEUは難民問題で行き詰っていてイギリスはついに脱退した。また経済発展は地球温暖化をもたらし日本にも大型台風の影響を嫌というほど見せつけられた。さらに世界のサプライチェーンを中国中心にしてきたらこんどはウイルスまで拡散することになってしまった。

今まで述べた災難はすべて経済中心の政策を各国がとってきたために世界共通の問題として我々の前に現れ始めた。何か我々の行いが正しいのかもう一度見直せとでもいいたげな感じである。昔はそこまで地球規模でものを考えなくても良かったのが今は情報にしても物にしても人にしても自由に安価に移動でき、問題が起きた時その規模が昔より大きくなっている。

経済とは何ぞや。儲け至上主義でいいのか。僕らの経済活動は正しいことをしているのか。何か行き過ぎたことをしてないか考えさせられている。


 
 <観る音>
 2020年3月1日 

2週間ほど前、僕の友人が出ているアマチュアオーケストラの定期演奏会を聴いてきた。この時でも新型コロナウイルスによる影響を受けていて、通常の演奏会より少なめのお客様で演奏者には残念な入りだった。しかし演奏の方は素晴らしく最近の中では一番楽しめた演奏会だった。
 演目のメインはラフマニノフ・交響曲第2番で僕の好きな曲だったのでたいへん良かった。この曲は有名な第3楽章adagioがあり、我が家でもこの第3楽章だけを聴いている。気分的に聴きたいときもあるし、音質評価のために聴くこともある。生の演奏を聴くのが初めてだったので楽しみにしていたら、演奏が非常に良かった。本当に涙が出るくらい美しい演奏だった。演奏者はアマチュアだから技術は劣っているはずなのだけれど、我が家のCDで聴くより圧倒的に曲に酔うことができた。
 何でプロの演奏のCDよりアマチュアの生の演奏の方が楽しいのだろうかと考えていたら、「観る音」があるのではないかと思った。

 第一の観る音は指揮者である。指揮者の動作は観衆の注目を集める。指揮者の動作が観衆の気持ちを引っ張っていく。指揮者がある楽器を指示すると僕らもその楽器の音に集中していく。だからその楽器の音が良く聞こえてくる。無意識だと聞こえないが指示されると良く聞こえる。さらに指揮者が音を抑えると、聞く方も耳をそばだてる。この指揮者の動作というのは演奏者ばかりでなく聴衆の聞き方にまでもコントロールする。だから家で聴くCDより圧倒的に多い音楽の情報量がそこで得られる。ここが生の演奏の良いところなのではないかと。他にもある。演奏の中で主旋律以外の演奏もかなり忙しく演奏しているなあと感じることもあり、目で感じると耳もそこに集中する。目からの情報が耳への情報へと移っていく。まだある。同じ旋律を繰り返していると思ったら実は第一演奏者と第二演奏者とが別々に演奏していたというのが分かることもある。こんなことはCDではわかりにくい。
 こんな理屈はどうであれ今回のラフマニノフは大変良かった。更にアンコールにヴォカリーズも演奏してくれて最高だった。最近は東京の夜の演奏は遠慮している。遅くまで東京にいることが出来なくなったからだ。だから必然的に横浜中心の昼の演奏だけが僕のコンサートの条件になっている。
 アマチュアオーケストラだけれどそれでも音楽は十分に楽しめています。


 
 <先にやられた>
2020年2月16日 

先日近くの本屋で立ち読みしていたらドイツのオーディオメーカー「オクターブ」の記事が目に入った。300Bのモノアンプで値段は何とペアで850万円もする。これを買うならドイツ車を買ったほうが有意義だと思うが、真空管アンプにこのような値段をつけることに驚いてしまった。
 記事を少し読んでみたら面白いところがみつかった。それは300Bのフィラメント電源を7Hzの正弦波を使っていたことである。これはフィラメント電源を商用電源の50Hz60Hz)を使わずアンプ内できれいな7Hzを発生させてそれを使っているようだ。
 実はこのアイデア僕も考えていたことだった。昨年9月1日のコラムで書いたことだが、直流点火に疑問をもち、新しい交流点火の方法を考えていた。そのコラムには「考え方はシンプルだが回路はちょっと複雑だ。ちょっとデジタルを使う。」と書いている。ここの時点では詳しいことは書けなかったが、今になって言えば、デジタルできれいな50Hzの信号を作り、それを小さなアンプを使って300Bのフィラメントを温めてみようというアイデアだった。このアイデアが出たきっかけは、300Bの交流点火に使うハムバランサーからヒントを得た。ハムバランサーは中点あたりでハムが一番小さくなる。その時点では理想的には交流信号は見えなくなるはずだが、実際はハム音が残っている。この原因は点火に使用する交流電源が上下対称ではなく歪が残っているからではないかと考えた。前にも書いたが偶数次歪を持つ信号は上下が非対称になるから打ち消すことが難しくなる。だから歪の少ない交流電源を作ってあげれば、ハム音はもっと少なくなるのではと考えた次第。
 大まかな回路はメモ程度に書いてみたり、久しぶりにマイコンプログラムを思い出してみたりしたが実際には何も実験は進めていなかった。
 そうしたら今度のオクターブの記事である。僕としてはちょっとやる気をなくしてしまった。どうせやっても二番煎じだからモチベーションが下がってしまった。記事をさらに読んでいったら、7Hzにした理由はこの程度の低周波だとハム音が聞こえないからだと書いてあった。50Hzではまだハム音が取れなかったようだ。詳しい内容は分からないけれどきれいな50Hzではだめなのかなと思いながら、「先にやられた」とちょっと残念な思いである。


 
 <バイアンプ>
 2020年2月1日 

英語で書くとBiampとなる。ご存じのようにbiというのは2つとか2個とかいう意味のようだ。Bipolar(半導体)、Bicycle(自転車)、Bilingual2か国語を使える)などと同じような使い方だ。今回のバイアンプと言う時はスピーカーシステムの低音用と高音用スピーカーをそれぞれ別のアンプで鳴らすことをいう。3つのスピーカーのときは何と言うのだろう。
 昨年やっとKT88pp(UL)CSPPドライブバランス型パワーアンプが出来、その前に同じ構成のKT66pp(UL)CSPPドライブバランス型パワーアンプが出来ていたから、これでやっとバイアンプができるようになった。両方のアンプのゲインを同じにして、バランス入力信号の分配器を作成し、またKT88パワーアンプ用の電源コードも新しく作成した。電源コードやコネクタ類はオヤイデから入手した。
 結果はすばらしかった。結果とはもちろん音質のことである。アンプの出来もよかったがさらにバイアンプにすると躍動感が増し僕の装置では過去最高の音を奏でている。友人に聞いてもらったところノーチラス805がこんなに鳴るとは思っていなかったと言ってくれた。僕自身もこんな805を聞いたことがなかったので自分自身も驚いている状況だ。
 本当にアナログは面白い。何かをかえれば音も変わってくる。そんな小さな改良を地道に続けてくると次第に性能・音質が上がる。時には大きな改善もあり今回はその大きなステップになったということだ。
 オーディオは一朝一夕には良くならない。小さな改良の積み重ねだ。今はちょっと満足できる何合目かにきたかもしれない。ただこの先の頂上はどこまであるかは分からない。多分頂上にはたどり着けないと思っている。
 まったく自己満足の世界ではあるけれど、自分の中の方法で少しずつ進んでいる実感を味わえるものはいいものだ。
 バイアンプが違う話にとんでしまった。
 マルチチャンネルは大変だけど、バイアンプは調整がないから簡単だから試してみるのも良いと思いますよ。


 
 <令和の大修理>
 2020年1月16日 

今回は個人的な話ですみません。昨年は我が家にとって出費の多い年になってしまった。その原因は我が家の設備や電化製品の故障が相次ぎ、修理や買い替えが増えてしまったことだ。
 先ずは門扉が動かなくなってしまった。女性の力ではなかなか動かないほどで、とうとう修理を依頼することになった。そのついでに雨戸も直してもらおうとそれもお願いした。そうするとこんどはその塗装も頼まなくてはならなくなり、それもお願いした。ここまではここ数年いつか直さなくてはと思っていたので、修理をお願いしたのはしかたがないことだった。
 ところがまだ続きがあった。9月の台風15号の影響で庭木が倒れた。その影響で木製塀が傾いてしまった。こんどは植木屋さんに倒木の後始末とついでに剪定をお願いし、塀の修理はまた工務店にお願いした。これで終わりと思っていたら次はエアコンが故障で動かなくなってしまい、さらにトイレが故障でTOTOからは危ないからトイレの洗浄器は使うなといわれる始末。エアコンもトイレも使わるを得ずこれも修理というより補修部品がなく交換になった。これもまた大出費の大誤算。
 まだ細かな不良は続く。長年使用してきた電気スタンドが壊れ、昨年まで使っていた加湿器が壊れた。ガス、火災警報器の耐用年数が過ぎたので交換してくれとの連絡。ティファールの湯沸かし器は部品が取れてしまってだましだまし使っている。テレビはここ数年縦縞のノイズが出たままで映像を見ている。最近では洗濯機の乾燥ができていないと言われている。

何故こんなにも一度にいろんな製品が壊れるのだろう。確かにエアコン・トイレなどは25年も使用しているので当たり前といえばそうだが、一度に壊れることはないだろうと思う。
 今年はもっと良い年になってもらいたいものだ。昨年の令和の大修理が終わったのでもうこんな出費はないだろうと思うが何とか神頼みで故障してほしくないものだ。
 今年はオリンピックがあり4Kのテレビが欲しいがどうしようかなあ。
 オーディオ装置はほとんどが自作だから壊れてもそれほどの出費にならないが、壊れてもいない。こちらは快調に動作しています。


 
 <2020年正月>
 2020年1月1日 

いつもこのサイトを読んでいただきありがとうございます。
 今年もよろしくお願いします。

昨年はKT88ppULCSPPドライブバランス型パワーアンプの製作で1年が過ぎてしまった。構想から1年半くらいの時間がかかってしまい、やっと完成したアンプになった。
 その影響でその前に作ったKT66パワーアンプのレポート掲載が遅れてしまった。何とか今年はレポートを上げたいと思っています。
 現在このKT88パワーアンプとKT66パワーアンプはバイアンプ用としてノーチラス805をドライブして、これまでにない音を出してくれている。僕としても得ることの多い有意義なアンプ製作の年だった。

今年の計画はまだ決めていない。ちょっとプログラムソフトを組んでみたいと考えている。



左がKT66、右がKT88パワーアンプ。ともにCSPPドライブバランス型パワーアンプ。

 
 <CSPPドライブについて4>
 2019年12月16日 

今回パワーアンプにおける低域の時定数の話。
 僕の設計する真空管アンプは負帰還アンプである。通常NFBをかけたアンプと言われている。なぜ負帰還が必要かは意見の分かれるところだが、僕は出力インピーダンスを重要視するからどうしてもNFBが必要と考えている。さてこのNFBアンプは利点も欠点もある。よくNFBアンプは歪が減ると言われる。実際歪はかなり改善されるがアンプ回路内部をみると面白い動作をしている。入力にきれいな信号が入ると、NFB回路は出力が入力と同じ信号になるように働いている。それで歪が減るのだがこの動作を少し見てみると、もともと真空管自体には歪を持っているのに何故アンプ出力は歪が減るのだろうか、その歪はどこにいってしまったのだろうか。例えば出力管はもともと大きな歪を持ったデバイスなので魔法でもかけない限りこの部分の歪は減らない。それでもアンプ出力の歪が減っているということは、NFB回路というのは出力管の入力には歪を打ち消すような信号が入り、その結果出力には歪の少ない波形が出ているということになる。すなわち出力管が偶数次の歪を持ったデバイスだったら、NFB回路では入力にはこの偶数次の歪を打ち消すような逆相の偶数次歪波形が入力されていることになる。
 次にこの偶数次の歪波形信号はどのようなものなのだろうか。偶数次の歪を持った波形と言うのは実は上下非対称の形をしている。上下どちらかの波形がつぶれ、反対側が伸びている波形をしている。この波形は上の波形(プラス側)面積から下の波形(マイナス側)面積を引いてみてもゼロにならず、これは直流が存在していることを示している。平均値がゼロにならず、これは数式でも証明できる。すなわちアンプ内部では素子に偶数次の歪があるとDC(直流)が生じている。アンプ出力ではDCは必要ないものの、アンプ回路内部ではDC増幅する必要があることを示している。これは面白い現象で何故半導体アンプはDC再生する必要ないのにDCアンプにする必要があるかに通ずる。真空管アンプでも同じ現象があるから、特に歪の多い出力管の前は大きな偶数次歪波形が入力され、そこに小さな時定数ではDCまで必要な帯域が得られない。しかしそこに直結バッファを入れ出力管での時定数は無くし、別のCR結合で時定数を大きくできれば、偶数次歪を持った信号をより正確に伝達することができると考えられる。これが直結ドライブのメリットではないかと推測している。
 もちろん武末氏のグリッドリークの影響もあると考えられるから否定はしないまでも、それだけでは説明できない現象もあるのではという意見だ。
 ほんとうの原因はまだわからないけれど、直結ドライブというのは真空管アンプでは必須ではないと思っている。

 最後にまた武末氏のご意見
 「相変わらずのCR結合で出力管をドライブするなどという無神経な設計が改められようとしません。」
 CSPP
ドライブはこれで終わりにします。

 今年もコラム読んでいただいてありがとうございました。


 
 <CSPPドライブについて3>
 2019年12月1日 

前回までCSPPドライブの低インピーダンスドライブの考察を述べたが、今回は直結回路の効果について述べてみたい。今回のKT88アンプは低域が伸びて、力強い音がする。この効果は直結回路に起因しているのではと思っている。その前にまた武末数馬氏の意見から書いてみる。彼は出力管のドライブは直結にすべきとの持論で次のように述べられている。「CR結合は次段の入力インピーダンスに非直線性がある場合は非直線歪を生じますが、音声信号のような過渡入力によっては過渡ひずみを生じます。特に低内部抵抗の大型出力管では常時グリッド電流が流れ、しかもグリッドの電位は大出力時にゼロに近づき、時にはプラス領域に流れることもある。これは入力信号に比例しない、つまり非直線性を持っている。したがって出力管をCR結合でドライブすることは、過渡ひずみの点から好ましくない。」「従来から直結ドライブアンプの音は伸びやかな印象を与え、特に大出力時にはひずみ音が耳につかない傾向」などと書かれています
 さて僕の意見としては音の伸びやかさということに関して言えば同意見で同じ印象を持っているが、出力管のグリッドの非直線性云々については少し疑問をもっている。それは前回で述べた出力管の影響を調べるドライバの実験では、それほど顕著な影響が現れなかったことによる。ただ過渡ひずみを測定できてないので断言できないが、KT88を使用し比較的小信号でも音の伸びは感じられたのでその原因は別のところからもあるのではないかと思えるからだ。
 では直結回路の他の利点はないだろうかを考えた時、他の利点が一つ上げられる。それは回路の低域時定数の改善だ。直結回路がない場合CR結合の負荷は出力管のグリッドリーク抵抗だ。この値には制限がある。大型出力管のグリッドは武末氏の指摘どおりグリッド電流が流れやすく、このためグリッドリーク抵抗は制限を受け6550では50KΩ以下、KT88では100KΩ以下(共に固定バイアス時)に制限される。しかしバッファを介してドライブした場合、CR結合の入力抵抗はバッファ回路のグリッドリーク抵抗になり、それは通常の電圧増幅管が使われカソードフォロアでは最大1MΩ近くまで増やすことができ、大幅にCR結合の時定数を大きくすることができる。
 それでは真空管パワーアンプではそんなにCRの時定数を大きくする必要があるのだろうか。トランスがありDCまで再生できないアンプなのに内部回路の時定数は大きい値が必要なのか。そんな疑問が湧いてくる。
 今回は紙面がなくなってきたのでこの辺で。
 次回を楽しみに。


 
 <CSPPドライブについて2>
 2019年11月16日 

出力管を低インピーダンスでドライブするやり方を試してみたくなったきっかけは武末数馬氏の製作記事からだ。記事では最高の音質を求めてと題して設計意図が述べられていたが、そのなかでドライブ段について次のような文章があった。
 「たとえば古い出力管や、とくに低rpの出力管を使用したアンプの場合、前段のドライバ管と出力管の縁を切って、ドライバの出力電圧を見ると、思いのほかひずみの少ない大出力電圧が取り出せます。出力管を正規の状態にしてドライバ管を接続すると、トタンにドライバの出力電圧が低下して、ひずみも増大します。・・・・・・」
 この記事を読んだことが以前あったのでそれならドライバ段を低インピーダンスで設計してみよう、それもppCSPPでということになったわけだ。
 さてこの武末氏のご意見は本当なのだろうかとその後僕のアンプで実験してみた。KT88に改造する前の6550アンプでの実験で、出力管あるなしでドライバ管の出力の歪を測定してみたところ、出力管のあるなしにかかわらず1KHz、10KHzの歪特性に大きな変化はなかった。ここで考えられる結論はビーム管のUL接続の出力管ではドライブ段への影響はそれほどないということだ。ただこれは1回の実験だけだから断言するまでは言えないけれどドライブ段で極端にひずみが悪化することは少ないだろうという結論だ。

しかし不思議なことにアンプトータルの歪特性はCSPPドライバがあるときとないときでは歪率が違うことはあきらかだった。これまで低インピーダンスで直結のドライバ回路の無い回路を測定してきたデータと、CSPPドライバのあるKT66KT88アンプの歪特性に違いは明らかにある。これは何が違いを生んでいるのかはまだ分かっていない。少なくともドライバ管の駆動能力の違いによるものではないようだ。今考えられるのは出力管のプレート端子からの静電的か電磁的な戻りによる歪の劣化なのではと推論している。
 ドライバ段の出力信号が出力管からの静電的、電磁的結合により悪影響を受けているというもの。出力管のプレート信号はかなり複雑な形をしている。電圧的にも電流的もだ。まず出力管はAB1クラスで動作しているので上下対称な波形ではなく、片側は大きくその反対側は小さい波形だ。それに真空管自身も歪が大きいからプレート信号波形というのはかなりの高調波が含まれていると考えられる。こんな高調波の多いプレート信号の直ぐ傍に入力のグリッドがあるので、グリッドの信号インピーダンスが高いと影響を受けて歪が悪化するという推理だ。まだ確実な理由ととらえていないが、出力管のドライブは低インピーダンスであるほうが歪が少ないことは明白な結果だ。
 これがCSPPドライブパワーアンプの低歪の特性を生んでいるのではという推論をたてている。また低インピーダンスドライブは最大出力にもいくらか影響してわずかな出力増大の効果もある。電源の効果もあるが今回4Ω負荷での歪特性が素晴らしかったが印象的だった。

 さらに話はつづく。

 
 <CSPPドライブについて>
 2019年11月1日 

KT88pp(UL)CSPPドライブバランス型パワーアンプ>の音質から話を始めると、これもすばらしく僕の製作したアンプのなかでは最高ではないかと思っている。ただしいつも僕は最新作のアンプが最高と常々言っているから至高のアンプというわけではない。新しいアンプは何かしら新しい技術を入れることが多いから音も良くなっていることが多いからだ。(これまででは最高です。)
 さて今回のCSPPドライブのパワーアンプは静かで、柔らかく、そして力強く、定位も良くてかなり満足できる仕上がりになっている。もの静かでやさしくそして力持ちというまるでヒーロー人物のような出来上がりになった。低域についてはスピーカーや部屋の影響もあるので限度があるけれど、全体的に低重心で定位のよい音を出してくれている。
 こんな音質は何故生まれてきたかを考察するのもアンプ設計にはおもしろいテーマだ。前回設計したパワーアンプはKT66CSPPドライブパワーアンプで、今回のKT88アンプと音の傾向が似ている。KT88アンプのほうがトランスや電源の性能が良いのでより低重心な音となっているが、この2つは低音の伸びや定位の良さなどはこれまでのアンプとちがった音質の良さを備えている。この2つのアンプの大きな特長はドライブ段にCSPPの直結バッファを備えたことがあげられる。このCSPPドライブが音質にどんな影響を及ぼしているのかを考察してみたので述べてみたい。
 出力真空管の直前の増幅段を真空管アンプではドライブ段という。ここは通常は増幅段と兼ねているので特別な回路ということはない。ただ回路的に出力管の前にあるだけでドライブ段と言われている。出力管が正常に動作するように十分な信号を送り出す役目だ。出力管の入力すなわちグリッド端子は深いバイアス電圧動作をさせているので、入力信号の振幅も大きなものが必要となる。大電流は必要ないけれど大きな電圧振幅が必要となる。このおおきな振幅信号を送り出すという意味でドライブという言葉が使われているのだろう。
 このドライブ信号というのは出力管のグリッドのインピーダンスが通常高いので大きな電力を必要とせず、増幅回路のプレート出力からカップリング(直流素子用)コンデンサをとおして出力管のグリッドに供給される。多くの真空管アンプはそのような回路になっている。

次に僕がここ2つのパワーアンプにCSPPドライブという回路を入れた理由から話をすすめる。これまでドライブ段をカソードフォロアというバッファ回路を入れて出力管と直結にした回路は多々ある。主にAB2級というグリッドをオーバドライブして出力を上げる手法だ。今回の場合はその理由でなく、単に低インピーダンスで出力管と直結回路でドライブして音質を確かめてみたくなったからだ。そのドライブ回路をこれまでのカソードフォロアではなくpp(プッシュプル)で動作するCSPP回路のほうがグランドの影響が少なくより理想のドライブ回路を考えられるから使用した。 
 話はつづく。

 
 <ほぼ完成>
 2019年10月16日 

ついにと言うかやっとと言うか昨年から作業してきた<KT88pp(UL)CSPPドライブバランス型パワーアンプ>がほぼ完成した。昨年の夏から検討を始めたから1年半ちかくの時間がかかったことになる。それでもほぼ完成としたのはまだ底板の加工・取り付けが終わってなく完成にはまだ少しの時間が必要となる。それにしても長い間このアンプの設計に時間を費やしたものだ。自分用だから気が向いた時に作業をしている状態だったからこんなに時間がかかってしまったのだが。
 今回のアンプは以前実験機として長く愛用してきた6550ppUL)をリメイクしてみようと思い立ったことから構想が始まった。だからトランス、一部真空管、電解コンデンサ、真空管ソケット、端子類など使える部品はすべて再利用している。回路とシャーシは大幅に変更して再設計している。
 回路は出力段はKT88pp(UL)、初段はカスコード接続6922差動入力、2段目は12AU7直結差動増幅、ドライブ段は12BH7AによるCSPP(クロスシャントプッシュプル)回路という構成になっている。アンプ回路は全段プッシュプルのバランス増幅構成でできている。2つの電源トランスを使用し、出力段と電圧増幅段の電源を分けている。さらにメイン電源はSCRによるソフトスタート付きリップルフィルタ、9個の定電圧電源など今考えられる回路をすべてつぎ込んでみた。そのためレイアウト設計や回路確認に手間がかかってしまう原因を作ってしまったが、出来てみれば良くやったと自分をほめてやりたい仕上がりになった。
 アンプの特性はすばらしかった。

 出力        25W8Ω)、50W4Ω)
 f特          20Hz-0.1dB)~65KHz-3dB
 歪(1KHz,1W)   0.008%8Ω)、0.01%4Ω)
 セパレーション(1KHz)  99dB
 D.F1KHz)      
28

 ノイズ(入力換算)  -118dB
 という結果になった

 僕がこれまで設計したアンプでは最高の特性になった。
 今後はこれが僕のメインのアンプになる予定だ。
 ここまで特性が良いと音が気になるところだがそれは次回まで。




 
<10月になってしまった> 
 2019年10月1日 

もう10月になってしまった。9月はいろいろ忙しかった。実家で弔事があったり、台風15号の影響で庭木が倒れその後処理をしたり、またもともとこの時期に家のメンテナンスが予定されていたので工務店さんの対応をしたり、まあいろいろありました。
 今はもう落ち着いた生活にもどったが、アンプの製作も少し停滞してしまった。忙しかった理由でアンプの完成が遅れている言い訳をしているが、最初の設計のまずさもあってスムーズに動作がしなかったのが本当のところだ。
 KT88pp(UL)バランス型CSPPドライブパワーアンプはちょっと欲張った設計をしたせいで、動作確認もちょっと複雑になり、いざ動作を確認してみたらこちらもいろいろトラブルが出てきた。一応動作はしているのだが思ったような性能が出ていないのが大きな問題だった。前回のコラムでは出力管のバイアス調整がうまくいかないと述べたが、これは対策ができ少しばかりの回路変更で対応できた。ところが動作させてみたら裸ゲインが全然足りないことが判明した。僕のアンプはいつも高DF(ダンピングファクター)をねらうので、どうしても高NFB(負帰還)にしている。負帰還アンプを嫌う人が多いが、僕はまったく気にしない。20B近いNFBをかけても音は柔らかく嫌な音になるとは思っていないからだ。
 それはそうとして裸ゲインがたりない原因は初段の定数設定に問題があった。今回初段を高Gm管の6922を使用していて、ゲイン、ノイズをよくする手段を選んだつもりがその性能を十分出せる設定になっていなかったのだ。すでに半田付けしてある部品をはずして新しい部品に交換うるのはちょっと心苦しいが、思い切って新しい定数に交換した。また他には手元にある古い真空管で動作確認をしていたら、それも問題で12AU7に不良がみつかったり、なかなかスムーズに進めない状況であった。
 先日最終的に使うKT8812AU76922などを秋葉原で購入した。これから最終的な部品で動作確認、データ取りを行う予定だ。音出しはまだちょっと先になるかな。
 今の計画ではこのKT88パワーアンプが出来たら、KT66パワーアンプと一緒にバイアンプにして鳴らしてみたいと思っている。
 KT88アンプがうまくいけば、たぶんこれが我が家の標準システムになる予定だ。

 非常に楽しみ。

      秋葉原で購入した真空管


 
 <9月>
 2019年9月16日 

今の僕の関心事は台風15号のことだ。99日未明に神奈川県・千葉県に上陸し、想像以上の被害をもたらしている。横浜でも強風が吹き、我が家の庭木2本が倒れてしまった。そのうちの1本がお隣の家にごく僅かだがご迷惑をおかけしている。
 実家のある千葉は被害がひどいようだ。断水・停電が続きさらに台風後の気温上昇で生活も大変だったらしい。幸い家の被害は無かったから、時間が過ぎれば元の生活にもどれるが、それでも電気のこない生活は大変だったらしい。冷蔵庫が使えない、クーラーなし、シャッターが電動であったため窓も開けられず蒸し風呂状態だったようだ。しかし12日には電気が復旧し、ようやく普段の生活に戻れたようだ。兄の話だとLEDのランタンがこんな時便利で良いと話していた。
 ところが、別の地区に住んでいる友達のところはまだ電気が届いていない。テレビのニューズによれば電柱は折れ、倒木が電線にかかったりしてなかなか回復作業が進んでいないのを見るとこんな状態なのかと想像してしまう。千葉県ではこれまで台風の大きな被害にあったとこはないと記憶しているが、これも地球温暖化の影響によるものかかと想像してしまう。これからはこういう台風被害が増える傾向にあるのだろう。我が家の庭木も高さを制限するように切ってもらった。近隣に迷惑をかけられないし、今後もこのような強力な台風は増えるだろうから。

KT88アンプはこんな状況もあり大きく進んでいない。しかしアンプはほぼ動いている。ほぼと言ったのは回路自体は動いているが、設計でもくろんだ動作点より少しずれているので微調整している。一番予想外だったのが出力管のバイアス調整回路のズレだ。前段のドライバー管を12BH7で設計したが、この管のバイアスが想定していたより深いバイアス値になっていて、その影響で出力管のバイアス調整回路の見直しにせまられた。今はどこを直すかの実験をしていたが、解決策が分かってきたのでもう少しでこの問題も解決するだろう。

 千葉県の被害を考えると、電力効率の悪い真空管アンプを作って楽しんでいてよいのだろうかと思う。これまで何も気にせず電気を使ってきたが、実際電気がないと何もできないようだ。地球温暖化への影響もあり電気は大切にと思う。




 
 <300B>
 2019年9月1日 

300Bとは出力管の名前。直熱3極管で何故か日本では人気がある。特にウエスタン製のWE300Bというのが一番人気のようだ。僕は直熱管は使いにくいからこれまで設計したことがない。一度だけお客様からお借りして300Bシングルアンプを聴いたことがある。特にすばらしい音をしていた印象はない。アンプは出力管だけで音が決まる訳ではないので、回路、電源、配線、特性など様々な要素がからんでくるから一つの部品で音をうんぬんするのは適切ではないと考えている。
 今回300Bの話を持ち出したのは、以前いただいたアンプに使われているトランス類がちょうど300Bアンプに使用できるものなので、いつか作ってみようかと考えていたことから話が始まる。
 先日本屋さんで立ち読みをしていたら、上杉研究所の広告蘭に300Bの宣伝が載っていてフィラメントの点火方式を新しくして音質を上げたということが書いてあった。直流点火は音が悪い。交流点火はノイズが多いが音は良い。新しい交流点火方式は交流点火だけれども、ノイズの特性を分析しそれを打ち消すような点火方式だという。(もし正しい認識でなかったらすみません。)
 実際いくつかの300Bの製作例をみると、昔は交流点火であったけれど、半導体が導入されるようになると、ほとんどがハム音の少ない直流点火になっている。ところがこの直流点火方式というのは音が悪いというのが、世間(一部)の評判のようだ。
 実は僕が300Bの回路を考えるに当たって一番の問題はこの点火方式だったのだ。だから上述した広告にすぐに目がいったのだが、その問題点というのは次のようなことだ。
 フィラメントを直流で点火し、またハムバランサーで中点電位から信号電流を取り出す方法は欠点もある。それはフィラメントの両端で電位差があるので、両端ではグリッドとの電位差が異なるしプレートとの電位差も異なってしまう。だから微視的にみると電子はフィラメントの片側に偏った流れになっている。これではエミッションの効率がよくないのではないか。この状態で本当に300Bのエミッション特性が得られるのかが疑問だった。また交流5V点火と直流5V点火では、エミッション特性的に等価なのかどうか。こんな疑問を直流点火についての疑問を抱いていたので、交流点火の方が音が良いという件にちょっとはまってしまった。
 実際音がどう変わるかは分からないが、直流点火にも何か欠点があるようだと感じながら何となくどういう回路ができるのだろうかと考えていたら、それが新しい点火方式のアイデア創出となった。
 考え方はシンプルだが回路はちょっと複雑だ。ちょっとデジタルを使う。特許にしても良い位自分では面白いと思っている。まだアイデアの段階だからこれが成功するか実現するかはまだ分からない。ただもし自分が300Bのアンプを設計することになったら、この新しい点火方式を試してみるかもしれない。


 
 
 

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